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08

 バリケードタウンの外は無法地帯。

 どこにどんな化け物が潜んでいるのか予測できない。言うなれば地雷原。それも土地という土地がそうだ。

 つまり地平線の彼方まで、安全な場所などないに等しいということ。

 だがオウイチロウはそれを承知で、3人に西へ調査に行けという。

 ホノンは島流しの刑罰だとしか思えなかった。


「オレとホノンはこの街に尽くす警備隊……つまりオウイチロウさんの部下でありますから、命令さえしてくれれば断りません」

「えっ、嫌……ッ」

「ホノン」


 ヨーゴは黙れと直接的には言わず、ただ猛烈な圧力と怒気を込めて、静かに名前を呼んだだけ。

 それだけで気の弱いホノンは屈してしまう。

 これをハラスメントだと訴える度胸は、彼女にはなかった。


「ウチも警備隊なんでオウイチロウさんの命令に従います……うぅ〜、でも一つ聴いていいですかぁ」


「なんだ?」


「なんでウチ達3人なんです?」


「そりゃあ、お前らが一番生き残りやすいだろうからだよ……ヨーゴもカガヤも自衛手段があるし、ホノンは観察力と判断力。それに逃げ足に秀でてるし」


 生存率が高そう――それ以上でもそれ以下でもない実にシンプルな理由。なのでこれ以上の言及ができない。そのためホノンは黙ってしまう。


「んじゃ2人には命令させてもらう……徹底的に調査し、必ず生きて帰ってこい」


「はい!」

「……はぁい」


 やる気に満ちた声とそうでない声が同時に聞こえて、オウイチロウは満足そうな表情を浮かべる。

 彼は自覚していないが、個性的な人間を信頼する傾向があった。


「んでカガヤ……お前にだけは頼むよ」


「ならボクからもお願いがあります」


「……遺言の件か?」


 オウイチロウはカガヤの反応を予想していた。

 驚いた様子を見せたカガヤは、一呼吸置いて冷静さを取り戻してから「そうです」と続ける。


「もしこの命令をこなしたら、さっき話した師匠の遺言の件……考え直してくれますか」


「そうくると思ってたよ……」


 あまりにも予想通りの話に、オウイチロウはちょっぴり笑ってしまう。


「これがリスクに見合うリターンだとは思っていません……ですが、どうかお願いします」


 カガヤはそう言って頭を下げる。

 先程とは違い、ちゃんとリターンを提示してきた彼を、内心でオウイチロウは気に入った。

 彼も言っている通り、リスクに見合うリターンとは言い難い。

 調査に行ってもらうだけで、街が危険に晒されるかもしれないなど……統治者としてこの約束を受けるべきではないのは、オウイチロウも理解している。

 しかしカガヤも餌がなければやる気を出してくれないだろうと……オウイチロウはそう考えた。


「よし、わかった……前向きに検討しよう」


 オウイチロウは露骨に言葉を濁す。

 それでも充分とカガヤは感じた。


「ありがとうございます、では調査にボクも同行します」


 一連の話を聞いたヨーゴは何も言わず、ただ眉をひそめていた……懸念事項があまりに多いからだ。

 唯一、完全に部外者で話についていけないホノンはポカンとした表情を浮かべていた。


「3人ともありがとう……では3日後の日の出には出発してもらう。食料や水はこちらが用意するから、それ以外は各々準備しておくように。なにか他に必要なモノがあったら用意するから言ってくれ」


 3人は「はい」と返答する。

 その返事に何となく安心を覚えたオウイチロウは緊張を解すように息を吐いた。


「そんじゃあ解散でいいぞ、3人とも疲れたろうからゆっくり休め」


 オウイチロウから退出を促された3人はすぐに立ち上がり、軽く挨拶をしてからプレハブ小屋を出ていく。


「おい、カガヤ」


「なんでしょう」


 外に出た瞬間、ヨーゴはカガヤを呼び止める。

 その声に、傍にいたホノンも気になって立ち止まった。


「寝る場所なら、さっき教えてもらいましたけど」


「そんなことはどうでもいい……オレも監視のために同じ場所で休むからな」


「監視は続行なんすね……ボクのこと信用するって言ってませんでした?」


「敵ではないと判断しただけだ、信用はしない……いや違う、オレはこんな話がしたいんじゃない」


 しかめツラで首を振りながら、ヨーゴはため息をつく。

 そうしてから、ヨーゴは本題を切り出した。


「例の遺言の件、諦めるつもりはないのか?」


「ありませんよ」


 カガヤは迷うことなく即答する。

 この返答によりカガヤの意志の強さをヨーゴは確認した。 


「この街にいる大勢の人を危険に晒すことになってもか?」


「……これだけは譲れません」


 カガヤは顔を背けて、申し訳なさそうに答えた。

 人々の安寧よりも死者の言葉。

 そう答えるカガヤに、ヨーゴは少し間をおいてから「わかった」と言った後、渋面で黙り込んだ。

 そして一言も発さぬまま、さっさと寝床である監視塔へと歩いていった。


 残されたカガヤとホノンは無言のまま、その場に立ち尽くす。


「えっと……カガヤさん、ですよね?」


 無言に耐えきれなくなったホノンが、恐る恐る名前をうかがう。


「合ってますよ、ホノンさん」


「……よかったぁ、これからよろしくお願いしますねぇ〜」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 カガヤが手を前に出す。ホノンも快く手を差し出し、握手を交わした。


「そ〜だ、いきなり聞いちゃってもいいですか〜?」


「何をでしょう?」


 握手を解いた後、好奇心旺盛な様子でホノンが話を切り出す。


「ヨーゴさんもオウイチロウさんも知ってるみたいですけど、遺言って何のことです?」


 関係者のはずなのに自分だけ蚊帳の外なのは不公平。そう思ってホノンは聞いた。


「あぁ、そのことですね、えっと……」


 カガヤは特に隠すことでもないと思い、全てを明かすことにした。

 自分の師匠であるボルケーノ・ウィッチのこと。

 この街にいるというヒーロー、ピースガイに師の遺言を伝えに来たこと。

 ピースガイの精神状態を危惧したオウイチロウに拒否されたこと。

 などなど……経緯を全て伝えた。


「んー……申し訳ないっすけど、街の一員としてはオウイチロウさんの意見に賛同しちゃいますね〜」


「そうですか……そうですよね」


 カガヤとて、他人の気持ちがわからないような人間ではない。

 大勢を犠牲にしかねない行動はやめるべきという気持ちは大いに理解している。

 それでもカガヤは恩人であり師匠であるボルケーノ・ウィッチの遺言を、ピースガイに届けたいのだ。


「カガヤさん、ピースガイ……ユウレンさんがエムナプトン星人の最後の生き残りって話は知ってますかぁ〜?」


「えっ……あぁもちろん、有名な話ですから」


 そんなことは世界の常識。子供でも知っているレベルの話だ。


「その悲しみまでも思い出してるんですよ、今のユウレンさんは……我々地球人に非難されたことで、今までの辛い経験を、次々と思い出しちゃってるんです」


「ユウレンさんと会ってるんですか?」


「オウイチロウさんの付き添いで、たまーにですけど……今のユウレンさん、昔からの友人であるはずのオウイチロウさんにも不信感を抱いてるっぽいんですよね〜」


 ホノンは「何が感情の起爆剤になるか予測できない状態なんですよ〜」と言う。


「詳細不明の遺言なんて怖いじゃないですか〜」


「まあ……そうですね」


 自虐的な笑みを浮かべ、カガヤはホノンの言葉に同意する。


「ピースガイの威光に縋って守られてる我々からすれば、申し訳ないですけどカガヤさんは敵に等しいですよね〜」


「敵……ですか」


 ヨーゴが押し黙った理由。

 それは、遺言を諦めない限りは信用しない……もしかしたらそういうことなのかもしれないと、カガヤは察した。


「それでも意思を曲げないってんなら、ウチは応援しますよ〜」


「……何故?」


「そういう頑張り屋に憧れてるんすよ〜……あ、眠くなってきたんで、そろそろウチも退散しますね〜」


 そう言い残して、ホノンはそそくさと闇夜のなかに消えていった。

 ポツンと置いていかれたカガヤはとりあえず寝床の監視塔に向かい、中に入ってソファーで就寝する。近くに他人であるヨーゴいても構わず寝られた。

 この街に歩いてきて、それから休憩なしで怪獣と戦いまで行ったために、今までにないほど疲労が蓄積していたからだ。


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