仮初の成功体験
「日はもう沈みかけている。今日はここで泊まり、帰還は明日とする」
気づけばもう夕暮れ。
夕日が湖面に反射してとても綺麗で映えている。
「王宮に帰ったら絵を描かせようかな?」
「それがよろしいかと」
「本当はこの目に焼き付けるだけで十分なんだけどね?必要なことならやるわよ」
「成長なされましたね」
「私はやればできる子なのよ」
「成長ですね。あ、ピース様、私達が寝るテントに着いた」
広いテント何には机やらの家具が置いてあり外からの光景とは裏腹に狭く感じたが私はこの部屋で最も空間を占有しているのが巨大なベッドだという事実を見逃さなかった。
貴族の寝るベッドは一人用でもかなり大きいのだがこれはそれ以上だった。
まるで二人用の広さだ。
「ん?二人用?」
「はい。よくお気づきになられましたね。勝手にピース様がどこかえ行ってしまわれないように対策を考えた結果こういう結論に至りました」
「なるほど、いいアイデアだね…私の意見が全く反映されていないことを除けば」
「?」
こんなところで二人で寝ては夜にこっそり抜け出したら確実に目を覚ますだろう。
どうしようもないので夜は探知魔法の範囲と精度を実験することにした。
慣れないベッドで眠れなかった私は探知魔法で遊んでいた。
精度を上げてどこに何がいるかを把握したり範囲を上げて新しいものを発見したりと楽しかった。
地中や水中の探索をしていたころどこからか
オーンオーンと犬の吠え声に近い低い音が聞こえた私はあわてて探知魔法を下方向ではなく横方向に切り替えた。
「新手の魔獣ですか」
いつ間にか起きていたレティシアは布団から出ておりいつの間にか普段のメイド服に着替えていた。
驚くべき早い替えである。なんて軽口を言っている場合ではなくなったようだ。なぜなら音は複数の方向から聞こえているし、探知魔法にも複数の反応がものすごい勢いで拠点に向かってきている反応があるからだ。
外からも
「なんだこの咆哮は!?」
「どんどん近づいてくるぞ!」
「緊急事態だ!全員出てこい!防御陣形2-1!」
などと聞こえてくる。
本来魔獣というのは群れない。
なぜなら彼らはいわば群れのボスだ。
ボスが二体以上いる時、それはどちらかを群れから排除するまで終わることのない殺し合いが行われるのが自然界の掟だ。
『魔獣が群れている』この森では普通じゃないことが起きているということは分かった。
「夕方討伐した個体より強いぞ!」
「これは撤退も視野に入れるべきだ!」
「防御陣形3-2!」
「殿下。我々はこのまま撤退いたします。こちらへ」
「了解。いくよ、ピース?」
「分かった」
護られるやつがいつまでも敵地に居座っているのはただの負担でしかない。
「お話がまとまったところ申し訳ありませんが横から意見をいたします」
「なんだい?」
「すでに我々は背後を取られています」
「なんだって?」
「しかたがないがこうなっては中央突破しかあるまい」
事務的な会話で最短で撤退を決めた私たちは行動を開始した。
襲い来る魔獣を十数匹倒したところで近衛の一人が声を上げた。
「あの魔獣撤退当初に倒さなかったか?」
「ほんとだ」
「とどめまでは刺せていないがすぐには動けないほどのダメージは与えたはず…」
「一度倒せたのだ!ならば倒し続けるまで!」
なんて近衛は言っているがバッカロールお兄さまはそうは思わなかったようだ。
「魔獣どもの数が一向に減らん。このままだとジリ貧だ。近衛たちは顔には出さないが動きがかなり鈍くなっているし、ピースもかなりの距離を走ったから息が上がっている。十歳だから無理もないか…僕の方もそろそろキツくなってきた……! だが、兄として情けない姿を見せるわけにはいかない!」
なんて言ってるが正直レティシアの訓練に比べたら近衛達に守られながらただ走ることはそんなに苦じゃない。
向かってくる魔獣の本当の数が知りたかった私は探知魔法を近距離索敵型で展開した。
すると異質な気配を感じた直後、気が付くと足元を黒い霧が覆っていた。
「おや?私が街を作ろうとしているところに無断で侵入した皆さま?どこに逃げようというので?」
「街?」
「そうです。そこのお兄さん?ようこそ我が街へ」
「許可なんて出した覚えはないんだが?」
「下等生物人間の許可などを何故魔人である私が受けなければならないのやら?」
「言ってくれるね?法律って知らないのかな?」
「何度も言わせるなよ?人間」
交渉決裂を決定付けるかのように目の前の魔人から漏れる魔力に殺意がこもりだした。
それを裏付けるかのように霧が濃くなり視界を奪われた。
「さぁ皆さま方?我が街へと招待しましょう?」
「願い下げだね?」
そう言いながらも霧の中から襲い来る魔獣たちの攻撃に対応している近衛達に支持を出すバッカロールお兄さま。
だがどんどんと湖のほうへと押し戻されている事実に探知魔法を使っている私は焦っていた。
「殿下?」
「なんだい?」
「湖のほうへ押し戻されております」
「なんだって?霧で方向感覚を狂わされたか。それにしてもよく分かったね?」
「魔力探知にございます」
「なるほど」
そうこう会話をしていると霧を抜け湖に戻ってきてしまった。
後方を水、他を魔獣に囲まれた私たちは否応なしに魔人と会話せざる負えない状況に追い込まれた。
バカにぃが口を開いた。
「来たくはなかったが来てしまったものはしょうがない。ご招待ありがとう。と言っておこう君の名前は?」
「あー人間は名前に固執する生き物だったな。私の名前はシャングリラ」
「僕名前は…」
「要らん」
「え?」
「私たち魔人は強さで上下を決める。私の等級は17だ。人間にはそういうのは無いのだったな」
「あ、あぁ」
「ならばやはり私のやることに口を挟む権利はないな。やめさせたくば私に勝って見せよ」
「仕方ない。攻撃陣形5-1!突撃!」
「「おお!」」
「犬達よ遊び相手が来たぞ。じゃれてやれ」
シャングリラが一言命令を出すと魔獣たちが近衛と戦闘を開始した。
「さて。我々はタイマンでもするか?」
「仕方ないな」
「え?バカなの?3対1で一方的に倒すべきでしょ」
「はっはっはっ気の強いお嬢さんだ。だが私は君が気に入ってね?人形として飼おうと思ったのだよ。だから怪我をするようなことは許可できないな?」
「ならば私がお前を倒せば万事解決ですね?ピース様にお前ごときが条件を突き付けるなどおこがましいのですよ」
とても現実思考なピース様。




