第一章6「気付いてしまった想い」
「はいストップ! そこまでですクライン様! これ以上の胸キュンセリフは即死魔法と同義ですので、今日のお喋りはここまでにしてあげてください」
「む、胸キュン……? 即死……?」
またしてもピィちゃんの謎の言葉に首を傾げるクラインだったが、真っ赤な顔で震えているルウシェを見て、フッと優しく目を細めた。
「分かった。また明日、君の声を聴きに来る事にしよう。少しずつでいい、俺に慣れていってくれると嬉しい」
そう言い残し、クラインは名残惜しそうに部屋から出ていった。暫くして、落ち着きを取り戻したルウシェは頬を一度パチンと叩き、夢じゃ無かった事を確認した。
「ピィちゃん……! 私と仲良くしたいって……ヤバくない!?」
「良かったですね、お嬢様。自己紹介はダメダメでしたけど……まあ、お嬢様にしては頑張った方でしたね」
「わあぁぁぁ……また来るって言ってたし、今度はお茶くらい出さないと! 推しに失礼だよね!!」
「その前に、お嬢様は言葉のキャッチボールの練習をして下さい……」
クラインとの出会いが、ルウシェの人生わ大きく変えるとはまだ本人は知らなかった。
◇◇◇
ここ数日、俺は放課後になると「開かずの時計塔」に通っている。
最初は「やっと自分を護ってくれていた存在」が知れた喜びと感謝、2回目はお礼わ渡す為に時計塔に足を運んだだけのはずだった。
極度の人見知りで会話も苦手な様だが、俺に名前を教えてくれたルウシェ。
今で放課後に会うのが少し楽しみになって来ている自分がいる。
(俺らしくもない……)
常に冷静であることだけが己の取り柄だと思っていた。その筈なのに、彼女の事が頭から離れない。
あの時、触れた手は驚くほど小さく柔らかかった。
人並み以上の魔力と技術を持ちながら、人との関わりを恐れ、この開かずの時計塔で一人生きてきた少女。
何故、俺を助けてくれていたのだろうか。
もっと彼女、ルウシェの事が知りたい。
「……クライン様?」
不意に、背後から声をかけられ、振り返ると付き人のレイン・サージェスが立っていた。
「まだこちらに居ましたか。……どうかされましたか?」
「……いや、何でもない。それより迎え、すまないな」
「いえ、これが私の役目ですから。それより……『時計塔の魔女殿』に会いに行かれたのですか?」
「ああ。……名前を教えて貰えてな、ルウシェと言うらしい」
名前を口にしただけで、また胸の奥が妙に騒ぎ出す。クラインは無意識に視線をルウシェのいる時計塔へと向ける。
「少しずつではあるが、仲良くさせて貰っている。……嫌われてもない様だしな」
彼女とのやり取りを思い出す。言葉数は少ないが行動一つひとつが面白く、まだ打ち解けるまでは時間が掛かるだろうが、その時間も楽しいのではと考えてしまう。
そんな俺の様子をじっと見つめていたレインはクラインに「良かったですね」と微笑んだ。
「なるほど。ルウシェ様、響きも可愛らしく素敵な名前ですね。……それにしても、クライン様がそこまで他人の反応に一喜一憂されるなんて、珍しい事もあるんですね」
「……どういう意味だ」
「言葉通りの意味ですよ。普段の貴方であればお礼はすれど一度だけ。ましてや女性への贈り物を教えてくれなど初めてじゃありませんか。私も、早くお会いしたいですね」
そう言って微笑むレインに、何故かこれまで抱いたことのない、感情が湧き上がった。
他の誰でもない自分が、彼女の隣にいたい、守ってあげたい、誰にも渡したくない――。
そしてクラインは気付いた。
彼女、ルウシェ・ホワイトに惹かれているとーー。




