第二章2「担任と授業」
「あ、あの、お茶を……どうぞです……」
「ありがとう、ルウシェ。君の淹れたお茶はとても美味しいよ」
「あ、うっ……!」
先日、最推しのクラインから求婚を受けたルウシェ。
返事をまだ言えずにいるルウシェは、クラインの付き人、レインが「まずは、お互いを知る所から始めてみては?」と言う提案により、いつも通りお茶会を開く事に
好き、と言う感情に気付いてからのクラインは「お前しか見えない」と言わんばかりの熱い視線をルウシェに送る。
お茶を出し、彼の正面に座るルウシェはと言うと。
(ど、どどど、どうしよう!? 見られてる、顔良すぎで尊死する!! 告白されたせいで、いつも以上に緊張しちゃう……!)
自分を落ち着かせるために、一気に紅茶を飲み干すルウシェの横で、人工精霊ピィちゃんが助け舟をを出す。
「クライン様、これ以上その笑顔を至近距離で浴びせるのは控えてあげて下さい。お嬢様がドキドキで爆発しそうです」
「そうか……。だが、ルウシェが可愛くてな」
「かかかかか、かわいい!?」
動揺し声を上げるルウシェに、レインは「やれやれ」と口を開いた」。
「クライン様、少しルウシェ様をからかいすぎですよ。……それにしても、学校の噂は本当にあっという間に広まりますね。最初は『時計塔の怪物』と言われ恐れられていたこの場所が、今や『時計塔の怪物は、天才騎士を魅了する女神様だった』なんて噂に変わってるようです」
「俺にとってルウシェは女神だ。実際、魅入られているしな」
「直球なのは素敵ですが……ルウシェ様の頭から湯気が出ていますので、ここまでにしてあげて下さい」
レインが呆れたようにため息を吐いた、その時だった。
再び、コンコン、と時計塔の入り口から音がする。やけに軽快なリズムでノック音。
「やっほー! 3人で楽しそうなお茶会中ごめんね、お邪魔しちゃうよ〜〜ん!」
「ひゃうっ!?」
変な悲鳴を上げてルウシェが椅子から飛び上がる。
勢いよく入ってきたのは、どこかおちゃらけた雰囲気の美形の男性。彼はルウシェのクラスの担任であり、彼女の引きこもり生活を温かく見守ってくれている良き理解者――。
アメリア・ヒューズ先生だった。
「ルウシェぇぇぇ〜〜〜!
会いたかったよ〜〜!
今日も世界一可愛いねぇぇ!」
アメリア先生は部屋に入るなり、両手を広げてルウシェに勢いよくハグをしようとする。
「お嬢様から離れて下さい、不審者」
「先生、俺のルウシェに抱き着こうとしないで貰えますか」
すかさず、ピィちゃんとクラインが殺気混じりでアメリア先生の行く手を阻み、レインが冷ややかな笑顔でその進路を塞いだ。
「うおっ……! 二人はガードが固いなぁ。ボクは担任として、愛する生徒に愛を囁きに来ただけなのに!」
大袈裟に肩をすくめる先生にピィちゃんが不機嫌オーラを放ちながら先生の前に近寄る。
「……おい、そこのおちゃらけダメ教師。うちのお嬢様に気安くハグしようだなんて、一億年早いんですよ。消し炭にしてあげましょうか?」
普段のピィちゃんとは違う姿に一同驚愕。ただ
一人、アメリアは驚きもせずニコニコと笑顔を見せる。
「もう〜〜、相変わらずだね精霊さんは。ボクと皆と同じ扱いしてよ〜〜」
「ふんっ、絶対にしません!」
プイッと顔を背けるピィちゃんとアメリアのやり取りをポカンとした表情で見ていたルウシェ達。
この状況をどうしたらと焦るルウシェに気付いたレインは、アメリアに何しに来たのかを尋ねた。
「アメリア先生、本日はどうされたのですか?」
「そうだったね! あーー……コホン。今日はね、ボクから可愛いルウシェに特別な提案があって来たんだ」
「……特別な提案……?」
首を傾げるルウシェに、パッと表情を輝かせ、人差し指を立てるアメリア。
「ジャジャーーン! 明後日の『授業』、ボクと一緒にちょっとだけ参加してみないかい?」
「じゅ、じゅぎょう!?」
ルウシェの顔がみるみるうちに青ざめていく。
他人の視線、ざわめき、集団行動――。
そのすべてが恐怖の対象。
小さく震えだしたルウシェを見て、アメリア先生はす「大丈夫だよ!」と話を続ける。
「普通の座学だったらボクだって無理に誘わない。だけど、今回は屋外での【魔獣討伐】の授業。しかも、彼ら特級騎士クラスが同行することになっているんだ。つまり、クライン君やレイン君も参加するんだ」
「何故、今になってルウシェを授業に参加させるんですか?」
「確かに。急な展開ですね……」
クラインとレインの問いに、ブンブンと首を縦に振るルウシェ。
アメリアは、その質問に苦笑いで答えた。
「先日の襲撃事件があっただろう。どうやら最近、魔族達の動きが不穏らしいんだ。だから授業でも魔獣討伐を積極的に行う事になったんだけど……」
護衛役としてルウシェの名前が浮上し、これからも引きこもる権利を渡す代わりに演習に出させて欲しいとお願いされたと話す。
「ごめんね、ルウシェ。もし本当に嫌なら断っても構わない。君が人との関わりを恐れているのも知ってるからね。……ただ」
スッとルウシェの耳元に口を近づけ、クライン達には聞こえない様に。
「クライン達達の格好いい姿が見れるし、すぐ側で彼を護れるよ」
(……っ!!!)
ルウシェの脳内に、電流が走る。
(先生、おちゃらけてるクセにオタクの需要を完璧に把握しすぎでは!? 確かに、間近で見ては見たい……)
オタクとして生で推しの戦闘シーンを拝める。
しかし、人と関わる事が怖いルウシェが、どうしたらと表情を曇らせる。
「……もし参加するなら、俺が、お前を絶対に守る。……まぁ、いつも護られてばかりだが」
クラインが真剣な眼差しでルウシェを見つめ告げる。
「周囲の目が気になるなら、私達が壁になります」
レインもまた、安心させるような穏やかな微笑みを向けた。
(護られる……?いや、私が推しを護るんだが!? て言うか、2人がもし怪我する事になったら嫌だな……。それに、森の中だと水鏡で観るの草で隠れたりして面倒だし……)
ルウシェ少し考えた後、ぎゅっと拳を握りしめ覚悟を決める。
「わ、わたし……、がんばって、授業、でます……!」
「やったぁぁ! ありがとう、ルウシェ大好き!」
「抱き着こうとしないで下さい。お嬢様が困ってます」
「ルウシェ、共に頑張ろう」
「私達が全力でお護りしますから」
「ひえぇぇぇぇぇ……!!」
こうして、授業に参加する事を決めたルウシェ。
この後、とんでもない波乱の幕開けになろうとは思いもしなかった。




