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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第17章 古代の記憶が宿る皇都
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第101話 赤面の謁見

 正面の席には、すでに皇女が座していた。


 淡い金の髪が肩に流れ、衣は白を基調とした上品な装いだった。

 装飾は控えめなのに、縫い目や布の重なりが丁寧で、その静かな気品を際立たせていた。


 その隣には巫女が控えている。

 目を閉じ、祈るように両手を胸の前で組んでいた。


 衣は薄い青と白、光を受けるたびに淡く揺れ、その佇まいに、静かな神気が宿っているようだった。


 僕の時代の巫女であるリリーナも、もう少し大きくなったら、こんなふうに凛として美しくなるのだろう。


 僕は、あまりの格式の重さに押され、心臓が胸の奥で小さく跳ねた。

 まるで、ここは自分が踏み入れていい場所ではないと告げているようだった。

 

 リファーナさんが一歩進み、裾を軽く持ち上げて淑女の礼を取った。


 その動きは流れるようで、線がひとつも乱れていなかった。


 「皇女殿下。お時間をいただきありがとうございます」


 皇女はゆっくりと視線をこちらへ向けた。

 その目に、威圧ではなく、静かな観察の色があった。


 「遠路、ご苦労でした」


 リファーナさんが一歩前に出て、僕の背をそっと押した。


 「ロキ君、自己紹介をなさって」


 小声なのに、逃げ場のない優しさだった。


 「ロ、ロキ・グレイシアです……」


 声が震えた。背筋が勝手に伸びてしまうほど緊張していた。


 皇女は静かにうなずき、そのまま柔らかな声で名乗った。


 「私はこの国の皇女、ミレーヌ・クラリスと申します」


 その所作は、ただ名乗っただけなのに、空気が澄むような気配があった。


 「こちらは娘のルナ」


 呼ばれた巫女のルナさんが、祈りの姿勢をほどき、すっと立ち上がって頭を下げた。

 そのたたずまいは、ひとつの動きに無駄がなく、洗練された美しさだった。


 ミレーヌ皇女が静かに息を整え、言葉を紡ぐ。


 「それで、ご用件というのは」


 その声に、場の空気がわずかに引き締まる。


 リファーナさんが一歩進み、深く頭を下げる。


 「巫女の力、時の魔力をお貸しください。この子は、未来の戦いに戻らねばなりません」


 ミレーヌ皇女は驚くこともなく、ただ静かにまぶたを伏せた。

 まるで、その言葉を聞く前からすべてを知っていたかのように。


 ミレーヌ皇女が僕の方へ視線を向けた。

 藍色の瞳が、時間の奥まで見通すように静かだった。


 その瞳が、僕の腰の剣に落ちる。


 剣の鍔がわずかに光り、空気がひとつ揺れた気がした。


 「……この子が、ローディン様の意思を継ぎし者なのですね」


 リファーナさんが、そっと僕へ視線を向けた。


 「はい。エグザリアの思想は、二千年後の未来でも、なお途絶えていませんでした。」


 リファーナさんは僕を見ながら続ける。


 「厄災の復活を阻止するため、未来の剣聖と時の巫女より託された勇者の芽

  ――虹の勇者の意志を継いだこの子を、再び未来へ送り返したく存じます」


 ――ルナさんがゆっくりと目を開いた。


 その瞳は深い湖のように静かで、見つめられた瞬間、吸い込まれそうになった。


 ミレーヌ皇女はまぶたを上げ、巫女へと視線を移した。


 「“光の使徒”の導きを担うは、時の血族の使命。

  光の女神より授かりし時の魔力を解放いたしましょう」


 ミレーヌ皇女はそう言うと、巫女へと静かに視線を向けた。


 「ルナ。虹の勇者のご意思のもと、時の回廊の支度に入りなさい」


 ルナさんがそっと口を開いた。


 「はい。お母さま――」


 次の瞬間、彼女は僕の前に進み出て、裾を軽く持ち上げて淑女の礼を取った。


 その所作があまりに優雅で、僕は気後れしてしまう。


 「時の巫女、ルナでございます。

  光の女神のお導きに従い、"勇者様"を、聖戦の場へとお導きいたします。」


 胸の奥がざわつき、足の裏がじんじんと痺れた。


 (勇者――僕が?)


 田舎の孤児院で育ち、ずっと“魔欠の出来損ない”と呼ばれてきた僕に、お姫様が丁寧に礼を尽くしている。


 何か間違っている。どうしていいか分からない。


 顔が熱くなる。気づけば、手をぶんぶん振っていた。


 自分でも「何やってんだ僕……」と思うほどお馬鹿な動きなのに、止められなかった。


 その必死さに、場の空気がふっと揺れる。


 ずっと硬い表情だったルナさんが、祈りの姿勢のまま、そっと目を上げる。

 そして、ほんの少しだけ微笑んだ。


 「古の時代に、神鋼から錬成され、守られてきたその剣(つるぎ)を持つ者こそ、勇者としての資質を備えた方の証でございます……」


 その言葉は、「大丈夫ですよ」と語りかけるようで、胸の奥がじんと熱くなる。


 その様子を見ていたミレーヌ皇女が、口元に手を添え、静かに目を細めた。


 「あら……ローディン様そっくり。はじめてここにお越しになった日のことを、思い出しますわ。」


 優しい笑顔だった。


 その様子を見ていたリファーナさんも小さく笑みを漏らす。

 三人の笑顔が重なった瞬間、この厳かな場のはずなのに、僕だけが場違いに救われていくような気がした。


 ――――――


 僕の顔の熱もやっと落ち着いた。


 ミレーヌ皇女が、静かに場を整えるように息をついた。


 「巫女の魔力を整え、時の魔力を解放するには、一週間ほど時間がかかります。」


 リファーナさんが深く頭を下げる。


 「お願いします」


 その声は落ち着いていて、さっきまでの柔らかな空気をそっと包み直すようだった。

 ミレーヌ皇女はゆるやかに微笑み、続ける。


 「今日は宮殿でゆっくりお過ごしください。もしよろしければ、アスピア神殿をご覧になってください。心が安らぎますわ。」


 その言葉に、場の緊張が静かにほどけていく。

 まるで、そっと歓迎してくれているようだった。

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