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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第19章 動き始めた時代と帝国の狼煙
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第121話 亡国の姫と聖浄院への迎え

 ――僕は、レイン先生の孤児院にいた。


 子供たちの無邪気な声が、孤児院の中に響いている。

 その明るさに触れるたび、これから向き合わなければならない現実が、重く胸にのしかかってきた。


 僕は、二千年前のアスピア皇国で起きた出来事を、包み隠さずレイン先生に打ち明けた。


 レイン先生は、しばらく黙り込んでいた。

 やがて、静かに口を開く。


 「カイエン国は、かつてアスピア皇国の戦士たちが袂を分かち、興した国だと伝えられています。

  私もまた、カイエンの剣に人生を捧げてきた人間です。同胞とも呼ぶべき者たちが辿った末路を思えば、慙愧に堪えません」


 レイン先生は目を閉じ、静かに息を吐いた。


 「ですが、彼らが長い歴史の中で魔法社会から受けてきた仕打ちを思えば、その胸に積もった怨念も理解できます。

  ――彼らの心を蝕んできた歳月は、あまりにも長すぎた。憎しみも悲しみも、もはや一世代で背負い切れるものではない」


 そして、苦々しげに呟いた。


 「彼らを責める資格が、果たして私にあるのか……。

  彼らが抱え続けてきた怨念は、ちょっとやそっとのことでは晴れないでしょう」


 重い沈黙が落ちた。


 ――その時。


 孤児院の扉をノックする音が響いた。


 コン、コン。


 「ごめんください」


 扉の向こうから聞こえてきた声には、覚えがあった。


 僕が扉を開けると、そこには学院の担任ミール先生と魔導師団のセルド隊長が立っていた。


 ミール先生が、苦い表情を浮かべる。


 「ロキ、すまないな。のっぴきならない事情があって……」


 セルド隊長も、すぐに口を開いた。


 「やあ、ロキ君。突然の訪問ですまない。君がこちらにいると聞いて、伺わせてもらった」


 セルド隊長は背筋を伸ばして歩み寄ると、レイン先生に丁重に一礼した。


 「私は魔導師団のセルドと申します。本日は、ロキ・グレイシア君と、その師である貴殿にご相談があり、参りました。突然の訪問、どうかお許しください」


 レイン先生は、用件を聞く前から察していたかのように、静かに目を伏せた。


 「アスピア皇国の件ですね」


 「お察しのとおりです」


 セルド隊長は表情を引き締めた。


 「事態は一刻を争います。六賢者様方の命により、参りました。

  誠に勝手ながら、ロキ君と貴殿には、至急、聖浄院までお越しいただきたく存じます」


 ――その時だった。


 セルド隊長の視線が、レイン先生の背後に向けられた。


 そこでは、リリーナが先生の服の裾をぎゅっと握りしめていた。


 泣き腫らした目は、まだ赤い。


 レイン先生は、そんなリリーナに静かに声をかけた。


 「リリーナ。辛いかもしれません。しかし、あなたもアスピアの姫として、今起きていることを見届けなければなりません」


 リリーナは唇を引き結び、健気に小さく頷いた。


 「……はい」


 セルド隊長が、少女へと視線を向ける。


 「その子は……?」


 レイン先生は、リリーナの肩にそっと手を添えた。


 「アスピア皇女エレオノーラ殿下のご息女、リリーナ姫です。

  故あって、現在は私がお預かりしております」


 その言葉を聞いた瞬間、セルド隊長とミール先生の表情が変わった。


 二人は即座に片膝をつき、深く頭を垂れた。


 「リリーナ姫。大変な折に、よくぞご無事で……お目にかかれて光栄です」


 リリーナは、小さく俯いた。

 震える指が、レイン先生の服を握りしめる。


 「……いいんです」


 その声は震えていた。


 「アスピアがなくなってしまったことくらい、私にも分かります」


 涙をこらえるように、リリーナは続けた。


 「お母様が守ってくれたから……。

  だから私は……ちゃんと見なきゃいけないんです」


 小さな拳を、胸の前でぎゅっと握りしめる。


 その姿を見つめていたレイン先生は、そっとリリーナを抱き上げた。


 「よく頑張りました」


 優しく頭を撫でる。

 その言葉を聞いた途端、リリーナの瞳から、必死にこらえていた涙がこぼれ落ちた。


 やがて、セルド隊長が静かに口を開いた。


 「馬車を用意しております。よろしければ、お乗りください」


 孤児院の外では、二頭立ての馬車が待機していた。


 ブルルル、と馬が鼻を鳴らす。


 夕暮れの央都では、人々が慌ただしく行き交っていた。

 アスピア皇国陥落の報は、すでに街中へ広がっているのだろう。

 行き交う人々の表情には、不安と緊張が色濃く浮かんでいた。


 石畳の街路の先。


 夕陽に染まる街並みの向こうに、聖浄院の尖塔がかすかに見えていた。


 大結界を守る六賢者の居城。

 そして今、二人の剣士が招かれようとしている場所でもある。


 レイン先生はリリーナを抱きかかえたまま、馬車へと向かった。


 僕も、その後に続く。


 三人が馬車に乗り込むと、御者が手綱を鳴らした。

 馬のいななきが夕暮れの街に響き、馬車は聖浄院へ向けて静かに走り始めた。


 ――――

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