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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第17章 古代の記憶が宿る皇都
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第104話 背後から忍びよる影

 ――――


 「あの光……」


 胸の奥が凍りつく。忘れもしない。


 僕の世界を破壊した、あの“ワルキューレの雷光”と同じ色。


 背筋に冷たいものが走る。


 「リファーナさん……あの青い光!」


 リファーナさんは息を呑み、青い光を見つめたまま小さく首を振った。


 「ええ……あの青い光は、古代兵器特有の魔力。間違いないわ……」


 ――僕たちは急ぎ謁見の間へ戻った。


 広間にはすでに緊張した空気が満ちていた。


 ミレーヌ皇女は宮殿のテラスから、遠くに立ちのぼる青い光を心配そうに見つめている。


 そばにはルナさんが控え、ツキヨミが不安そうにうろうろしていた。


 ミレーヌ皇女は視線を青い光から離さぬまま、静かに言葉を落とした。


 「……青い光。“古代兵器”だとしたら増援を向かわせねば」


 ルナさんの表情が曇る。


 「お母さま……魔法耐性のある古代兵器に魔導兵団の魔法がどこまで通用するか」


 広間がざわつき、魔導師たちの表情が一斉に曇った。


 曇った顔には、“戦士の力を借りねばならない”という屈辱がにじんでいた。


 皇女は唇をかみしめ、青い光の方角を見つめ続けている。


 僕は、その光を見た瞬間、忘れたくても忘れられない光景がよみがえった。


 瓦礫の山、焼け落ちた街、泣き叫ぶ人々。

 そして、空を裂くように降り注いだ“青い雷光”。


 あれは、僕の世界を壊した光と同じだ。

 

 ――胸の奥が熱くなる。


 気づけば、足が前へ出ていた。僕は広間の中央へ進み出た。


 「……僕が行きます」


 広間が静まり返る。ミレーヌ皇女とルナさんが驚いたように僕を見る。


 「ロキ様……お客様をこんな危険なことに巻き込むわけにはいきません」


 その言葉は優しさだった。


 けれど、僕の胸の奥で、別の感情が静かに燃え上がる。


 「あの青い光……あれは、僕の世界を破壊した古代兵器“ワルキューレ”の光と同じです。放っておけません」


 広間の空気が変わる。僕はゆっくりと顔を上げた。


 「僕は、あれを倒すために、この世界に来ました。あれを倒せないようなら、元の世界に帰っても無駄死にするだけです。僕に行かせてください」


 ――その瞬間、差し込む夕日を受けて 腰の剣がかすかに光った。


 まるで宿敵を斬る時を待ち望んでいるかのように。


 ツキヨミが、僕の決意を感じ取ったようにとことこと近づいてきて、小さな頭を こつん と僕の足に押しつけてきた。


 まるで"がんばれ"と言ってくれているみたいだった。


 その様子を見ていたミレーヌ皇女が、ゆっくりと僕へ歩み寄る。

 ミレーヌ皇女は深く息を吸い静かに言葉を紡いだ。


 「……ロキ様。古代兵器に魔法はほとんど通じません。どうか、力をお貸しください」


 僕は決意を固める。


 「はい」


 短く答えた僕の声は、自分でも驚くほど静かで、揺れていなかった。


 ふと横を見ると、リファーナさんが、そっと目を細めていた。

 そのまなざしは、どこか誇らしげで、懐かしさを含んでいるように見えた。


 ――――――


 飛竜の巨体が、地を震わせるように翼を広げた。


 ミレーヌ皇女がテラスに立ち、僕たちを静かに見送っている。

 その横にはルナさん、そしてツキヨミもいた。


 「ロキ様……ご武運を」


 ミレーヌ皇女の声は震えていたが、その瞳には確かな信頼が宿っていた。


 リファーナさんが僕の背にそっと手を添える。


 「行きましょう、ロキ」


 ――飛竜が地を蹴り、僕たちは空へと舞い上がった。


 夕日が皇都を黄金色に染めていた。

 屋根の連なりが影を伸ばし、街全体がゆっくりと夜へ沈んでいく。


 飛竜の背で風を受けながら、リファーナさんがふと言葉を落とした。


 「……こうしてね、ローディンとよく大空を飛んだの。魔獣が暴れて、民が困っていると聞くと……“助けないと”って、彼、すぐに飛び出していってね」


 その声は懐かしそうで、でもどこか嬉しそうだった。


 「さっきの君もね……ローディンと同じ目をしていたわ」


 胸が一気に熱くなる。


 「ぼ、僕なんか……そんな……」


 言葉がうまく出ない。世界を救った英雄と比べられるなんて、僕には重すぎる。


 でも、リファーナさんは、“本当にそう思っている”というように微笑んでいた。


 ――――


 ――やがて、北方山脈の黒い稜線が見えてきた。


 その向こうで、青い雷光が、まるで世界を裂くように降り注いでいる。


 戦っている。本来、立ち入ることが許されない封印地。

 地面は黒く焦げ、古代の魔導陣が露出していた。

 

 ――すると、地面の向こうで大きな影がゆっくりと動いた。


 十メートル程の巨体、二足歩行。リファーナさんの視線がそれに向く。


 「……誰が、あんなものを……」


 胸がざわつき、緊張が走る。


 「あれも古代兵器ですか?」


 リファーナさんは震える声で答えた。


 「ええ、あれは……陸戦型魔導兵装――古代兵器"コロッサス"よ」


 ワルキューレよりは小型……とは言っても、手足は柱のように太く、背中には屋根を思わせる重厚な装甲が重なっている。


 頭部は無機質で、表情というものが存在しない鉄の仮面。

 魔力を放つたびに青白く脈動し、目が青白く光る。


 もの凄い威圧感だ。


 コロッサスの周囲に無数の魔法陣が描かれ、青い雷光の矢が次々と放たれる。


 ――アスピア戦士団が疾走する。


 六人の戦士たちが、一糸乱れぬ動きで大地を蹴った。


 だが、その役割は、盤上の駒にようにそれぞれ異なっていた。


 最前列を駆ける重装の戦士が、古代兵器の振り下ろした鉄腕を大盾で受け止める。


 轟音。


 大地が陥没し、衝撃が周囲へ走った。


 その隙を突き、両翼の剣士が巨体の死角へ潜り込む。


 背後から放たれた矢が、古代兵器の関節部へ次々と突き刺さった。


 さらに後方では、長槍を構えた戦士が機会を窺っている。


 剣での集団戦法を知らなかった僕は、その見事な連携に息を呑んだ。


 巨大な鉄の怪物を相手にしているというのに、誰一人として無駄な動きをしない。

 リファーナさんは、わずかに目を細めた。


 「……さすがね。コロッサスの装甲はワルキューレと同じミスリル合金。生半可な攻撃は通らないはずなのに……アスピア戦士団は張り合ってる。」


 ――飛竜が地上へ降り立った。


 砂煙が舞い、戦士団の視線が一斉にこちらへ向く。


 リファーナさんが叫ぶ。


 「オーウェンさん! 応援に!」


 オーウェン隊長は、振り返りざまに怒鳴った。


 「お客人、なぜ、こんなところまで来られた。こいつは我々アスピア戦士団が片付ける」


 リファーナさんが食い下がる


 「古代兵器相手に押し切るには……」


 「ふん」


 オーウェン隊長は鼻で笑った。


 「……貴殿に寄り添っていたローディン殿は、単騎でこやつらを沈めていたではないか。われらアスピア戦士団も、この程度の鉄塊、客人の手を借りずとも沈めてご覧に入れる。」


 その背後では、コロッサスの青い雷光が再び地面を裂く。


 「下がっておられよ」

 

 ――そう言うと、オーウェン隊長が剣を構える。


 カイエンの剣技と似ている。


 細かな所作は違うけれど、古代戦士の系譜をもつアスピア戦士団の剣技は、カイエンの剣技と驚くほどよく似ていた。

 

 オーウェンさんの剣が淡く光を帯び、空気が震えた。

 そして、つぶやく。


 「アスピア聖剣……土の刃(じん)――」


 次の瞬間―――


 「剛断剣!!」


  ――――轟

 

 大地が震え、オーウェンさんの剣から強烈な剣圧が放たれた。


 コロッサスの太い腕が地面に落ちた。


 僕は息を呑む。


 「……ものすごい剛剣だ……」


 動きを止めたコロッサスに再度剣を構える。


 「次はとどめを――」


 オーウェンさんは剣に闘気を集中させる。


 「――――――」

 

 次の瞬間――リファーナさんの表情が強張った。


 「魔力のゆらぎ!」


 「えっ?」


 考える間もなかった。


 ――ザシュッ


 突如、風の刃がオーウェンさんの背中を切り裂いた。


 「うっ!」


 オーウェンさんが膝をつく。砂埃が舞い、血の匂いが広がる。

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