第一章4「初めてのエンカウント」
「君が……いつも俺を救ってくれていたのか?」
低く、鼓膜を心地よく震わせる極上の低音ボイス。
前世で、ゲーム『ロマンティック・ウィッチ』で狂おしいほど愛した最推しの「生ビジュアル」と「生ボイス」が、わずか数メートルの距離にいる。
「……おい、聞こえてるんだろう?」
「っ!?」
声をかけられ反射的にビクッと体が飛び跳ねるルウシェ。
(無理無理無理、何これ、私話しかけられてる! ゲームと同じイケメンボイス!! どうしよう、最高過ぎて尊死する、今ここで生涯を終えても良いかも知れない……あぁ、神様、この世界に転生させてくれて有難う御座います!!)
声をかけられ、脳内で感動していたルウシェ。そんな彼女の感動など知るはずもなく、中々出で来ない彼女に痺れを切らしたクラインは強引に布団を剥がした。
「良い加減、姿を見せ……は?」
布団から出て来たのは、キラキラと輝く白銀の髪に桜の様な綺麗な桃色の瞳の女子生徒。今まで彼を助けていた人物がまさか女性だったとは知らずに言葉を失うクライン。
それに対し、布団を剥がされ焦る彼女はと言うと、
「あ、う……あ、え、あ……っ」
という、壊れたおもちゃのような謎の音だけだった。
彼女は重度のコミュ障て引きこもり、まともに人と話すのは何年振り。
しかも今、目の前にいるのは最推しのゲームキャラクター、クライン・ミストレイクだ。
嬉しさと恥ずかしさで顔を真っ赤に染め上げ、ガタガタと震えながら、ルウシェは剥がされた布団を拾い握り彼を見る。
その姿にクラインは心配し声を掛けてきた。
「おい、大丈夫か……!?」
焦ったクラインが一歩近付いた瞬間、ルウシェの肩から飛び立った小さな影が、「ちょっとお待ちください」と勢いよく彼の前に飛び出す。手のひらサイズの精霊、ピィちゃんである。
「 ストップです、クライン様。それ以上は近付かないて頂けないでしょうか」
「なっ、使い魔……いや、精霊か?」
「はい。私はお嬢様が産み出した人工精霊、ピィと申します。今、クライン様と対面した事により、尊さで心臓が停止してしまいそうなのです。嬉しさで呼吸困難からのショック死してしまう寸前ですので、用件があるのでしたら日を改めて頂けないでしょうか」
「と、尊さ……? ショック死……?」
クラインは完全に呆気にとられた。
しかし、彼は生真面目で視野の広い男である。ピィちゃんの言葉に頷き、ふと、時計塔の部屋の中へと視線を向ける。
そこには、ルウシェがクラインを魔獣達から救うために使用した魔法陣の跡。そして、相当な努力をしたのだろう、ボロボロになった本やノートが何冊も机に置かれていた。
それを見た瞬間、再びクラインの胸に激しい衝撃が走った。
「……そうか。やはり君が俺を助けてくれていたんだな」
クラインは、毛布を握りしめながら震えるルウシェの手をそっと取る。
引きこもりの怪魔と噂され、誰とも関わろうとしない少女。それなのに、彼女は自分が窮地に陥るたび助けてくれたルウシェ。
(誰よりも純粋で、深い優しさを持った人ななのだろうか……)
クラインのクールな瞳が、ルウシェをじっと見つめる。彼の中で、一つの感情が芽生え始め始めようとしていた。
「すまない、驚かせてしまったな。……だが、俺は君にどうしてもお礼が言いたかった。俺の命を救ってくれた、本当にありがとう」
「あ……」
クラインはルウシェの手を優しく握り、これまで助けてくれたお礼を言い、壊してしまった扉を振り返って少しバツが悪そうに微笑んだ。
「今日は帰る。だが、必ずまた来る。扉のお詫びもしないとだからな」
そう言い残し、彼は立ち去った。
静まり返った部屋で、ルウシェは、魂が抜けたような顔でピィちゃんを見る。
「……ピィちゃん、幻聴かな……推しが『また来る』って言った……」
「幻聴ではありません。また来るそうですよ? 良かったですね、お嬢様」
「ふぇえええええーーー、ヤバいって、絶対に変な子って思われてるよ!」
「思われてるでは無く、思われてます。それよりも、もう少し会話をして下さい。せめて挨拶くらいは出来ないと困ります」
「うっ……ど、努力します……」




