第147話 迫る足音
そのとき――
目の前の人型兵器が、真っ二つに斬り裂かれた。
剣を手にした青年が床を蹴り、ほかの人型兵器との距離を一気に詰める。
ザシュッ――!
二体、三体、四体、五体。
次々と刃が人型の装甲を断ち切っていく。
広間が静まり返った。
何が起きたのか、二人には理解できていないようだった。
ただ呆然と、目の前の光景を見つめている。
黒い外套をまとった、ひとりの青年剣士。
「剣の兄ちゃんか?」
――――――
「レイスさん!」
ライルさんとビルさんが、僕に追いついた。
レイスと呼ばれた男は、二人の姿を見て目を見開いた。
「ライル……それにビルか。どうしてお前らがここに……」
ライルさんは安堵した表情で事情を告げた。
「ブルーシャークの消息が分からなくなって、傭兵組合から捜索の依頼が出たんです。
それで、ロキさんに協力してもらって、ここまで来ました。
沖に、船も待機してます」
ライルさんが答えると、レイスさんは僕へと視線を向けた。
「そうだったのか……。もう終わりだって、覚悟したぜ」
レイスさんは、深々と頭を下げた。
「本当にすまねぇ。兄ちゃん……」
「気にしないでください。困ったときはお互い様です。
でも――まさか、こんな場所があるなんて」
僕は周囲を見回した。
魔導兵器の残骸が転がる広間。
砕けた床や壁には、激しい戦闘の跡が残っている。
ここまで生き延びるだけでも、どれほど過酷な戦いを強いられたのか。
そのとき、ライルさんが周囲を見回して口を開いた。
「……向こうにネルさんの亡骸がありましたが」
「ああ……」
レイスさんの表情が曇った。
「魔導装置の攻撃を食らってな。
負傷した足じゃ、とても逃げきれなかったんだ」
苦々しげに顔を歪め、レイスさんは続けた。
「ジースとバズも、さっきの人型兵器に吹っ飛ばされちまった。
死体もまともに残ってねぇだろうよ……。
生き残ったのは、俺とロドルだけだ……」
その視線の先には、壁にもたれかかるようにして座り込んだ男がいた。
ロドルさんだろうか。
彼は荒い息を繰り返し、今にも意識を失いそうだった。
「ロドルさん……!」
ライルさんが駆け寄り、彼の身体を確かめる。
「ひどい出血だ……それに、火傷も」
衣服は焼け焦げ、露出した肌には痛々しい火傷が広がっていた。
「魔力も治療薬も使い果たしちまった。食料すら残ってねぇ……」
レイスさんは悔しそうに唇を噛んだ。
僕はすぐに鞄を下ろし、中から治療薬を取り出した。
魔法薬工房のカーミラさんが餞別にくれたものだ。
口の悪いお姉さんだけど、薬師としての技術はエルミナ共和国一だ。
「これを使ってください」
僕は治療薬を差し出した。
「ロドルさんにも……」
レイスさんは差し出された薬を見つめたあと、僕へと視線を戻した。
「……いいのか、兄ちゃん? 本当にすまねぇ。恩に着るよ……」
僕はロドルさんの傷を確認し、治療薬を使わせた。
出血はひとまず落ち着いたものの、火傷もひどく、すぐに動ける状態ではない。
無理に動かせば、かえって命に関わるだろう。
「ロドルさんは、ここで休ませたほうがいいですね」
「そうだな……」
レイスさんが苦々しげに呟いた。
――――――
ライルさんは広間の奥と、後ろの通路を交互に見やった。
「このあと、どうします?」
レイスさんは壁に手をつき、ゆっくりと立ち上がった。
「こんな状態じゃ、戻っても魔導装置の餌食になるだけだな。
俺たちも、逃げ回るだけで精一杯だったんだ」
確かに、正面から突破しようとするのは自殺行為だ。
「……ほかに道はないんですかね?」
ライルさんが尋ねると、レイスさんは広間の奥へと目を向けた。
「この先に部屋がある。だが、そこが行き止まりだ」
「行き止まり?」
「ああ。部屋の中央に、台座みたいな装置があってな。
何に使うもんなのか、さっぱり分からなかった」
レイスさんは顔をしかめた。
「どうにか脱出できねぇかと思って辺りを調べてたら、あの人型兵器が襲ってきたんだよ」
そのとき――
――ガシャ……。
不意に、背後から金属の擦れ合う音が聞こえた。
全員が一斉に振り返る。
――ガシャ、ガシャ……。
音は少しずつ近づいてくる。
まるで、金属の塊が床を踏みしめながら歩いているかのようだった。
「……おい、まさか」
ライルさんの顔から血の気が引いた。
「奴らだ……。また来やがったんだ」
足音は一体分ではない。
複数の足音が、こちらへと迫ってくる。
「くそっ……!」
レイスさんが魔導砲を構える。
僕もすぐさま剣の柄に手をかけた。
だが、皆が満身創痍だ。
この場で迎え撃つのは危険すぎる。
逃げ道は、ない。
「いよいよ終わりか……」
レイスさんが、諦めたように呟いた。
「とりあえず、先に移動しましょう。
ここで挟み撃ちにされたら、ひとたまりもありません。
――向こうで迎え撃ちましょう」
僕がそう告げると、レイスさんはハッとしたように顔を上げた。
「ああ、そうだな……!」
ライルさんが、すぐさまロドルさんのそばに駆け寄った。
「ロドルさんは俺が背負います。急ぎましょう!」
ライルさんはロドルさんを背負い、立ち上がった。
僕たちは迫り来る足音を背に、広間の奥にある部屋へと急いだ。
――――――




