表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第3章 無色の烙印と魔導学院
13/38

第13話 夕暮れの孤児院

 授業終了の鐘が鳴った。

 教壇の前で、コレッタ先生の落ち着いた声が響く。

 「今日はここまで。来週から本格的に授業がスタートしますので、寮の荷物などの整理をこの週末にしっかり済ませておくように。」


 周囲がざわめき、椅子が動く音が広がる。

 けれど――僕は、まわりを見ることができなかった。

 視線を上げれば、誰と目が合うのか分からない。その怖さが、胸の奥で固まっていた。


 ――寮に帰ろう。


 廊下には、新入生の明るい声が満ちていた。

 「あなたどこの出身?」

 「あ、私と隣の町ね」

 みんな、自然に輪をつくっている。

 笑い声が重なり、廊下の空気が温かく揺れていた。


 でも――その輪のどこにも、僕の居場所はなかった。

 誰も僕に話しかけない。目が合っても、すぐにそらされる。

 出身地の話も、自己紹介も、僕の周りだけ、ぽっかりと空白になっていた。


 声は届くのに、僕だけが本当に“色のない透明”になったみたいだった。

 胸の奥が、じんわりと痛む。


 ――――――


 寮は学校から歩いて五分ほどの場所にある。

 男子寮と女子寮が並んでおり、その間には、男女共通のラウンジや自習室が設けられていた。

 周囲には小さな商店や食堂も多く、生活には困らなさそうだ。


 敷地全体が、魔法の学習に最適化されているのが分かる。

 この国が魔法教育をどれほど重んじているのか――その空気は、建物の隅々にまで染み込んでいた。


 けれど――その整った環境の中で、僕だけが“無色”なのだと思うと、胸の奥がまた少し沈んだ。


 身支度を整え、日用品の買い出しのために街へ出ることにした。

 寮の玄関を出ると、夕方の光が石畳を淡く照らしていた。

 新しい生活の始まりなのに、足取りはどこか重かった。


 買い出し袋を片手に歩いていると、ふと視界の端に、どこか“懐かしい”雰囲気の建物が入ってきた。


 ――孤児院だ。


 広い敷地の向こうに、子どもたちの姿が見える。

 はしゃぐ声が風に乗って響き、夕方の光が揺れる影を長く伸ばしていた。

 その中で、五十代から六十代ほどの《優しげな男性》が、子どもたちを静かに見守っていた。

 この施設の院長なのだろう。


 建物の奥には、古い教会の鐘らしきものが見えた――もとは修道院だったのだろうか。

 その空気を吸った瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられた。


 (……村の孤児院に帰りたいなんて思ってはいけない)


 買い出しの袋が、手の中で少しだけ重くなる。

 笑い声が風に乗って届く。懐かしいのに、どこか遠い。

 あの頃の僕が――まだ“魔法が使えない”という事実を知らなかった頃の僕が、この敷地の向こう側にいるような気がした。


 夕暮れの光に照らされた孤児院を見つめていると、アミリアと過ごした日々が、呼び戻されるように蘇ってきた。

 小さな庭で、二人で摘んだ花。

 アミリアが笑いながら、僕の袖を引っ張った感触。

 礼拝堂の隅で、こっそりおやつを分け合ったこと。

 アミリアの声は、いつも明るくて、僕を世界の中心に引き戻してくれた。


 あの時間はもう戻らない……


 ――――――


 長い一日だった。

 胸の奥がずきずきして、まるで心そのものが疲れ果ててしまったみたいだった。


 寮の部屋に戻り、ベッドに腰を下ろした瞬間、全身の力がふっと抜けた。

 枕に顔を埋めると、今日あったことが、ひとつひとつ、静かに沈んでいく。


 僕は、そのまま深い眠りへ落ちていった。――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ