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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第18章 決戦、二千年の旅路の果てに
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第110話 裏切り

 巨大な炎の玉が裂け、空気が震え、世界が一瞬だけ赤く染まる。


 刹那、僕の剣がラジークの体を通り抜ける。


 ラジークは何が起きたのか理解できない。

 ただ、胸の奥に“熱い違和感”が走っただけだった。


 自分の胸元を斜めに走る一筋の線。


 すると、杖の上半分が、ゆっくりと空中で回転しながら落ちていく。


 ラジークはゆっくりと振り向く。

 視界の端で、自分の身体が崩れていくのが見えた。


 ラジークはそれを理解する前に、膝から崩れ落ちた。 


 その瞳から、ゆっくりと光が抜けていく――。


 六賢者も、その場にいた魔導士たちも、誰ひとり声を出さなかった。


 その場の空気だけが静かに震えた。


 ――――――


 その時――


 ザシュ!


 僕の背中に、熱いものが走った。


 「えっ?」


 膝に力が入らない。そのまま、崩れ落ちた。


 手を背にまわすと、ヌルっとした感触――温かい。


 ――血?


 なんで……?後ろから攻撃された……?


 視界が揺れる。


 アミリアの叫び声が聞こえる。


 「ロキ――!」


 アミリアが僕に駆け寄り、抱きとめる。

 その手が、僕の血で赤く染まる。


 アミリアの顔が強張り、視線の先の空に“人影”。


 風の加護を纏い、淡い緑色の渦の中心に一人のエルフの女性が立っていた。


 緑の長い髪、聖衣、長杖を片手に静かに佇む。


 その女性の周囲には、まるで彼女を守るように風がまとわりついていた。


 周囲の声がざわめく。


 「なぜ……賢者様が……」


 「シルフィア様が……なぜ彼を……?」


 炎の賢者イグナの肩が震える。

 怒りに呼応するように、彼の周囲で炎が立ち上がった。


 「……シルフィア。てめぇー!何考えてやがる!」


 アミリアの顔も険しくなる。


 「なぜですか……なぜあなたが、こんなことを」


 風の賢者――シルフィア


 国の魔導師の頂点の一角であると同時に、大賢者の結界を守護する者。


 目の前で起きたことの理解ができず、息を呑んだ。


 賢者が、決して行うはずのない行動――

 皆の常識が静かに崩れ落ちていく。


 ――シルフィアの瞳は、悲しみでも怒りでもなく、ただ、冷たい決意だけが宿っていた。


 僕の胸の奥がざわつく。あの時の違和感。


 そう――


 ワルキューレの雷光から聖浄院の結界を守っていた魔力。

 そこに、風の魔力だけが立ち上がっていなかった。


 そして、この風の刃。


 二千年前、アスピアの禁則地で、アスピア戦士団のオーウェン隊長を後ろから襲った“あの風”と似た静かで冷酷な殺意。


 「なぜ……あなたが、こんなことを」


 僕の声は震えていた。


 ――――


 風の賢者シルフィアは、ただ静かに僕を見下ろしていた。

 風が、冷たく、鋭く、戦場を切り裂くように吹く。


 シルフィアの目は磨き上げられた水晶のように澄んでいた。

 美しい顔立ちが言葉の冷酷さを増す。


 「エグザリアも情けないわね。“ヴァルシエル王朝”が何千年も“お世話”してきてあげたというのに……

  ジーク聖兵の残党風情では、ここが限界だったようね」


 淡々とした声で怒りも嘲りもない。

 ただ“評価”を告げるだけの、冷たい事実。


 シルフィアの視線が、ゆっくりと僕へ落ちる。

 その瞳は、先ほどの透明さとは異なり、刃のような光を宿していた。


 「カイエン国もアスピア戦士団も……蛮族は、いつの時代も我らの歩みを妨げるのね」


 シルフィアの視線が、僕の剣へ落ちる。

 その目には、抑えきれない忌々しさが宿っていた。


 ――古代戦士の怨念が宿る僕の剣が脈動する。 


 「まったく……古代信仰(アルテミナ)の神官は、こんな品性の欠片もない剣を作らせて蛮族を“光の使徒”などと据えて……」


 声の温度が、わずかに下がる。

 僕の血が地面に滴り、その赤が風に散らされていく。


 「ヴァルシエルの叡智の結集たる"ガイアビナス"を断つ存在など、あってはならないのに」


 シルフィアは、僕の血の赤すら“穢れ”のように見下ろしていた。


 風が鋭く鳴り、シルフィアの聖衣が大きく揺れる。

 その乱れは、彼女の心の揺らぎそのものだった。


 声が低く落ちる。


 「ヴァルシエル王朝の始祖は、古代呪法でガイアビナスを創り、使役に失敗して文明は滅んだ……」


 風が低く唸る。

 まるで古代の亡霊が息を吹き返したかのように。


 「けれど……生き残った我らの祖先は文明を再建し、古代の記憶を王朝の礎として受け継いできた。

  次こそはガイアビナスを使役し、世界の秩序をヴァルシエル王朝が統べる……」


 シルフィアの声は静かだったが、その奥に潜む支配者の傲慢は隠しようがなかった。


 シルフィアは、ゆっくりと詠唱を始めた。


 風が渦を巻き、聖浄院の大結界を覆い尽くさんとする奔流が生まれる。


 突風が聖浄院を襲う。

 建物が軋み、地面が震え、魔導師団が吹き飛ばされる。


 六賢者も魔力を大幅に消費している。


 ――――

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