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シールの住処であるトタン小屋。
オウイチロウにヨーゴ、リーレイにジェニファーの前に、ホノンとシールが椅子に座らされていた。
「本当にすまねぇんだが、マジに記憶がねぇんだよ……昨日の夜からサッパリ思い出せねぇ」
「ウチもです……なーにしてたんだかぜーんぜん覚えてなくてぇ」
「ならどの程度覚えている? 解剖については?」
5分ほど前に目を覚ましたばかりの2人に、オウイチロウが問う。
芝居じみた話し方だが嘘を吐いているようには聞こえなかった。
「……昨日の夜までは、解剖してたのを覚えてんだがなぁ」
「ウチもそこまでは覚えてます……でも途中からプツッと思い出せないんですよ」
悩んだ顔をして2人は答える。
オウイチロウ達はこれにも嘘を感じ取れなかった。当然だが悪意もない。
「ホノン、サダヒメの首を絞めにかかったのも覚えてないのか?」
「え……ウチ、そんな怖いことしようとしたんすか……?」
ヨーゴの問いにホノンは戸惑う。友人の首を絞めようとしたらしい自分が信じられないのだ。
「そんな……!?」
だが彼女はヨーゴ達の表情をみて、自分がやったらしい恐ろしい行為が、紛れもない真実だと理解した。
目に涙が溜まる……そして一滴、ポツリと零れた。
「……今すぐ、サダヒメさんに謝りに行かせてください」
震える声で願う。今はそんな時ではないと理解しつつも、そうせねば気がすまない。
自分の意志はなかった。しかし自分が友人に危害を加えたという受け入れ難い事実が、彼女の心に重くのしかかる。
サダヒメは大事な友達なのだ。
「そうだな……オウイチロウさん、ホノンを連れて行っても?」
気持ちを察したヨーゴはホノンの手を取り、立ち上がらせた。
オウイチロウは黙って頷く。彼も、事情聴取よりホノンの気持ちを優先すべきだと思ったのだ。
立って、歩こうとするホノンの足取りはふらついていた。それを見ていられないヨーゴは彼女に肩を貸す。
「ちょっと行ってきます」
「わかった」
精神的に話す余裕のないホノンの代わりにヨーゴが挨拶し、2人は静かに退室する。
凶行すらも。きっと意味不明な言葉の羅列も覚えていないのだろうと3人は予測する。
「……オイラは、誰かを傷つけちまったか?」
「報告は届いていないから、大丈夫だ」
「そうか……」
他人事ではなかったシールは安堵の溜息をつく。しかしそれはホノンに失礼だと思い、すぐに表情を引き締めた。
ヒトを助ける仕事をしておいて、ヒトに危害を加えるようなことがあってはならないと彼は思っていたのだ。
「……そちらの事情はさておき、記憶の一部が消えるという情報を得られたな」
リーレイ達にはバリケードタウンの事情は関係がない。他人事と切って捨てるほど無慈悲ではないが、どうしても優先順位は下がる。
「テクノストームもジャノメと関わって乱心した……しかし小生らが記憶も消えず、乱心もしないのはどういうわけかな」
「……シンプルに接した時間とかじゃねぇかな」
沈黙していたシールが口を開く。
「テクノストームもジャノメを調べたんじゃねぇか?」
「あぁ、詳しく調べると言って、部屋に籠もっていたな」
「そういや2人と一緒のシチュエーションね」
「とりあえずそう結論づけるとして……」
シールが話を続けようとする。
その時。
怪獣接近の警報が街に鳴り響いた。
「警報を鳴らしたヤツ、応答しろ」
すぐさま腰につけていたトランシーバーを手に取り、一番状況を把握できている者を呼び出す。
『こちら東門!! 空を見てください!!』
「空だと?」
オウイチロウ含め3人は空を見上げた。
「これは小生らの出番だな」
リーレイが呟く。
空には無数の金色のニシキヘビ。
それが雨やあられのように降ってくる。明らかに自然現象ではない異常事態。
事前に発見しておけばある程度避難しておける怪獣達と違い、これでは逃げる時間がない。
「サダヒメ!! 応答しろ!!」
ホノンとサダヒメの話し合いを気にしている場合ではない。個人間の事情より街の安全だ。
『こちらサダヒメです!』
「避難命令を街に伝達! 各自で近くシェルターに避難か、無理なら屋内にいろと伝えろ!!」
『了解しました!』
「ユウレン!!」
『迎撃だろ、わかってる』
「警備隊各員に命令!! 降ってくる金ピカ蛇どもを片っ端からブチ殺せ!!」
各方面に最低限の指示を出し終えると、空に真っ直ぐな赤い光が走る。それに照らされたジャノメは一瞬にして焼滅していく。
それはユウレンの双眸から放たれる破壊光線だと、3人はすぐに理解した。
しかし数は減らない。ざっと見て数千匹は残り、降ってきている。
「オウイチロウ殿とシール殿も避難しよう、我々が護衛する」
「よろしく!!」
ピッと敬礼してみせるジェニファーの姿は、一瞬にして美しい銀色に変化する。
「来るぞ!!」
リーレイが叫ぶ。ユウレンが撃ち漏らしたジャノメの群れが地面に着地する。
激突して死ぬ個体は何故かいない……そういう不思議を持つからこその怪獣。何があるかわからない。
「JARAAAA……」
「JAAAARAAA……」
「RAAAA……」
異物。馴染みのある蛇の形をしておきながら、地球のモノとは思えない。ジャノメのその外見には嫌悪感すら覚える。
「敵意バッチリね」
「JARAAA!!」
ジャノメの一匹が牙を剥き出しにして飛び掛ってくる。しかしジェニファーは何もしない。
――カキィン!!
「JA……!?」
右肩に噛み付こうとしたジャノメの歯が、粉々に砕け散った。
際々のビキニにTバックはジェニファーにとって、鋼レベルに硬化した肉体を存分に活かすための装いである。
殺傷力が激減したジャノメを逃がすことなく、彼女は喉部分を掴んで握り、
「ふんっ」
思い切り力を込める。
ブチョッ……
万力の如き握力で喉が破裂したジャノメは、ピクリとも動かなくなった。
ジェニファーはそれをつまらなそうにポイッと捨てる。
一部始終を見ていたオウイチロウとシールは思う。戦地で活躍していたレディメタルが、ここにいてくれるのだと。
もちろん彼女だけではない。
「JARAAAAA!!」
「JAAAARAAA!!」
「うおぁ!?」
オウイチロウとシールに、残りの二匹が飛び掛ってくる。戦闘力のない2人は命の危機を感じた。特にシールは声まで上げてしまう。
「大丈夫」
――シュパンシュパンッ!!
「うわっ」
「なにっ!?」
飛び掛かっている途中で、ジャノメの頭が落ちた。
2人にはまったく見えなかったが、リーレイが恐ろしく速い手刀でジャノメの頸を斬り落としたのだ。
「愛すべき人々から賜ったリューオウの名に恥じぬよう、あなた方をお守りする」
ビビっていた2人に、リーレイは丁寧な拱手礼をしてみせた。
「こっちだってレディメタルよ、最高硬度の鉄壁ヒーローの実力を見てなさい!」
彼らの姿を見て、2人は思う。
あの時のヒーローが近くにいてくれる……なんと心強く、頼もしいことか。
「ではお二方、逃げるぞ」
「その前に、ちょっと寄りたいところがある」
「こんな時にかね?」
「近くに使える戦力が眠ってる、そいつを解放しに行かせてもらう」
オウイチロウは決心した顔で、リーレイとジェニファーに告げた。察したシールは露骨に嫌な表情を浮かべる。
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