第二章6「時計塔の怪物とは」
「ルウシェ!? 無事だったのか!」
フワリと着地をした彼女に駆け寄ろうとする彼らを、ルウシェは手で制した。
「来ちゃダメです! この魔獣は私がやります。アメリア先生、防御魔法で皆さんを守ってください」
ルウシェのただならぬ気迫に、アメリア先生は暫く考えルウシェの指示に従う事にした。
「……分かった、ここは任せたよルウシェ! クライン君、レイン君は生徒達とボクの後ろに」
アメリア先生は素早く杖を突き出し、背後の生徒達を包み込むように広域の結界魔法を展開した。
「我らを守りだまえ……シャイン・ベール!!」
光の壁が周囲の生徒達を包み、安全が確保される。クラインとレインは、ルウシェの「私がやる」という強い瞳を信じて一歩下がった。
(待って待って、なんで一章の隠し中ボス『ヴァンパイアスネーク』がここにいるの!? ……でも、私の最推しを傷つけようとする奴は、公式の特選魔獣でも私が絶対に許さないっ!!)
「……いざ!!」
ルウシェは杖を前方へ突き出し、大蛇に向かって一歩前に踏み出した。その小柄な身体から膨大な魔力が溢れ出す。
「シャーーーーッ!!」
標的をルウシェに変えた大蛇が、猛スピードで突進してくる。
しかし、ゲームを何百周とプレイし、行動パターンを全て脳内に叩き込んでいるルウシェにとって、その動きは完全に予測通りだった。狙うのは大蛇の喉元にある、逆さに生えた白い鱗。そこだけが唯一、装甲の薄い弱弱点だ。
ルウシェは魔力を杖の先端へ、超高密度に一点集中させる。
「これでも喰らいなさい!! ――シャインニング・ショット!!」
極大の光線が放たれる。
アメリア先生の爆炎すら弾いた大蛇の重装甲を、ルウシェの放った一撃は、喉元の弱点ごと跡形もなく一瞬で貫いた。
バタァァァン
悲鳴を上げることすら許されず、ヴァンパイアスネークの巨体は動かなくなった。
静寂が戻った森の中で、ルウシェは「ふぅ」と大きく息を吐き、杖をぎゅっと握りしめた。
(はぁぁ……! 推しが無事で本当によかった! 私の大勝利!!)
そんな事を思うルウシェに、それまで静まり返っていた生徒達のざわめきが湧き上がる。
「な、なぁ……今の上位魔獣、アメリア先生の魔法すら跳ね返したよな……?」
「それを、あの一年生が一人で? 一撃で消し飛ばしたぞ!?」
「『時計塔の怪物』って……実力が怪物って意味だったの!?」
生徒達の誰もが驚愕してる中。
「本当に素晴らしいよルウシェ! ボクの自慢の生徒だよ〜〜!!」
「なっ……!?」
周りの目など気にせず、そのままルウシェにがばっと正面から抱きついた。
「ふにゃっ!?」
「君のその圧倒的な才能、ボクは担任として誇らしい!」
「あ、アメリア先生。ち、近いです、苦し……っ!」
アメリア先生にぎゅーっと抱きしめられ、ルウシェの顔が彼の胸元に埋まる。
その瞬間、すぐ目の前で信じられないほど禍々しいオーラが膨れ上がった。
「……アメリア先生。今すぐルウシェから離れて貰えますか」
地獄の底から響くような低い声。
アメリア先生の抱擁を阻止する事が出来なかったクラインが、顔を修羅のように歪ませて立ち尽くしていた。
「いや、ちょっと待ってクライン君、ボクは担任として愛情を――」
「ルウシェに触れていいのは俺だけだ。……三秒以内にそ離れなければ斬ります」
「クライン様、落ち着いてください! はぁ……アメリア先生もその様な事は控えてください」
そんなやり取りをアメリア先生の腕の中で聞いていたルウシェはドキドキ感よりも「役得だ……」とオタクとして感動していた。
(この状況は心臓に悪いけど、クライン様の嫉妬心? ゲームで主人公に向ける表情じゃないですか! まさかここで見れるとは……アメリア先生の腕の中だからちゃんと見れないけど、尊い!!)
と、自分自身が主人公だという事を忘れて。




