第三章2「遠征当日」
遠征当日の朝がやってきた。
聖華王立魔法学校の正門前には、整然と並ぶ馬車と、出発を待つ生徒達の賑やかな声が響いている。その中に、凛とした佇まいで出発を待つクラインとレインの姿があった。
一方、時計塔の自室にいるルウシェは、徹夜一歩手前で準備した魔導具を前に、目をギラギラと輝かせていた。
「よし、接続完了! 映れ、私の最高画質カメラ!」
ルウシェが規格外の万象魔法を込める『水鏡』に、リアルタイムな映像が鮮明に映し出された。画面の端で、精霊ピィちゃんが「この為だけに徹夜したんですか……」と呆れているが、そんな声は耳に入らない。
「見てピィちゃん! 朝日に照らされるクライン様の横顔ヤバすぎでしょ!?
これから戦いに赴く騎士の格好良さがカンストしてる……!」
画面の向こうのクラインは、胸ポケットにそっと手を当て、昨日ルウシェから返してもらったピンク色の魔石を愛おしそうに確かめていた。その一挙手一投足に、ルウシェは「ぎゃああぁ、尊い!」と枕を手に取り殴りつけてのたうち回る。
そのクラインの様子を、レインが少しだけ切なそうな、複雑な眼差しで見つめていた。
(クライン様は、本当にルウシェ様のことしか見えていないのですね……。不器用なあなたがそこまで誰かを想う姿は誇らしい。ですが……なぜでしょう、胸がモヤモヤします)
レインの心境が変わりつつある中、派手な足音が近づいてきた。
「よお、クライン。相変わらず真面目くさった顔をして、遠征を前に緊張でもしているのか?」
自信たっぷりで不敵な笑みを浮かべて現れたのは、クラインと同じく特級騎士クラスのジェイド・ヴァルフレアだった。
水鏡を見ていたルウシェの表情が、一瞬で真顔になる。
(ぐぬぬ……何よそのニヤついた顔!)
ジェイドはクラインの前に立つと、挑発的にニヤリと笑った。
「前回の『決闘』の件だが……」
ジェイドの言葉に、クラインの眉がピクリと動く。
少し前、二人が激しく剣を交えた際にルウシェの兄でもある王国騎士団長、アルス・ホワイトによって強制終了させられた『決闘』は引き分けと言う形で終わっている。ジェイドはそれが、どうしても納得いっていなかったのだ。
「あん時、水を刺されちまってオレは不愉快なんだ。遠征で、オレと『勝負』しろ。どちらが真の強者にふさわしいか、今回の遠征中に白黒つけさせて貰う!」
「……俺は、君の個人的なプライドに付き合うつもりはない。今は無事に成功させることが最優先だ」
クラインは冷たく言い放ち、ジェイドを置いて馬車へと乗り込んだ。
その様子を水鏡で見ていたルウシェはと言うと二人のやり取りに盛り上がっていた。
「ライバル同士の勝負……!
そういえば、この遠征で魔物討伐数で競うってイベントだ。うわぁ〜〜楽しみ過ぎる!!」
「盛り上がるのは構いませんが、そろそろ部隊が出発しますよ」
ピィちゃんに促され、ルウシェは慌てて水鏡を覗く。
ジェイドの不穏な視線と、レインの秘めた想いが芽生え始める中、一行を乗せた馬車は静かに目的地へと向かって走り出した。
遠征の目的地は、王都から少し離れた「闇の森」の結界補修ポイント。
道中は順調で問題無く到着。昼までは魔物の出現も少なく何事もなかったが、日が沈むと周囲に不気味な霧が立ち込め始めた。
霧が深くなり視界が奪われた、その時――。
「――全員、構えろッ!!」
アルス団長の鋭い怒号が闇の森に響き渡った。
凄まじい殺気と共に、空間がベリベリと引き裂かれるような音がする。
彼らの頭上に黒く歪んだ裂け目が現れ、そこから這い出てきたのは明らかな高位の『魔族』だった。
「ひひっ……旨そうな人間がたくさんいるねぇ……」
狂気的な笑みを浮かべる魔族の登場に、剣を構え直し戦闘体制に入る。
「気を付けろ、相手は高位種だ!」
その光景を、遥か遠くの時計塔から見ていたルウシェは、ガタッと椅子から立ち上がった。
「嘘……なんであんな場所に高位の魔族がいるの!? 原作の遠征授業に、こんなイベントなかったはずなのに……!」
「どう言う事ですか?」
「本来なら魔物狩りだけで、攻略対象とヒロインが協力してくってイベントなの。クライン様の場合はライバルでるジェイドと魔物数を競うってイベントがあるんだけど……」
魔族の登場など知らないルウシェ。画面の中では、アルス団長やクライン達が魔族の激しい一撃を受け、防戦一方になっていた。




