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水面下の攻防を勝者は笑う

 サイロスは6人の中で最も己の幸運に感謝している自信があった。

 父に半ば無理やり連れてこられたサロンだが本音を言うならウルメリア殿下がおられる外の訓練場に足を運びたかった。

 なんでも数日前に新しく魔剣を新調されて射程1000mの大台突破にチャレンジなされるとのこと。

 その姿を目に焼き付けたかったし、訓練場で筋のいい魔法を行使すればもしかしたらお声を掛けてもらえるかもしれない。

 そんな淡い期待をしていたのだが父から『バッカロール殿下がサロンに来られる。同席する確率を上げるためにお前も来い』と言われてしまった。

 しかし二人して同席争いに破れてしまい、他のものと卓を囲むのに失敗した私は父の所に転がり込んだ。

 だが今はそんな醜態(しゅうたい)も忘れるような転機にいる。

 あのピース王女殿下と同卓しているのだ。

 最近話題のことで王女殿下が興味を持ちそうなことは一体何だろう?

 そういえば数日前に王宮の一室から白煙が立ち上る事件があったな。

 その場にいた宮廷魔術師たちの尽力で事なきを得たらしいが誰にもお咎めが無かった不思議な事件だ。

 少し脚色を加えて面白おかしく話せば興味を惹けるのではないか?

「ピース様そういえば数日前に王宮の一室から白煙が上がった事件をご存じですか?」

「いえ、詳しく聞かせてくださらない?ベット5()6()3()

「何でも白昼いきなり()()()()()()から煙が上がったとか。コール」

「それは恐ろしいですわね。もし賊の仕業ですと視界が覆われているうちに何をされるか不安ですわ。ベット4()1()1()0()

「もしそうなってもこの命に代えましても殿下をお守りいたします。コール」

「心強いですわ。4()8()9()3()1()

「お任せを。オールインコール」

「Aのスリーカードですわ」

「まさかのセットオーバーセットですか…参りましたな。Qのスリーカードでしたのに」

「運がよかっただけですわ」




 パットン男爵は6人の中で最も己の幸運に感謝している自信があった。

 情報収集のためサロンに通うのはいいがあまり人と馴染めず有益な情報を得ることが叶わない毎日。

 今日は伯爵の方から声を掛けてくれるという幸運があり、しかもその伯爵から冒険者絡みの情報を得ることができた。

 それだけでも成果は十分なのにまさかの王族と同席することとなった。

 始めは周りからその席をどけなどと脅されるのではないか?と不安でいっぱいだったがそんなこともなくゲームは再開した。

 王女殿下は自分がこういう場に不慣れなことに勘づかれたのか私と会話する際は私のペースで会話してくださるし、腹の探り合いを仕掛けてくるご様子もなく本当に優しい方だ。

 今日は殿下と仲良くなれたしまた今度お茶にでも誘ってみようか?

 そんなことを思いながら時間は過ぎてゆく。




 フランミル=ガットンは6人の中で最も己の幸運に感謝している自信があった。

 数日前は休暇だったが上司に『お前はレティシアさんの訓練を受けたことはなかっただろう?あれはためになるから一度は受けておいた方がいい』と言われ特別講師のレティシアがやるという訓練に、師団長にまで上り詰めた自分と一兵卒どもが同じ訓練をすることに苛立ちながらも思い切って休日返上で参加した。

 講師はメイドだったので初めは騙されたと思ったが、終わってみれば実りのあるものだった。

 途中から体中が悲鳴を上げたことを除けばだが。

 仲のいい宮廷魔術師にたっぷりと愚痴をこぼしてしまった。

 そして休日の今日はサロンに入室する申請が通った。

 バッカロール殿下がおられたが今日は休日なためあまり気負うことなく適当な席についたがその席があたりだったのだ。

 開始当初の人間は外れだったがなんとあのピース様が途中参加なされたのだ。

 自分から近衛として売り込むのは逆効果なので特別教師としてきたピース様専属メイドのことを褒めておくことにした。




 チャーリー=ビクティムは6人の中で最も己の幸運に感謝している自信があった。

 元々五歳のお誕生日パーティのドレスを作ったのはいいがそれからというもの十三王女殿下との関わりは薄れてしまった。

 しかしここでに来てその十三王女殿下とゲームで同席する機会に巡り合えた。

 以前お忍びで新米の店にドレスやら靴を買いに行かれたという。

 あんな弱小商会にも足を運ばれたのだ、自分を売り込めれば最近弱まってきた我が商会の発言力も復活するというものだ。

 確かピース殿下は宝石類や魔術にご興味を持たれていたはず。

 ここで接待をこなしてあとで一対一で商談する機会をセッティングしよう。




 マリー=ガッテムは()()()()()を確信していた。

 何せ『夫とピース王女殿下の関係性を広める』という彼女の仕事はもうすでに終わっているからだ。

 そもそもこのテーブルで政治力においても社交力においても自身に勝っていたのは伯爵のみであった。

 そしてピース王女殿下との関係値で行けば数歩先に行っている分他の追随を許さなかったし許すつもりもなかった。

 そして同卓者たちはピース王女殿下の気を惹こうと最近あった事件を話しているが、少しばかり王族の動向に情報網を持っていれば、それら全てが王女殿下本人が起こしたことであると知ることが可能な情報だった。

 伯爵が話した森の事件は王女殿下が暇を持て余してこんな場所に足を運ぶこととなった原因である。

 男爵に至っては会話にすらなっていない。

 この卓がお開きとなった後は記憶にすら残っていないだろう。

 師団長は王女殿下の謹慎が解かれた後すぐに会えば覚えておいてもらえる可能性はある。

 商会長のほうは最近落ち目なのか多少頑張っているがまだピース王女殿下のご興味が宝石と魔術書だと思っている様子。

 最近あった献上品保管倉庫での一件を知る者からしたら滑稽(こっけい)もいいところだった。

 伯爵の息子に至っては論外どころか最悪極刑もあり得た。

 白い煙事件は謹慎中の王女殿下が付与魔術の作業中にやらかした事件だ。

 隣の部屋に居合わせた宮廷魔術師たちの現場努力で事なきを経てピース王女殿下の関与がもみ消された一件だ。

 それに脚色を加えて本人に話すなど最早侮辱に等しい。

 それを裏付けるように先ほどからベット額が

「563→ころす」

「4110→しいね=しね」

「48931→しはきゅうさい」

 ととても物騒な語呂合わせとなっている。




 各々の思惑渦巻く7人卓は8人目の参加によってさらに混沌(カオス)となっていく。

「ピース。情報戦(ゲーム)は楽しんでいるか?」

「えぇ。それなりには楽しんでおりますわ。バッカロールお兄様。本日もうこんなに勝ちましたの」

「そうか。それは何よりだ。私の方の卓は解散(割れて)しまってね。こちらに混ぜてくれないか?」

「私に聞かれても困ります。この卓は私が立てたものじゃないですから」

「それもそうだな。グラン伯爵、久々に妹と遊びたいのだが同卓してもいいだろうか?」

「もちろんご参加なされてください!殿下の申し出を断るはずがございません!」

「そうか。ありがとう」

「セ、席替えを致しましょうか?」

「いいのかい?じゃあ公平にくじ引きと行こう」




 公平(?)なくじ引きな結果ピース→バッカロール→男爵→伯爵→息子→商会長→師団長→マリー婦人と円形に卓に座ることとなった。


 ほどなくして王子たちが会話を始めたので、他の参加者は完全に空気となった。

「最近メキメキと魔術の腕を上げているらしいじゃないか?」

「お褒め頂きありがとうございます」

「私にはその手の才能は無いし政治もよくわからん。こうして道楽に興じられる立場に産んでくださったお父様とお母さまには感謝せねばな」

「ご冗談を。戦場(サロン)で立ち回れているのです。情報戦(カードゲーム)は得意でしょう?」

「まぁ。他の連中が王位についたら手助けしてやれるくらいには、な」

「王になった兄姉(けいし)の皆様は心強いと思いますよ?」

「お前は興味ないのか?私からしてみれば魔術剣術政治どれを取っても申し分ないと思うが?」

「ご冗談を。それに私は王位に興味がありません。バッカロールお兄様と同じく自分のやりたいことをやっているだけです」

「そうだったか」

「はい」



 私はバッカロールお兄様が王位争いから意図的に身を引いて余計な火種が生まれるのを水面下よりさらに下、深海の段階で数えきれないほど潰しているのを知っている。

 このサロンだってそういった情報を集める一つの道具に過ぎない。

 この席に来たのは集めたい情報を集め終わり、恐らく起こるであろう「一対一のお誘い」から私を守るためだろう。

 この兄のそういう細かな気遣いが憎めないのだ。

 そんなことに感謝しながら数時間後にお開きになった卓をバッカロールお兄様とその供回りの人間にガードされながら後にした。


バッカロール殿下の元ネタは「バカのロールプレイをする」からきています。

本人は優秀な王になれる器ですが性格的に水面下で情報を集める立場が一番合っていると思っており、そこを目指しています。

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