第12話 沈黙の属性検査
この学院には、火・水・雷・風・土・闇の六属性からなる“魔法科”と、女神から魔法の色(加護)を与えられなかった“無色”の生徒が学ぶ魔工科がある。
その歓声の中に、無色の少年の居場所はなかった。
――次は僕の番だ。
妙に落ち着いている。結果は薄々分かっている。
測定器は沈黙したまま微動だにしない。
検査官の眉がわずかにゆがむ。
淡々とした表情の奥に、“指導が面倒だな”という色が隠しきれずに滲んでいた。
「……次の生徒」
僕に向けられた言葉は何もなかった。
名前も、番号も、確認すらされない――まるで、最初から“そこにいなかった”かのように。
胸の奥が、静かに沈んでいく。
新入生百八十名のうち――色がなかった学生は、ただ一人。
覚悟はしていた。
「……あいつ、魔欠だって」
「なんで魔導学院なんか来たのかな」
ヒソヒソ声が、まるで冷たい霧のように耳へ入り込んでくる。
貴族だから意地悪、平民だから優しい――そんなことはない。
色を持っている平民の男子も女子も、同じように僕を見ていた。
人は、自分より劣るものを見下す生き物だ。
十三歳になっても魔法が開花しなかった僕は、こうなることを薄々覚悟していた。
ただ――アミリアと、ますます距離ができてしまう。それが一番辛かった。
虚無感、屈辱――僕をかろうじて繋ぎとめているのはアミリアとの約束。
あの時のアミリアの声が脳裏で響く。
――『ロキのこと……ずっと待ってる。』
僕は、自分の小指を見つめた。アミリアと結んだ、あの約束。
――――――
属性検査が終わると、僕たちは先生に引率され、学院の奥へと歩いていった。
案内されたのは、広い教室だった。
段差のついた座席が半円状に並び、中央には魔法陣の刻まれた演台がある。
天井は高く、壁には六属性の紋章と、魔工科を象徴する歯車の紋章が飾られていた。
新入生たちのざわめきが、広い空間に淡く反響している。
どこに座ればいいのか、少し迷った。
誰も僕を気にしていないのに、なぜか視線だけが痛かった。
やがて、担当の女性の先生が前に立った――彼女はコレッタ先生だそうだ。
オリエンテーションが始まった。
「一年生は、まず全員が合同で基礎課程を受けます。二年生に進級すると、適性や希望に応じて専攻課程に進むことになります。」
淡々とした説明が続き、胸の奥に小さな不安が沈んでいくのを感じた。
オリエンテーションが終わると同時に、先生は手元の資料を閉じた。
「では、さっそく魔法学の基礎から授業を始めます」
ざわめきが止まり、教室の空気が一気に張りつめる。
僕の胸の奥にも、小さな緊張が静かに灯った。
コレッタ先生が、教壇の前で手を組んだ。
「それではみなさん。指先に魔力を集中し、魔力を顕現してみましょう」
教室の空気が一斉に張りつめる。新入生たちは息を整え、指先へ意識を向けた。
次の瞬間――教室のあちこちで、光がともり始める。
赤、青、黄、緑、茶、紫――六属性の色が、次々に指先に宿っていく。
「できた……!」
「見て、私の水魔力……!」
ざわめきが広がる中、光らない指先は、僕だけだった。
周囲のクラスメイトが、不思議そうに、あるいは距離を置くように僕を見る。
コレッタ先生の視線が、一瞬だけ僕の指先に向けられた。
「……集中して」
その声には、“魔法が扱えるのが当然”という空気が滲んでいた。
できない僕が、異物のように浮かび上がる。
僕は息を吸い、もう一度、指先に意識を向けた。
けれど――沈黙だけが返ってきた。
ヒソヒソ声が、またじわりと耳の奥に染みこんでくる。
「あいつじゃない?」
「1人だけ属性検査で“色”がなかったって」
「そんな人、本当にいるんだ……」
声は小さい。けれど、囁いているのが聞こえる。
あちこちから漏れる声が、教室の空気をじわじわと濁らせていく。
顔が熱い。うつむけば余計に目立つ気がして、でも前を向く勇気もない。
“魔欠”という言葉が、まるで烙印みたいに背中に貼りついているようだった。
コレッタ先生の声が、教室のざわめきを切り裂いた。
「……静かに。授業中です。私語は慎みなさい」
ヒソヒソ声が一瞬で消える。けれど、視線だけは僕の指先に刺さったままだ。
コレッタ先生は、僕を一瞥すると、淡々とした口調で告げた。
「ロキ・グレイシア、今日はもういいですよ。しっかり自習をしておきなさい」
“もういい”――その言葉が、胸の奥に重く沈む。 ――――




