第14話 笑い声の残酷さから逃げた先に
――魔法実技の授業。
広い訓練場に、火・水・風……次々と魔法が放たれていく。
僕は列の端で、ただ見ているしかなかった。
「次の者、前へ」
ミール先生の指示が飛ぶ。
火属性のジョシュアが前に出て、軽く指を鳴らすと、赤い火花が勢いよく散った。
「おいロキ、気をつけろよ?」
わざとらしい声とともに、火の粉が僕の足元へ飛んでくる。
熱さに思わず身を引くと、周囲からくすくす笑いが漏れた。
水属性の女子ミランダが笑いながら言う。
「かわいそうだよ。彼、魔欠なんだから火傷しちゃう」
そう言いながら、彼女は楽しそうに水弾を僕の肩へ向けて放った。
冷たい水が服に染み込み、僕は小さく震えた。
さらに、風属性のエルフ・エレーナが前に出る。
「服を乾かしてあげないと」
そう言って、彼女は軽く指を振った。
突風が僕の足元をすくい、身体が前につんのめる。
地面に手をついた瞬間、泥が跳ねて制服が汚れた。
「女子は容赦ないなー」
誰かの笑い声に同調するように、周囲の笑い声が重なった。
その時――
「おまえら、やめないか!」
低く、鋭い声が訓練場に響いた。皆の視線が集中する。
ミール先生が歩み寄り、生徒たちの前に立つ。
「勝手な行動をとるな。授業中だぞ」
その声は鋭く、授業の秩序を乱した生徒たちを容赦なく叱った。
──授業が終わり、僕が廊下を歩いていると、背後から声が聞こえた。
「お前のせいで先生に怒られたじゃないか」
「そうよ。あなたが魔法使えないのが悪いのに、なんで私たちが怒られなきゃならないわけ?」
ジョシュアやミランダたちが、じりじりと距離を詰めてくる。
嘘だ……君たちには、僕に意地悪しようとする意思があった。
でも、言い返せない――頭が痛い。
喉が固まって、怖くて声が出なかった。
ジョシュアが僕を睨む。
「こいつ見てるとイライラするな」
エルフのエレーナが指を弾くと、風が巻き起こり、僕のカバンが宙に浮いた。
――ばさっ。
教科書が廊下に散って、笑い声が広がる。
声が出ない――震える手で必死に教科書をかき集めた。
(なんでこんなことするの……僕のこんな姿を見たら、アミリアは……)
僕は逃げた――振り返らず、走って逃げた。
どこへ向かうのかも分からないまま、ただ逃げた。
涙で視界が霞む。
足音だけが、廊下に響いていた。
――――――
気づいたとき、僕は学院の敷地を抜け、街を走り抜けていた。
息が切れ、足が止まる。目の前にあったのは――あの孤児院だった。
夕暮れの光に照らされた鐘楼。
子どもたちの笑い声、ローレットさんの優しい声が聞こえてきそうな空気。
僕は、無意識にここへ来ていた。楽しかった日々に戻りたかった……
でも、ここは僕の帰る場所ではない……分かってる。
分かってるのに――僕は、孤児院の前から離れられなかった。
胸の奥がずっと痛くて、苦しくて、悔しくて涙が止まらなかった。
くしゃくしゃの顔のまま、孤児院の前に立ち尽くした。
「アミリア……ごめん……やっぱり僕……もう……」
言葉が喉の奥で止まった。
言ってはいけない……
この先を言ってしまったら、君との思い出も、あの日の約束も全部壊れてしまう。
強くなりたいのに、守りたいのに、逃げてばかりの自分が情けなくて、苦しくて、胸が締めつけられた。
涙で視界が霞む……




