第一章3「引きこもりは会いたくない」
◇◇◇
「はぁぁぁぁ~~、完全無双!! 強い、かっこいい、私の推し最高!!」
水鏡の前でルウシェは毛布に顔を埋めて悶絶していた。
陰ながら推しを勝たせ、怪我から守る。それこそが彼女の今の生き甲斐であった。
「お見事です、お嬢様。ストーカーをしながらのバックアップ、本日もキレッキレでしたね」
「ストーカーなんて人聞きが悪いよ! 私はただ、推しへの愛を魔力に変換して、平穏で充実した学園生活を過ごして貰いたいだけなのに!」
「それを世間では重度の過保護と言うんですよ。まあ、お嬢様のおかげでクライン様が五体満足なのは事実ですけど……。これからも陰ながら助けるのですか?」
「当たり前でしょ!」
「即答ですか……。あ、お嬢様、クライン様が何か拾いましたよ?」
「え?」とルウシェが画面に目を戻すと、クラインが地面に落ちていた「何か」を拾い上げ、じっと見つめている。
それは、ルウシェが魔法を飛ばした際、時空の歪みでうっかり現地に転送されてしまった小さな石。
彼女の膨大な魔力が結晶化した、桜色の綺麗な魔石だった。
クラインはその魔石を片手で握り締めると、じっと魔力の残滓を辿るように、空を見上げた。
その視線の先にあるのは。
「……こっち、見てる……?」
ゴクリと唾を呑み込み水鏡を覗き込む。ルウシェの生み出した魔石は特別仕様で、通常であればただの綺麗な宝石西sか見えるはずなのだがクラインは違った。
彼の鋭い眼光は、真っ直ぐにこの「開かずの時計塔」へと向けられていた。
「ど、どどどど、どうしようピィちゃん、これ、もしかしてバレてる……?」
「もしかしなくても、バレてますね。見てください、一直線にこちらへ走ってきます」
「いやあああ! どうしよう!
生の推しと至近距離でエンカウントしたら私の心臓が爆発四散して時計塔の壁のシミになるぅぅぅ!」
「押しに会えるのはいいことなのでは?」
「無理むりムリ、ぜーーーーった無理!!」
毛布に頭まで潜被りドタバタと部屋を暴れ回るルウシェ。に「やれやれ」と呆れる精霊のピィちゃん。
数分後。
開かずの時計塔の最上階に、バタバタと階段を駆け上がってくる、足音が響き渡った。
そして――。
ドンドン!!!!
「開けてくれ! ここにいるんだろう、俺をずっと陰から救ってくれていた人!」
頑丈なはずの防壁扉が、激しくノックされたが反応は無く「いないのか?」と呟くクライン。その時、扉の向こうではルウシェは布団の塊と化していた。
(ひえええええええええ!! どうしよう、本当に来ちゃったよ! あのクラインが今、目の前に!!)
(どうしようと言われても、もう扉の向こうにいますよ。後、布団に籠りながら伝達法を使用するのは控えてください。一応この世界では上級まほうなんですから)
(仕方ないでしょ、バレるわけにはいかな……あ)
ガタン
「っ! そこに誰かいるのか?」
普通に会話していたらバレてしまうからと言い返そうとした矢先、近くにあった椅子にぶつかってしまった。
その物音を聞き逃さなかったクラインは再び誰かいるかと問いかけるが返事は帰ってこない。
「……失礼するぞ」
バンッ!!!
けたたましい爆音と共に、「開かずの時計塔」のが開かれる。彼が足を踏み入れた部屋は、山のように積まれた本と複雑な術式が書かれた魔法陣の神束、そして部屋の隅に場違いな布団の塊。
彼は迷わず「それ」に近づき片膝をついて問いかけた。




