第141話 託された願いを胸に、未知なる海へ
カルディナ港は、朝の陽光に照らされ、活気に満ちていた。
帆を広げた商船が次々と港を離れ、潮風が頬を撫でていく。
空は青く澄み渡り、海面には陽光がきらきらと反射していた。
そんな港の一角に、僕たちが乗り込む、漁船ほどの大きさの船が停泊していた。
だが、小ぶりな船体に反して、船縁や甲板は堅牢で、細部に至るまで精巧に造られているようだった。
「ロキさん。こちらです」
傭兵組合の受付、リグナさんに呼ばれて近づくと、その隣には、先日の船長さんが立っていた。
「ロキさんはご存じですね。ロイス船長です。
今回の調査にロキさんが向かわれると聞いて、自ら協力を申し出てくださったんです。
この辺りの海のことはよくご存じですから、頼りになると思います」
ロイス船長は、にかっと笑った。
「私もロキさんには助けられましたからね。
それに、組合の傭兵が減ってしまったら、私たち船乗りも困るんです。
ぜひ協力させてください」
「お願いします。心強いです」
ロイス船長が船へ目を向けた。
「これが今回使う船です。帆船をベースに、風の魔力を推進力へ変換し、船体の浮力を安定させるなど、最新の魔工技術が応用されています。
小型で小回りが利きますし、船足もなかなかのものですよ」
小型ながら、安定性と機動力を重視した造りの立派な船だった。
調査や救助といった、迅速な対応が求められる任務にはうってつけだろう。
「こんな立派な船を用意していただいて、ありがとうございます。
これなら予定より早く目的地に着けそうです。」
僕が礼を述べると、リグナさんは微笑んだ。
「護衛の方々も、傭兵組合から手配しています。
船の守りは彼らに任せて、ロキさんは調査に専念してください」
船のそばでは、数人の傭兵たちが装備の確認を進めていた。
杖や魔道具、食料などを一つずつ念入りに点検している。
「それから、こちらをお渡ししておきますね」
リグナさんが差し出したのは、口にくわえるための筒状の魔道具だった。
表面には小さな穴がいくつも開いており、見慣れない形をしている。
「これは、漁師が水中で呼吸する際に使う魔道具です。
効果は五分程度ですので、使用する際は十分に気をつけてください。
ほかにも、海で使える道具をいくつか船に積んであります」
海底の調査では、水中で活動することも考えられる。
こうした道具まで用意してもらえるのはありがたかった。
準備が整い、僕たちは船へと向かった。
――そのとき。
背後から声がかかった。
「ロキさん!」
振り返ると、ユリシス殿下とティアさんがこちらへ歩いてくるところだった。
ユリシス殿下は緊張した面持ちで僕の目を見た。
「どうか、お気をつけて。ご武運を」
「はい。必ず、手がかりを見つけてきます」
僕はそう答え、軽く頭を下げた。
ティアさんも小さく頷き、僕たちを見送ってくれた。
――やがて、船員たちの威勢のよい声が港に響き渡る。
「出航ー!」
係留索が解かれ、帆が風をはらむ。
船体がゆっくりと岸壁を離れると、船尾の魔工機構が低く唸り、船は滑るように進み始めた。
港には無数の帆が並び、大小さまざまな船が行き交っている。
岸壁では、人々が忙しなく荷を運んでいた。
港の景色が、少しずつ遠ざかっていく。
潮風が外套をはためかせ、船首が白波を切り開く。
眼前には、どこまでも広がる青い海。
僕たちの船は波をかき分けながら、まだ見ぬ海域へと進んでいった。
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