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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第21章 残された足跡を辿って
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第144話 山に眠る謎

 ライルさんは身をかがめ、土の剥がれた部分をじっと見つめていた。


 指先で周囲の土を払い、杖の先で表面を軽くなぞる。

 露わになったのは、銀色の物質だった。


 光を受けるたび、表面がかすかに輝いている。


 「この輝き……ミスリル鉱石か?」


 ライルさんは首を傾げ、さらに表面を拭った。


 「いや、違う……。こんなになめらかなはずがない」


 彼は目を細め、指先で表面をなぞった。


 「自然にできたものじゃない。

  明らかに人工的に加工されている……。まさか、ミスリル合金か?」


 「ミスリル合金だって!?」


 ビルさんが、驚いた声を上げた。


 僕も思わず、露わになった銀色の表面に目を向けた。


 ミスリルは、魔道具や武具の素材としても貴重な金属だ。

 それを合金に加工するには、高度な技術が必要になる。 


 それが、こんな山の中に埋もれているなんて。


 「どうして、こんなところに……」


 ビルさんが、呆然とつぶやいた。


 僕たちは顔を見合わせた。


 ただの岩山だと思っていた場所に、人工物が埋まっている。

 しかも、それが貴重なミスリル合金……。


 ライルさんは、山腹に広がる奇妙な地形を振り返った。


 「まさか、あれも……?」


 露わになった銀色の表面を見つめ、彼は愕然とした。


 「馬鹿な……。これだけの山だぞ。

  いったい、どれだけ埋まっているっていうんだ?

  そもそもミスリルなんて、その辺の職人が加工できる代物じゃねーぞ」


 僕の外套にも、ミスリル合金の欠片が仕込まれている。

 これを仕立ててくれたのも、エルミナで一番の鍛冶職人、ラグさんだ。 

 素材の調達から加工まで、容易にできることではないのは僕にもわかる。


 ライルさんが、周囲の斜面を見回した。


 「最初からおかしいと思っていたんだ。

  岩肌の形も、地面の盛り上がり方も、普通の山とは違う……」


 ライルさんは険しい表情で、目の前の山を見上げた。


 「なんなんだ、この山は……」


 誰も答えられなかった。


 僕たちは互いに顔を見合わせたまま、しばらく沈黙していた。


 ――――


 ――――


 「悪い。不謹慎なこと考えちまった。

  これ持ち帰ったら、大金持ちになれるんじゃねーか」


 ライルさんが、気まずそうに頭をかいた。


 「けど、魔法をぶつけても傷ひとつつかねえ。

  つるはしやハンマーで叩いても、先に道具の方が壊れちまう。

  俺ら傭兵がどうこうできる代物じゃねーよ」


 ビルさんが、呆れたように肩をすくめた。


 僕は胸騒ぎを覚えた。


 「ブルーシャークが危ない……。

  やはり、この島は普通じゃない。急いで、彼らに追いつかないと」


 二人は表情を引き締め直した。


 「ああ、急ごう」


 ――――――


 山肌を調べながら進んでいると、岩陰に不自然な隙間があるのが目についた。


 人ひとりが、ようやく通れるほどの幅しかない。

 だが、隙間の奥には、周囲の岩肌とは明らかに異なる、滑らかな銀色の表面が覗いていた。


 ブルーシャークも、これに気づいたのだろうか。

 狭い隙間の手前には、かすかな血痕が残されていた。


 「……この先か」


 僕は身をかがめ、隙間の奥を覗き込んだ。

 暗闇の向こうから、ひんやりとした空気が流れてくる。


 ライルさんが、緊張した面持ちで喉を鳴らした。


 ――僕たちは顔を見合わせ、慎重に中へと足を踏み入れた。


 わずかな隙間を抜けるたび、頭上の岩が迫ってくるように感じた。


 やがて、足元が下り坂に変わった。


 暗闇の先へと続く道。どこまで続いているのか、ここからではわからない。

 それでも、地面にはところどころ血痕が続いていた。


 濡れた岩に足を取られ、思わず身体が傾く。


 「っと……!」


 とっさに壁へ手をつき、なんとか踏みとどまった。


 足元を確かめながら、さらに奥へと進んでいく。


 ――――――


 どれほど下っただろうか。


 ふいに、岩肌の感触が変わった。


 手をついた壁は、自然の岩とは思えないほど滑らかだった。


 僕は足を止め、暗闇の先を見つめると、奥へとまっすぐ伸びる洞窟が広がっている。

 さっきまでの狭い隙間とは違い、人が並んで歩けるほどの広さがある。


 洞窟のようではあるが、どこかおかしい。


 道は曲がりくねることなく、奥へ向かって一直線に続いていた。

 壁はごつごつとした岩肌に覆われ、ところどころ崩れた岩が床に転がっている。


 それでも、自然にできた洞窟にしては、あまりにも整いすぎていた。


 やがて、岩肌が途切れた。


 その先に現れたのは、奥へと伸びる通路だった。


 壁も床もひどく傷み、ところどころ崩れている。

 長い年月を経て朽ち果てたかのようだったが、平らな壁面や整然とした床は、自然にできたものとは違っていた。


 ――明らかに人工物だ。


 「……なんなんだ、ここは」


 ライルさんが、呆然と呟いた。


 「……こんな造りの建物、見たことねえぞ」


 ビルさんも、落ち着かない様子で周囲を見回した。

 僕たちは目の前に広がる光景に、しばらく言葉を失っていた。


 山の内部に、こんなものが隠されていたなんて。


 僕はふと、足元に目を落とした。


 薄暗い床の上に、血痕が続いている。

 ブルーシャークは、この通路の奥へ進んだようだった。


 「進みましょう」


 ――――――


 僕たちは警戒を強め、恐る恐る、通路の奥へと進んだ。


 ライルさんは、杖を構えたまま、何度も周囲を見回している。


 通路は奥へ進むほど整った造りになっていた。


 壁も床も、岩ではない。

 鈍い光沢を帯びた金属のような素材が、通路を形作っている。


 しばらく歩くと――


 足元には、奇妙な物体がいくつも転がっていた。


 僕は、そのひとつに目を向けた。


 獣のような形をした物体だった。

 表面は硬質な金属に覆われ、胴体にはいくつもの穴が開いている。

 四肢らしき部分は不自然に折れ曲がり、動く気配はない。


 ふと周囲に目を向けると、壁のいたるところにも穴が開いていた。 


 「……なんだ、これ」


 ライルさんが、恐る恐る近づいた。


 「魔獣……じゃねえよな?」


 「生き物じゃないな」


 僕も答えられなかった。

 いったい、ここは何のために造られた場所なのか。


 そのとき――


 ――ジィィィィンッ!


 耳をつんざくような甲高い音が、通路に響き渡った。


 同時に、壁の一部が赤く明滅する。


 「なっ……なんだ!? 何がおきてる?」


 二人は、慌てて杖を構えた。

 僕も周囲に目を走らせる。


 だが、何が起きているのか分からない。


 その瞬間だった――


 目の前のライルさんの頭部に、赤い光が灯った。


 小さな赤い点が、額のあたりにぴたりと張りついている。


 何だ?


 そう思った直後、僕の背筋に悪寒が走った。


 「危ないっ!」


 僕はとっさにライルさんの身体を突き飛ばした。


 次の瞬間――


 青白い光が、さっきまでライルさんの頭があった場所を貫いた。


 轟音が響き、背後の壁が弾ける。

 光が通り過ぎた壁面は、赤く焼けただれていた。


 「な……なんだ、今の……!」


 倒れ込んだライルさんが、顔を青ざめさせた。


 僕は返事をする余裕もなく、光が放たれた方向を探した。


 壁の一部が開き、筒状の何かがこちらを向いていた。

 

 それが、ゆっくりと動く。


 ――ギィィィィンッ!


 今度は、ビルさんの胸元に赤い光が浮かび上がる。


 さらに、僕の身体にも。


 赤い光は、次々と皆を捉えていく。


 「赤い印が狙いだ! 光の射線に入るな!」


 叫ぶと同時に、僕は床を蹴った。


 「走れっ!」


 青白い光が、立て続けに通路を薙いだ。


 壁が砕け、床が溶け、逃げ遅れたビルさんのすぐ脇で爆ぜる。


 逃げ場の少ない通路に、警告音が鳴り響き続けていた。


 僕たちは、正体も分からない何かに狙われながら、必死に走るしかなかった。


 ――――――


 ――――――

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