↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第20章 遠征――未知なる航路と商業都市
PR
133/166

第133話 商業都市の人々

 ――翌朝


 朝食を済ませた僕は、宿屋の女将さんに教えてもらったルマンド商会へと向かった。

 

 商会に着くと、店先には様々な商品が並び、荷物を運ぶ商人や、品物を選ぶ客たちで賑わっていた。

 カルディナで最大の商会というだけあって、建物は大きく、出入りする人の数も多い。


 「……これなら何でも揃いそうだな」


 思わず感心しながら、僕は店内へと足を踏み入れた。


 広々とした店内には、食料品や日用品、薬品に魔道具まで、実に多種多様な品が並んでいる。

 旅に必要なものを一通り揃えるには、うってつけの場所だろう。


 そんなことを考えながら商品を眺めていると、不意に聞き覚えのある声が耳に届いた。


 「お客様……?」


 振り返ると、そこには見覚えのある商人の姿があった。


 「やっぱり、あなたでしたか!」


 あの船に乗っていた商人だ。

 商人は驚いたように目を見開いたあと、嬉しそうに顔をほころばせた。


 「こちらのお店だったんですね。街の地理に不案内でして、存じませんでした」


 「いやいや、当店にお立ち寄りいただけるとは光栄です。

  よろしければ、お茶をお入れしますので、奥へいらしてください。

  ちょうど、よい茶葉が手に入ったんですよ」


 「お気遣いなさらないでください」


 「まあまあ、そんなことをおっしゃらずに。

  ささ、こちらへ」


 商人に勧められるまま、僕は半ば強引に奥の客間へと通されてしまった。


 ――客間の長椅子に腰を下ろすと、見習いの子がお茶を出してくれた。

 湯気とともに、上品な香りがふわりと漂う。

 

 向かいに座った商人が、改めて口を開いた。


 「申し遅れました。私は、この商会の主を務めております、ルマンドと申します」


 「私は、ロキ・グレイシアと申します」


 「ロキさんですな。先日は本当にありがとうございました。

  あなたのおかげで、私たちは無事にカルディナへたどり着くことができました。

  実に見事なお手並みでしたな。あの魔法球にも驚かされました」


 「いえ。修行中の身ですので」


 大げさに褒められると、どうにも落ち着かない。


 そんな僕をよそに、ルマンドさんは僕の姿をしげしげと眺めた。


 「しかし、よく見ると、その黒い外套もそこいらで手に入る品ではございませんな。

  相当上質なものとお見受けします」


 ラグ親方が仕立ててくれた、魔獣の毛皮に、魔法耐性を持つミスリル合金の欠片まで仕込まれた外套だ。

 餞別として気前よくくれたものだが、まともに市場へ出せば、間違いなく一級品として扱われるだろう。


 「そういえば――エルミナの森で商人の馬車が魔獣に襲われ、それを救ったのも、黒い外套をまとった若い剣客だったとか。

  エルミナ地方から船に乗られたロキさんも、よく似た外套をまとっていらっしゃる。

  いやはや、世の中には不思議な偶然もあるものですなぁ」


 ……ばれている。

 目立たずに済ませたいのだけれど、どうにも簡単にはいかないらしい。


 そんな僕の内心を知ってか知らずか、ルマンドさんは穏やかな笑みを浮かべた。


 「まあ、私も商人の端くれですからな。無粋な詮索はいたしませんよ。

  旅をしている方には、それぞれ事情があるものでしょう」


 気を遣ってくれているのか、ルマンドさんはそれ以上、詮索してこなかった。


 「そうそう、船長がロキさんのことをずいぶん探しておられましたよ。

  もしこの商会に立ち寄られたら、ぜひ教えてほしいと」


 ずっと僕のことを……。

 船長さんには悪いことをしてしまった。


 「……いろいろとご事情はおありかと思いますが、傭兵組合からの報奨金もあるでしょうし、ここは無下にせず、受け取ってあげてください」


 「分かりました。後で港に顔を出してみます」


 ルマンドさんは、にこやかに笑っていた。

 どこか、エルミナの魔道具工房のリワードさんに似ている。


 儲けには敏感だが、どこか情がある。

 商人というのは、こういった気質の人が多いのだろうか。


 「店の者には、サービスするよう言っておきますので、ゆっくり買い物をなさってください。これからも、いつでも立ち寄ってくださいね」


 「ありがとうございます。助かります」


 僕はお礼を言って、接客室をあとにした。

 思いがけず、ずいぶんと親切にしてもらってしまった。


 ……せっかくだし、ありがたく甘えさせてもらおう。

 そう考えながら、僕は改めて店内を見て回ることにした。


 ―――――― 


 旅の食料品を見ていると、ふと、商品を選んでいる侍女姿の女性たちが目に入った。


 そのうちの一人がこちらに気づくと、ぱっと表情を明るくした。


 「あっ……! あのときの方!」


 声につられて、ほかの侍女たちも振り返る。


 「本当だわ! リゼット、こっちに来て!」


 リゼットと呼ばれた女性は、僕が助けたあのときの侍女だった。

 僕より少し年上だろうか、礼儀正しく、慎ましやかな印象を受けた。


 僕に気づくと、彼女は嬉しそうに顔をほころばせた。


 「こんなところでお会いできるなんて!」


 口々に声を上げる彼女たちに、僕は少しばかり面食らった。


 「先日は、本当にありがとうございました。

  あのときはきちんとお礼もできず、ずっと気になっていたんです」


 「いえ、偶然居合わせただけですし、困ったときはお互い様ですから」


 僕は恐縮しながら、軽く手を振った。

 

 すると、侍女の一人が僕の腕にそっと触れた。


 「せっかく再会できましたのに、お礼もせずに済ませるなんて、侍女の面目にかけてできませんわ」


 「ええと……」


 どうしたものかと困っていると、別の侍女が思い出したように口を開いた。


 「そういえば、船長さんがあなたを探していらっしゃいましたよ。

  港に戻られたら、きっと喜ばれると思います」


 「ここの主のルマンドさんからもそうお聞きして、港の管理棟に行きたいと思っていたんです」


 そう答えた途端、リゼットさんがぱっと顔を輝かせた。


 「でしたら、せめて助けていただいたお礼に、私が港の管理棟までご案内いたします!」


 ここぞとばかりに名乗り出るリゼットさんに、ほかの侍女たちがすかさず反応した。


 「ちょっと、ずるいわよ、リゼット!」


 「そうよ。自分だけ抜け駆けしようだなんて!」


 「ち、違います! 助けていただいた私が、お礼をしないわけにはいきませんし……」


 そう言いながら、リゼットさんは僕の隣に立つと、当然のようにその場を動こうとしなかった。


 「ええと……それでは、お言葉に甘えて、港まで案内していただけますか?」


 「はい、喜んでご案内いたします!」


 リゼットさんは待っていましたとばかりに、満面の笑みを浮かべた。


 「もう、リゼットったら……!」


 ほかの侍女たちは悔しそうに顔を見合わせ、リゼットさんを恨めしげに見つめていた。

 ……どうやら、話がまとまりつつあるらしい。


 こうして僕は、リゼットさんに港まで案内してもらうことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。