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06

 バリケードタウンに、防衛のために使える武器はないに等しい。

 一応、ミサイルなどはあるにはあるが、発射するための設備が完全に破壊されており直しようがないため、ほとんど鉄屑と同じになってしまっている。

 拳銃などの銃火器はそれなりの数はある。しかし肝心の弾丸が貴重品ゆえに、おいそれと使うわけにはいかない。

 なので街の防衛は時代錯誤であるが、鉄パイプや警棒、包丁など……即興の武器で武装した警備隊が担っているのだ。


「BEGYAAAAAAAAAAS!?」


 そして今、警備隊内最強の人物がベゴサウルスの胸部に刀を振るい、バツ印の刀傷を負わせた。

 

 ――ドンッ!


「BGOAAA……!?」


 刀傷が現れた直後、轟いた衝撃音と同時にベゴサウルスがよろけるように後退する。


「なにが……!?」


 何が起きたのか全くわからない状態のカガヤは、不可解な現象に唖然としてしまう。魔術にも引けを取らない超常現象だと理解しそうになっていた。


 ――スタッ


「ん?」


 思考停止して程なく、カガヤは己の背後に人の気配が増えたのを察知した。

 一人はヨーゴ、もう一人は誰かと振り向き、またもや唖然とする。


 藍色の作務衣を腰に赤い帯を巻いて着用し、草履を履いている……青みがかった黒髪をポニーテールにまとめ、額に針金付きのバンダナを巻いた美少女であった。

 何故か白目を剥いて、ヨダレを垂らしていた。


「アナタどこから……!?」


「うぁう」


「ベゴサウルスの胸を斬って、その勢いのまま蹴り飛ばして、ここに戻ってきたんだ……見えなかったか?」


 カガヤの疑問に答えたのはヨーゴで、少女は呻くだけで答えない。


「あー……あぅー斬りぅらー」


 なんて、奇妙なうわ言をブツブツ呟くだけだった。

 ただでさえ情報の処理が追いついていないカガヤは、彼女の奇妙な様子を見て言葉を失ってしまう。

 本当に彼女がベゴサウルスを斬って蹴り飛ばしたのか……彼には信じ難かった。

 無数の銃火器による攻撃でも倒せる可能性が低い怪獣相手に、ヒトの力で振るう刃物など通用するわけがない。そうカガヤは思っていた。

 だがそれは間違いである。

 厳密には、ヒトという部分が間違いなのだ。


「やれ、ジンハ」


 ヨーゴの言葉の直後――ボンッと小さな爆発音と同時に、ジンハと呼ばれた少女の姿が消え失せた。

 突然のことにカガヤが戸惑っていると、ヨーゴが「あそこだ」と指差した。

 その指先が示すのは遥か空中。ベゴサウルスの頭部付近であった。

 人知を超越した跳躍力。カガヤはジンハという少女がただの人間ではないと確信する。


「なん……なんだ!?」


 ――ズヴァァン!!


「BGOA!?」


 もう何度目か、カガヤの驚愕は止まらない。

 ジンハの眼にも止まらぬ抜刀横一閃がベゴサウルスの双眸を切り裂く。


刃長(ジンチョウ)からしてありえないでしょ、どうなってんです……!?」


「オレにもよく分からんが、真空波だのソニックブームが何とかってオウイチロウさんが言ってたな」


 ヨーゴも彼女の技の原理を細かくは理解していない。しかし街の防衛のためならば使うのみ。怪獣や怪人相手に選り好みはできないのだ。


「BEGOAAAAAAAAAAAAAAAS!」


 怪獣の回復力は他の生物とはケタ違いに強く、目を完全に潰されようと3日で完治する。

 しかし痛覚はある。怪獣だろうと痛いものは痛い。それに、匂いでも周辺を十全に認識できるといえど、目が見えなくなるのはストレスなのだ。

 怒り心頭のベゴサウルスは奥の手を使うことに決めた。


 目前にいるはずの敵を焼き払うべく、喉に火炎エネルギーを充填。

 そして


「BEGOAAAAA!」


 ――ボオオオオオオオオオオ!


 即放出。

 鉄をも溶かす強力な火炎放射である。

 喰らえば塵も残らない圧倒的火力。空中にいるジンハに避ける術はない。


「あぅー」


 だから避けず、手に持つ刀を振り回す。


 ――パパパパパパパパパパッ!


 音速で空を斬る。斬り刻んで炎を散らす。


「そんなバカな……」


 桜の花のように散っていく火炎をみて、カガヤは深く考えることをやめることにした。

 もはや物理法則などあったものではないが、現実としてそうなっている。

 魔術を扱う立場からしても、彼女の動きは超常現象に見えるのだ。


「BGOA!?」


 匂いで敵が焼却されていないことに気づき、ベゴサウルスは驚きの声を上げた。

 矮小な人間如きに、自慢の火炎を捌かれるとは思ってもみなかったのだ。


 ベゴサウルスにはもはや、重力に逆らうことなく落下していくその人間の匂いが不気味であった。

 殺されることはないにしても、殺すこともできない……わけがわからない人間がいる。

 気味が悪い。

 そう感じたのもつかの間、さらなる驚きがベゴサウルスを襲う。


「うぁうー」


 ――パンッ


 重力に任せて落下していたはずが、跳ねたのだ。

 足場のない空中で、何もないはずの空間を蹴って跳んだのだ。


「あぅーあ」


 今度はベゴサウルスの喉元に到達。

 そして刀を横一閃に


 ――スパァァァァァン!


 振り抜く。

 それにより引き起こされた、風圧と音圧が組み合わさった視認不能の斬撃は、ベゴサウルスの首へ。

 鱗に覆われた皮膚を裂き開き、その奥にあるいくつもの大事な線まで斬り裂いた。


「BEGYAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」


 大量の血飛沫が雨のように舞い落ちた。

 それをジンハは空を蹴って跳び、避ける。

 下で見ていたヨーゴとカガヤは、血に濡れまいと適度な位置まで退散した。

 

「BEGYAAA……」


 大事な線が断たれ、戦闘続行不可能な致命傷だと本能が悟らせてくる。

 このまま戦い続ければ出血で死ぬ。そう目の前の人間に決めつけられた。


 殺されてしまうかもしれない。

 死んでなるものか。

 死にたくない。


 生物は最期の瞬間まで生きようとする。死の寸前まで生きる道を模索し続けるのだ。

 壊れたらそれで終わりのマシーンとは違う。

 何が何でも生き延びたがる。それが全生物のサガというものだ。

 無論、怪獣も例外ではない。


 ベゴサウルスはすぐさま振り向き、ドシンドシンと地面を揺らしながら逃走し始める。

 もう仕返しする気持ちなどない。今はもう生き残ることだけに必死であった。


「おぁみゃ」


 しかし逃走は困難を極める。

 空中を蹴って飛べるということの敏捷性は凄まじい。行く手を阻む障害物がないに等しいからだ。

 やろうと思えば、どこまでも追っていける。

 不鮮明な意識下でもジンハはベゴサウルスを追撃しようと脚に力を込めた


「ジンハ待て!」


 ところでストップがかかる。

 

「うぁ~」


 彼女は反抗することなく脚の力を抜き、自然落下に身を任せる。

 地面が近くなったところで空を蹴り、落下の勢いを見事に殺して着地してみせた。


「えぅ」


 逃げ去っていくベゴサウルスのゴツゴツした背をぼーっと見つめるジンハ。

 そんな彼女にゆっくりと近寄ったヨーゴは「お疲れ」と労いの声をかけ、肩をトンと軽く叩いた。


「オウイチロウさんのところへ戻れ」


「えあぃ」


 ヨーゴの指示を理解したらしいジンハは、フラついた足取りで街へと戻っていく。

 いつも通りといった感じのその光景を見ていたカガヤは、またしても呆然としていた。

 理解し難いことが起こりすぎて何を問うべきなのかもわからない。

 十秒ほど経て、 


 どうしてベゴサウルスを逃がしたのか?

 ジンハとはいったい何者なのか?


 以上の二点が特に気になってきた。

 

「あの」


「事務所へ行くぞ、話なら歩きながらでいいだろう」


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― 新着の感想 ―
なんかほぼゾンビじゃないですかこのジンハって(@ ̄□ ̄@;)!!
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