第一章10「目立って、逃げて、告白、求婚」
魔族による銃撃が終わった。
一人の魔術師に、避難していた生徒や教師たちから「うおおおおっ!」と歓声があがる。
しかし、当の本人であるルウシェは、注目を浴びている事に動揺し固まっていた。
(ひ、人がいっぱいいるぅぅぅ! こっち見てる! 無理無理無理無理、怖いっ!!)
たった今、学校を救った少女は、ガタガタと小刻みに震え出していた。
「お嬢様、帰りましょう」
「う、うん……! 帰る、今すぐおうちに帰る……!」
周囲の歓声に怖がるルウシェは涙目で頷くと「開かずの時計塔」へ逃げ帰ろうと足を進める。
だが、その歩みは止められてしまった――。
「――待ってくれ、ルウシェ!」
背後から聞こえたクラインの声。
振り返るよりも早くガシッと、ルウシェの腕を掴んだ。
「ひゃあっ!?」
引き留められた勢いで、深く被っていた白いローブのフードが、するりと後ろへ滑り落ちた。
「あ……」
クラインは「やってしまった」と息を呑む。
フードの下から現れたのは、白銀の髪に桃色の瞳を潤ませ、頬を林檎のように真っ赤に染めた、息を呑むほどに可憐な美少女の姿だった。
「女の子だ!!」
「あいつ、あの『開かずの時計塔』から来てたよな……?」
「じゃあ『時計塔の怪物』って、女の子だったの!?」
「めちゃくちゃ可愛いじゃねぇか……!?」
広場が、歓声から響めきへと変わっていく。
(ば、バレしたぁぁぁぁぁ! 違うの、私ただの陰キャオタクなの、そんなキラキラした目で見ないでぇぇぇ!!)
「ヒェッ……!!」
ルウシェは限界を迎えて短い悲鳴を上げると、掴まれていたクラインの手をすり抜け、凄まじい速度で時計塔へと駆け出していった。
「待ってくれ、ルウシェ……俺はっ!」
「ご、御免なさいぃぃぃ!!」
伸ばしたクラインの手は、虚しく空を切る。
「……逃げられてしまいましたね。追いかけますか?」
レインは苦笑いを浮かべクラインに尋ねた。
「……任せても良いか、レイン」
「かしこまりました。後の事はお任せください」
クラインは「行ってくる」と言いルウシェの後を追い、時計塔へと走っていった。
◇◇◇
何とか「開かずの時計塔」へと逃げ帰ったルウシェは、バタンと勢いよく扉を閉め、鍵を掛ける。
「ハァ、ハァ……死ぬかと思った。周りの視線が怖すぎて涙目になってる所、クライン様に見られちゃった……さ、最悪過ぎて消えたい……」
布団の中に潜り込み、落ち込むルウシェ。
「お疲れ様ですお嬢様。学校の危機を救った所までは良かったんですがね……」
布団の上に飛んで来たピィちゃん。魔術師としての実力は褒めてくれたものの、最後の最後で逃げてしまった事はマイナス点だと感想を述べた。
「クライン様、何か言いたそうでしたが逃げて良かったのですか?」
「……これでいいの。私はまたここで静かに推し活を……」
外の世界は怖い。
私はここで大好きな推し、クライン・ミストレイクを怪我一つさせない完全無双にして見守りたい。ただ、それだけで良かった。
その時はず、だったのに――。
バアァァァァァンッ!!
一度修理で直ったはずの開かずの扉は、凄まじい衝撃音と共に再び壊れた。
「な、何!? 」
あまりの衝撃音に布団から跳び起きたルウシェの目に飛び込んできたのは、息を乱し必死な顔をしたクラインだった。
「ハァ……ハァ……やっと追いついた、ルウシェ」
「く、クライン様!? な、ななな、なんで扉を粉砕して入ってくるんですか!?」
「君が逃げるからだ」
クラインは、布団からルウシェを引っ張り出し強く抱きしめた。離れようと抵抗するがびくともしない。
「ク、クライン様……あの、ち、ちちち近いです、距離感がバグってます……っ」
「離したら逃げるだろう。……俺は君が好きで、妻にしたい程なのに」
「な、なななな、何を仰って……! すすす、好き!? 妻!? どこでそんなイベントが起きたんですか!?」
顔から火が出そうなほど真っ赤になり、パニックで目を回すルウシェ。
そんな彼女を見て、クラインは「そういうところだ」と笑みを浮かべた。
人見知りで会話もぎこちないが、誰よりも強く優しい、俺をずっと護ってくれていた少女。好きにならない方が難しいとクラインは告げた。
「返事はゆっくりでいい。良い返事が貰えるまで、俺は君の所に来るつもりだからな」
「えっ……」
「覚悟してくれ、ルウシェ」
拝啓、前世の私へ――
どうやら私は、とんでもない世界に来てしまったかも知れません!
コミュ障の引きこもり、これからどうなってしまうのでしょうか!?
第一章(完)
次回『引きこもりの初授業』




