第二章7「ドキドキは心臓に悪いんです!」
「……ところで、ルウシェ。一体どうしてあの『ヴァンパイアスネーク』の弱点が分かったんだ?」
しんと静まり返った森の中、クラインは問いかける。
その言葉を皮切りに、その場にいた全員の視線が一斉に私へと集まった。
「あ、え、えと……それは……その……」
一瞬で心臓が跳ね上がる。
(……まさか、前世でプレイしていたゲームの敵なんです、なんて言えるわけがない!)
頭の中で、前世のオタク知識の記憶がよみがえる。
吸血外邪・ヴァンパイアスネークは、一見すると巨大な蛇なのだが、鱗は硬く物理攻撃はまず通らない。弱点は、喉元にある白い部分のみという攻略方法を知らないとかなり苦戦する魔獣なのだ。
「ボクも気になっていたよ。あの状況から一撃で仕留めるなんてね。どうしてなんだろうね?」
いつもは「開かずの時計塔」に引きこもるルウシェをニコニコと笑顔で見てくるアメリア先生に、レインも「確かに、驚きました」と続け不思議そうにしていた。
「え、ええと……あの、その……あの魔物……そう! 本で読んどことが、あ、あったんです!!」
「……本?」
「はmはい。魔獣についての図鑑? 資料? を読んだんです!!」
「そ、そうなのか……」
くるりとクライン達に振り返り「そうなんです」と強引に押し切るように説明するルウシェに圧倒され、納得する一同。なんとか押し切ることに成功したルウシェに安心していたのもつかの間、次の問題が発生した。
「……で、先生はいつまでその状態でいるつもりですか?」
「え? ……あ!」
私は思い出した。今、アメリア先生に抱きしめられている事に。
クラインに指摘され離れようと力を入れたが、離れる気配はない。気付いてしまった事によりルウシェの顔は見る見るうちに赤くなっていく。じたばたと腕の中でもがいていると急に視界が明るくなった。
「いい加減にしてください」
グイっと腕を引かれ今度は九会院の腕の中におさるルウシェ。アメリア先生ににらみを利かせる彼に対し、今度は最推しの腕の中にいる事に動揺し始める。
「教師が一人に生徒を特別扱いするのはどうかと思いますが? 大体、彼女は俺の―-」
「あはは、これはただのコミュニケーションなのに~~」
「嫉妬かい?」と言われ、図星だったのか無言になるクラインに対しルウシェの頭の中では―-。
(待って。無理。処理しきれない。一章の時点でこんな激重な愛のルート、原作のゲームに存在しなかったじゃん……!!)
クラインの温もりが直接感じ、ルウシェの脳細はフリーズしかけていた。
前世でも「年齢=彼氏なし」の限界オタクに、最推しからの「独占欲全開のハグと嫉妬を受け止めるだけの精神など持ち合せている訳などない。
ピピッ、ピピーーーッ。
ついにキャパシティオーバーを告げる警告音がけたたましく鳴り響く脳内。
「あ、う……あ、愛が、尊さが、過剰摂取で……お、命が……」
「ルウシェ、大丈夫か?!」
クラインが焦ったようにルウシェの顔を覗き込んだ、その瞬間。
「……あ、天国が……」
ルウシェは完全に限界を迎え、両目の黒目をぐるぐると激しく回転させながら、パタリと後ろへ倒れ込んだ。
「ルウシェ!!??」
倒れたルウシェの身体を、クラインが受け止める。。
(……あぁ、推しが私の名前を呼びながら抱きしめてくれてる。……ここ最近、幸せな日が続いて……こあぁ、のシーンも確かゲームで、見た、ような……)
腕の中にすっぽりと収まりながらも、意識が当座買っていくぎりぎりまで幸せを噛みしめるのだった。
その喧騒を、遠く離れた木陰から静かに見つめる一人の男子生徒が眺めていることも知らずに―-。




