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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第18章 決戦、二千年の旅路の果てに
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第117話 七色の約束 【第一幕 完】

 リオは央都の上空をゆっくり旋回し、祈りの光が街に満ちていくのを見届けると、静かに翼を傾けた。


 その時――


 アミリアが何かを指さした。


 「ロキ……あそこ……」


 夕陽に照らされた小さな丘があった。

 草が金色に揺れ、誰の気配もない。


 リオが静かに降り立つと、そこには淡い光を受けて咲く花畑が広がっていた。


 白い花びらが風に揺れ、光の粒のようにきらめく。

 まるで、さっきアミリアが空から降らせた祈りの光が、そのまま地上に咲いているみたいだった。


 アミリアは息を呑む。


 「……こんな場所があったんだね……」


 僕はうなずいた。


 「子どものころ、ミース村の森で摘んだ花だね。アミリアのお母さんが好きだった花……」


 アミリアはそっと花に触れた。

 指先に触れた花びらが、水の魔力に応えるように淡く青く光る。


 「……この花……懐かしい……」


 アミリアの"髪飾り"がそよ風に揺れ、まるで息づくように輝いた。


 ――それは、かつて勇者ローディンが、大賢者リファーナ・ラズウェルに贈った髪飾り。


 花言葉は 永久(とわ)の愛。


 その髪飾りのモチーフとなった白い花は、いま、この丘に咲き誇る花と同じものだった。


 そして、この白い花は、ローディンが愛したカイエン国の婚姻の儀で、花嫁の花冠にそっと編み込まれていた一輪。


 二千年の時を越えて、その想いはアミリアの髪の中で今も静かに光り続けている。


 ――ローディンさんとリファーナさんの宝物。


 そして、その光を受けて微笑むアミリアは、僕にとっても大切な存在だ。


 ――――


 そよ風が丘を抜け、金色の草木をやさしく揺らした。

 光の花畑が風に合わせて波のようにきらめき、二人の足元に淡い光が流れていく。


 「……アミリアとの約束……守れたかな」


 アミリアはその光の中で立ち止まり、胸の前でそっと両手を重ねた。

 そして、迷いのない、静かなうなずきを返した。


 「…………ロキは、ずっと守ってくれてたよ」


 その声は、風よりも柔らかく、祈りの光よりも温かかった。


 アミリアの視線が、まっすぐ僕を見つめた。


 逃げ場のないほど澄んだ瞳。その奥に映るのは、僕だけだった。

 アミリアの頬が、ほんのり赤い。


 陽の光の名残と、胸の奥の熱が混ざったような色。

 

 (……ドキドキする。) 


 胸の奥が熱くなる。顔が、どうしようもなく熱い。


 風がそっと吹き抜け、光の花畑が揺れる。


 ――アミリアは一歩、僕に近づいた。


 ためらいも、迷いもなく、そして――アミリアの腕が、僕の胸の前でしっかりと回された。


 アミリアの体温が、そのまま僕の心臓に触れるみたいに伝わってくる。


 僕も、ぎゅっとアミリアを抱きしめ返した。


 その瞬間、アミリアの肩がわずかに震え、僕の胸元にそっと額を寄せる。


 アミリアの瞳がゆっくりと閉じられた。


 心臓の鼓動が、互いに触れ合うほど近い。

 風の音も、花畑の揺れる音も、すべてが遠くに消えていく。


 "勇気”を出して、僕はアミリアの頬に手を添えた。


 「アミリア……大好きだよ」


 「ロキ……私も……」


 そして――そっと、口づけをした。


 それは、言葉よりも静かで、確か。

 二人の愛にふさわしい、そっと触れ合うかたちだった。


 祈りよりも優しく、ただ二人だけの時間が、静かに流れていく。

 離れ離れだった日々の隙間を埋めるように。


 アミリアは目を閉じたまま、僕の胸元にそっと額を寄せた。

 その小さな温度が、失われていた時間をゆっくりと取り戻していく。


 この瞬間が、どうか終わらずに続いてほしい――

 それが、二人の心からの願いだった。


 ――――――


 あの日、故郷の村で、離れ離れになり、止まっていた二人の時間は再び動きだした。

 未来は、この日を境に、途切れていた道がそっとひとつに繋がるように、二人で歩む道へと戻っていった。


 アミリアは胸の前でそっと両手を重ねた。

 風に揺れる光の中で、母から聞かされ、ずっと自分を励ましてくれた"子守歌"を、静かに口ずさむ。



 

『英知の賢者は夜道を照らし


 虹の剣は勇気を示す


 厄災断つは虹の刃(じん)


 怖い夜でもひとりじゃない


 七つの光があなたを守る……』




 陽の光が降り注ぐ花畑の中、語り継がれてきた子守歌に寄り添うように、アミリアの髪飾りが、”七色"に輝いていた。

 それは、幼い頃に交わした二人の"約束"が、決して色褪せることなく、今もここにあることを物語るように。


 二人の想いを祝福するかのように、優しい風が、丘を静かに吹き抜けていった。



 ―――― 


 『無色の勇者と七色の約束』 第一幕  完

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