第二章9「イケメンの顎クイは最強すぎる」
一歩校舎に足を踏みに入れた瞬間、ルウシェは激しい後悔に襲われる。
「あ、ルウシェ様だわ……!」
「私達を護るために降臨した『女神様』だったんでしょ!」
「まさに『時計塔の女神様』だ!」
廊下を歩くだけで生徒達がサッと道をあけ、遠巻きに拝んでくるのだ。
(いやだから違うのよ!
私はただの限界オタクだってば!
そんなキラキラした目で私を見ないでぇぇぇ……!!)
周囲の熱視線に耐えかね、下を向いて歩いているとドンっと誰かにぶつかってしまい「ご、ごごご、ごめんなさい!」と物凄い勢いで謝ると、聞き覚えのある声。
「ルウシェ! ……体調はもう平気か?」
「歩いても大丈夫なのですか?」
そこにはクラインとレインが偶然通りかかっていた。
数日ぶりの最推し二人の登場に、ルウシェの胸が高鳴る。
「く、クライン様、レイン様!
は、はい。元気です!」
「それなら良かった。俺達は今からアメリア先生のところへ、例の件の報告を聞きに行く途中なんだ。……ルウシェは何故ここに?」
「わ、私も、アメリア先生に呼ばれて……」
「でしたら、私達と一緒に行きましょうか」
レインの提案にクラインも賛成。
こうして、左右を最推しとその付き人の二人にガッチリと挟まれるという、オタクにとってはあまりにも贅沢で心臓に悪い構図に。
アメリア先生の待つ部屋へと歩き出した。
ーーのだが、そんな夢のような道中は、突如として破られる。
「おいおい、なんだその最高に面白そうな御一行様はよ」
前方の渡り廊下の手すりから、ひらりと軽そうに飛び降りて、彼らの前に立ち塞がる影があった。
燃えるような紅蓮の髪に、着崩した制服。耳元で派手なピアスを揺らし、不遜な笑みを浮かべている男子生徒――ジェイド・ヴァルフレア。
(ジェ、ジェイドだーー!
ここに来て新たな攻略対象が……なんでここで絡んでくるの!?)
「特級騎士クラス」に属するクラインのライバルであり、自信家で派手好きな俺様系キャラクターだ。
ルウシェが内心で大絶叫する中、ジェイドはギラギラとした瞳をルウシェへと向け、じりじりと距離を詰めてきた。
「何しに来た、ジェイド」
「ハッ、あの堅物クラインが、たかがこんな小娘一人に取り乱してやがったからな。それに『加護』とやらで無双し始めたのも、全部オマエが絡んでるんだろ?」
「あ、え、いや……」
「なぁアンタ、こんな奴よりオレのモノになってみねえねか」
ジェイドはクラインを挑発するように、ルウシェの顎を指先でクイッと持ち上げた。
(ひぇっ、生・顎クイ!?
原作通りのド級の俺様セリフ!
作画が良すぎる!!
…いや、それよりもこの状況はなんだ?!)
至近距離のイケメンの尊さにルウシェは、状況が飲み込めずオロオロ。
離れたくても体が上手く動けずにいた。
「――ルウシェから離れろ、ジェイド」
ルウシェをジェイドから引き剥がし自身の方へ引き寄せる。
そして、全身からドス黒いオーラを出し完全にブチ切れていた。
「彼女は気安く触れていい存在じゃない」
そのあまりの気迫にジェイドも思わず一歩下がったかと思えば、ニヤリと不敵な笑みを崩さない。
「ハッ、いい顔するじゃねえかクライン!
だったらよぉ、そんなにその小娘が大事なら、オレと【決闘】で白黒つけようじゃねえか!」
ジェイドは着崩した制服の襟を正し、ルウシェを指差した。
「オレ様が勝ったら、その女と時計塔の秘密の全てをオレがもらう。オマエが勝ったら、二度とこの女には手を出さねえ。どうだ?」
「……いいだろう」
クラインは一切の迷いなく、その挑発に即答した。
(え……ちょっと待ってぇぇぇぇぇ!!!??
何その絵に描いたような『私を賭けて争わないで!』展開!!
美形二人が私を賭けて決闘するとか……最高すぎて死ねる!!)
ルウシェが両手で頬を包み、真っ赤な顔を鎮めと抑える。「お二人共、何を言っているんですか――!」と焦っているレイン。今にも「決闘」が始まりそうな雰囲気の中、緊張感の抜けた足音が近付いてきた。
「あれ、なになに? 面白そうなことやってるじゃーーん」




