魔人グリモワール=スフィア
「第二ラウンドの始まりだ!」
スフィアはにやりと笑うと、右手に魔力を集め始めた。
おおっ、すごい魔力だ。こめられた魔力量を試算すると、とても人間には扱うことのできない濃度だ。こりゃシャングリラとは比べ物にならない。
流石は古より生きる魔人といったところか。
感心していると、スフィアは右手を私の方へ向けてきた。
途端、視界が黒く染まる。
放たれた魔力の塊は どごおおおおおおん! と音を立てて大爆発を巻き起こした。
「黒は魔力濃度が一定の値を超えた証。そしてこれが俺様の通常攻撃、名を黒閃砲という。ま、一定量の魔力を込め打ち出しただけだがな。中々の威力だろう?」
フハハハハハ!いう笑い声を上げているスフィアを横目に私は風の魔法で、舞い上がった土煙を吹き飛ばす。
こんな視界不良の中、戦うなどごめんだ。
俺の姿を見たスフィアは歓喜の表情を浮かべていた。
「いいねぇ!これを受けて立っていられるとは見どころがある!」
「結界は昔にはなかったのかな?」
「六角形に魔力を形成しつなぎ合わせ魔力そのものを通さない網を作る。おもしろい!だが長くは続かんだろう?なにせそんな量の魔力を放出し続けるほど人間の保有する魔力量は多くないのだから」
実はそんなことはない、結界の規模と硬さを決めて固定すれば以降張り直すまで魔力消費はない。
それにしてもスフィアの使った魔法には興味をそそられる。
とても変わった術式だった。今では使わないような魔力の流れ、構成、成型の仕方、発動方法も独特だ。
観察を続ければ気弾のような技も習得できるだろうか?
「もう少し見せてもらえるかい?」
私が声をかけると、スフィアは『黒閃砲』を連射してきた。
うんうん。サンプルがたくさんあって助けるね~
「ふむ。黒閃砲を受けて無傷か」
「えぇ、結界は固定すれば魔力の消費はほぼないから気にしなくていいわよ?さぁあなたの力をじゃんじゃん見せてちょうだい!」
再度興味深そうに結界を観察しているスフィアに言葉を返す。
やはり攻撃魔術は実際に受けてみないとわからない事も多いからな。うんうん。
逆に結界は攻撃してみないと強度を測ることはできないからね~構造とかも理解するのは苦労するだろうしお互いに膠着状態は願ったりかなったりなはずだ。
しばらくスフィアは『黒閃砲』を繰り返していたが別の詠唱を始めた。
「二重詠唱 『『黒閃砲』』」
詠唱が終わって以降、スフィアの通常攻撃とやらの数が増えた。
どうやら『二重詠唱』は純粋に手数が2倍になる補助魔法のようだが、あれは別々の魔法を発動させて相乗効果を狙うのとか面白そうだ。
そんなことを考えてながら魔力弾の考察を終え、試しで放ってみる。
「波動弾!」
「ぬぅ。小娘に技の解析速度で負けるとは…癪だが誉めてやろう」
「ありがと」
「だがこちらも『結界』とやらの使い方わかってきたぞ?」
そこからはお互いの技術を解析し合う楽しい時間が過ぎていった。
「ここからは完全オリジナルだ!」
そういって私は左右の腕から風の魔法で保護した水の刃をアサシンのように生み出し、現代体術を繰り出した。
「昔にも拳や足に魔力を集中させ拳法を繰り出してきたやつはいたが今はそうなっているのか。人体の可動域ってやつはよく分からんが、どれだけ洗練されたのか見せてもらおう!」
「何千年前か知らないけど現代戦闘は高速化してるのよ!ついてこられるかしら?」
「ならばそれを糧に俺様は更なる高みを目指す!」
「その前に倒し切ってやるわ!」
スフィアは初め正拳付きや回し蹴りなど基本的な技しか使わなかったが私と組み合ううちにどんどん上達していった。
例えば前に小鬼達で試そうとした三段蹴りを披露した後にはクリーンヒットされたがあれには驚いた。
結界を張るのではなく魔力そのもので防御する方法を会得していなければここで決着が付いていた。
これはスフィアが魔力とは何かを説明してくれたおかげである。
そうして何千何万回と組み手を重ねた結果お互いに一つの結論へ辿り着いた。
『これでは決着が付かない』
「やっぱ魔法を使う者同士決着は魔法で決まるのかしら?」
「徒手空拳だったか?まぁこの戦いの決着には無粋よな」
「そうね。あなたのおかげで魔法のことをさらに深く知れたから試してみる価値はありそうね」
「魔の深淵へようこそ。お前が底を覗くのを楽しみにしているよ」
「底ってのは個人が思ったところでしょう?人によって異なるのではないかしら?」
「それもそうだな」
「あなたって意外とロマンチストなのかしら?」
「さぁな?最終ラウンドと行こう!だがお互いに楽しもうではないか」
「相手を育てたことを後悔するのはどちらになるのでしょうね?」
私がこの戦いで得たことは『魔力を元に魔法を発動する』ことだ。
今までは魔力を用いて空気中の水分を使って水の魔法を行使したり核分裂を魔力で起こしていると認識していたが今は違う。
それらすべてを魔力を変換させて行使するのだから、威力が何倍になっているのかとても楽しみである。
「火球」
「初めより威力が上がった?小娘!俺様を相手に手を抜いていたのか!」
「違うわよ。あなたが魔法は魔力を変換させて行使するものだって教えてくれたから魔法を発動する時のイメージを変えてみたのよ?」
「な!?」
「さ?どんどん行くわよ?」
この方法に変えてからいくつかの利点が生まれた。
大まかには以下のことがが上げられる
『同時展開できる個数と一つ当たりの威力が増したこと』
『魔法発動までのラグと魔力消費量が減ったこと』
『ある程度相性に関係なく魔法の同時行使を行えるようになったこと』
「さぁ!実験を始めようか!」
数多の魔法を試している途中で
「やめろぉ!やめてくれぇ!これ以上は存在が保てなくなる!」
なんて聞こえたが知ったこっちゃない。
いいサンドバックが見つかったのだ。使わない手は無いだろう?
「すみませんでしたぁぁぁっ!」
スフィアはこの戦いを糧に強くなると豪語していたくせに攻撃魔術を数千回ぶつけた程度で私の前で、両手を地面に突いた。
ふたを開けてみれば歯ごたえのないやつである。
「おいおい。いきなりどうしたの?土下座なんかして」
「許してくだせぇピース様!もう悪さはしねぇ!あんたが上で俺がしたの契約魔法を交わそう!だから、なっ!頼む!もう攻撃魔法の実験台にするのはやめてくれ!」
涙ながらに訴えてくるスフィア、正直興ざめだがまぁ使い魔というのにも興味があったし、大昔を知るこいつの記憶や知識も気になる。こういうのを一匹確保しておくのも悪くないだろう。
「はぁ。わかったよ、じゃあ私と契約する?」
「へいっ!喜んで!」
契約術式を編み、私の差し出した手にグリモワールは縋りつく。
しばらくの間眩い光が私たちを包み込み契約が完了した。
「ところでスフィア?あなたそんな姿じゃ目立つわね。可愛いペットみたいになったり姿を消したりは出来ないの?」
「俺様を愛玩動物みたく扱うんじゃねぇ!」
「んーなら王宮の中じゃ厳しいか。あの森ででも放し飼いするか?」
「森ぃ!?そんなとこ誰が行くか!せっかく王宮とかいう楽しそうなとこで暮らせると思ったのによ!あーあーわかったよ!やりゃいいんだろ!やりゃよ!」
「いーこいーこ」
「ガキ扱いすんな!」
変身魔術はかなり難しい魔法だし、その使い勝手の悪さから使い手を選ぶ魔術だが使えるとは。期待できそうでなにより。
変身が終わったスフィアの容姿を簡単に言い表せばデフォルメされたタロットカードの山羊の様な見た目でふわふわと宙に浮いている感じだ。
「じゃ、お前は第二図書館で契約した使い魔ってことで上で待ってる父さんたちには説明するから余計なことは言わないでよ?」
「あ、あぁ。いや分かりました!」
「ピース様!ご無事に戻られてよかった!私は心配で心配で…」
「ピースここはどうだった?楽しかったか?どのような知識を得たのか教えてくれぬか?」
上に上がるとまずレティシアに抱き着かれた後、父さんに質問攻めにあった。
こういう時は生贄を用意すればいいのである。
「父さんが聞きたいであろう質問はこいつが答えてくれるから!じゃ!私湯浴みがしたいから行ってくるね!後よろしく!」
「へ?ちょ!ピース様ぁ!そりゃねーですよ!使い魔虐待にもほどがありますって!」
新しく手に入れた使い魔にその場の面倒ごとを全て押し付けて私は大浴場へと逃げ込んだ。
「ピース様!本日は王立古代魔法魔道具保管室に行かれたのですよね!どのようなところだったのか我々に言える範囲でよろしいので聞かせてくれませんか?」
魔の手はここにもあった…
この時、上に居た皆さんはあたふたしていただけでしたが、レティシアさんは今だけSランク冒険者に復帰してピース様についていこうか本気で考えていました。




