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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第3章 無色の烙印と魔導学院
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第11話 一人きりの入学式

 ――共和国歴1995年春


 僕がアミリアと別れてから二週間後。

 季節はまだ肌寒いのに、央都の空気はどこか熱を帯びていた。

 

 新しい生活が始まる不安と、胸の奥に残る痛みが混ざり合い、僕の心は落ち着かなかった。

 村を出るとき、ローレットさんや孤児院の皆は笑って送り出してくれた。

 けれど、僕の隣にアミリアの姿はなかった。

 

 あの日の花畑、燃え落ちた花、アミリアの涙、そして、指切りの温もり。

 全部が胸の奥でまだ生々しく残っている。

 それでも僕は――アミリアとの約束を果たすために、ここへ来た。


 僕が立っているのは、エルミナ共和国の首都(央都)にある魔導学院の門だ。

 ミース村の東方にある央都は、馬車で丸二日かかる。

 人口一千万人を超える巨大魔法都市。初めて見る央都は、あまりにも大きかった。

 空に届くほど高い城壁。どこまでも続く石畳の大通り。

 僕の住んでいた村とは比較にならない大きさだ。世界そのものが違って見えた。


 通りには、魔導具屋、薬屋、香ばしい匂いを漂わせるレストラン。

 図書館、恋人たちが憩う公園、見たこともない店や施設が立ち並び、大勢の人が往来している。

 人の声、魔力の気配、馬車の音。すべてが混ざり合い、央都の空気を作っていた。


 僕の通う魔導学院は央都の中央に位置し、その隣には、魔導師団の大きな庁舎が建っている。

 魔導学院は"全六学年制"、総勢千人の生徒が学ぶ名門校だ。


 そして――魔導師団庁舎の奥、結界に守られた白く輝く建物。

 そこが、この国の魔導士の頂点、“六賢者”がいる《聖浄院》。

 資格なき者は立ち入ることさえ許されない――アミリアがいる場所だ。

 アミリアは今、何をしているのだろうか。

 元気にしているだろうか。泣いていないだろうか。胸が痛くなる。


 周りでは、僕と同じ新入生たちのはしゃぎ声が響いていた。

 それもそのはず。ここはこの国で最も誉れある学院。

 名門貴族から、努力で這い上がってきた平民まで、難関試験を合格した者だけが入学を許される。

 

 地方には、コネや賄賂、家柄で入れる学校も多くあると聞く。

 しかし、この魔導学院は、努力を示せば誰でも入学のチャンスがある。

 反対に不正や努力を怠った者は退学処分も辞さない厳しさもあわせもつ。

 上位成績で卒業すれば、魔導師団をはじめ、各業界からのスカウトなど――未来は無限に広がっている。

 期待と希望に満ちた笑顔があちこちにあふれていた。


 もし、あの事件がなかったら――僕もアミリアも、みんなと同じように笑っていたのだろうか。

 胸の奥に沈むその問いを振り払うように、僕は聖浄院を見つめ、深く息を吸った。

 そして、魔導学院の門をくぐる。


 ――――――


 学院の大講堂へ足を踏み入れると、ざわめきと魔力の気配が一気に押し寄せてきた。

 天井は高く、光が差し込み、空気が少し冷たい。


 ――入学式が始まる。

 正面には共和国の国旗と、魔導学院の校旗が掲げられている。

 壇上に立つのは、白髪で厳格そうな初老の男性――学院長レイモンド・クラウスだ。

 学院長が訓辞を行う。


 「かつて厄災を封じた大賢者ラズウェル――その志を受け継いだ弟子“エルド・ゴーレンス”は、厄災の復活に備え、魔導師団を創立した。その養成機関として発足したのが、本校である。

――諸君らは、栄光と伝統あるわが校の一員となった。この学院で多くを学び、この国の永遠の安寧の実現にたゆまぬ努力を続けられたい。」


 厳かな声が大講堂に響き、皆、背筋を伸ばした。


 訓辞が終わると、空気が少しだけ緩む。けれど、次の言葉で再び緊張が走った。


 「これより、属性検査を行う!」


 講堂がざわついた。

 学生たちは次々と魔力測定器に手を置き、自分の“色”(属性)を告げられていく。


 「やった! 僕は雷だ!」

 「私は火属性! お母様と同じだわ!」

 「エルフの私は風よ。まあ当然ね」


 希望どおりの属性を得た生徒たちは、歓声を上げて喜んでいた。

 その明るい声が、大講堂の外まで響いていた。―――――

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