42
金色のヘビ、ジャノメが降ってきて7日が経過した朝のこと。割と肌寒い日だった。
「あれがピースガイの……ユウレンがいるという街か」
「そう、バリケードタウンって言うんですって」
大荷物を背負った赤い老粗布カンフースーツにカンフーシューズまでもを着用した、筋肉質な坊主頭の小男が、目を細めて遠くにあるバリケードタウンを見つめる。
「ヒャッハー系チンピラの群れを叩きのめした甲斐があった、迷わず来れた」
「それはそうだけど、ピースガイが復活したって噂は本当なのかしらね……?」
肌寒い陽気だというのにどうしてか、豹柄の小さなビキニにキワキワのTバックという露出度の高い格好をしている、小麦色でブロンドヘアのナイスバディな女性が、怪訝な顔をしてバリケードタウンを見る。
「まぁ行ってみよう、ジェニファー殿」
「いい加減、みんなみたいにジェンって呼んでくれていいのよ? リーレイ」
「そのうち呼ぶ」
堅苦しい思いをしつつ、2人はバリケードタウンへと歩みを進めた。
「……お客さん、そこで止まってくれ」
2人がやって来たのは北門。そこではヨーゴが見張り番をしていた。
カンフーな雰囲気の小男に、ビキニ姿というブロンド美女。
前者はまだ普通の範疇に入れてもいい。
しかしビキニのブロンド美女は明らかに異様である。肌寒いというのに何も羽織っていない奇妙さが、ヨーゴの警戒心を強めた。
そんな彼は後ろポケットに突っ込んでおいたトランシーバーを手に取り、事務所へと連絡する。
「不審者2名が北門に、応援を頼む」
「ねぇちょっと、不審者呼ばわりは酷くなーい?」
「待て、そこでストップだ」
馴れ馴れしい態度でヨーゴへと近寄るジェニファーを、手を前に突き出して制止させる。
「それ以上は近寄らないでもらおうか」
「警戒されてるのね、寂しいわ」
「仕方がないだろう」
ため息を吐きながら、リーレイがジェニファーを邪魔そうに押しのけた。
話をするのに余計だと判断したのだ。
「小生の名はワン・リーレイ……こっちの、目のやり場に困る痴女はジェニファー・アリントンだ」
「……今、痴女って言った? リーレイ?」
「ワン・リーレイにジェニファー・アリントン……!?」
自己紹介を聞いたヨーゴは驚いてしまう。よく知っている有名人とまったく同じ名前だからだ。
「……本物なのか?」
「おお、憶えていてくれているのか……ピースガイと比べたら人気が低かったから、小生は忘れられているものかと」
「……あたしは人気だったもん」
誰もが知っている有名人。ピースガイ及びボルケーノウィッチと組んでいたヒーローチーム。
そのメンバーと同じ名前。
「オレは本物なのかと聞いているんだ」
「本物よ、証拠を見せてあげるわ」
ジェニファーという女がそう言うと、彼女の身体に奇妙な異変が起きる。
「ほら」
一瞬で全身の肌が銀色の鋼のような物質に変化した。
「どう? あたしこそがレディメタルその人よ」
彼女のそのメタリックな姿に、ヨーゴは子供の頃の羨望を思い出す。
鋼鉄の身体に変化する魅惑の女性。彼女の活躍は世界の男達を熱狂させた。
「ということは、そっちも……」
「かつてはリューオウと呼ばれていた者だ……彼女のように変身はできんが、信じてくれるか?」
「……信じよう」
「やった」
そう言った瞬間、ジェニファーの身体が元の肌色に戻った。
ピースガイと並び立った英雄。レディメタルを引き連れているならば、本物であろうとヨーゴは確信する。
「だが待ってくれ、オレ一人の判断では入れられない……ユウレンを呼ぶ」
念のための確認ならば、同僚であったピースガイを呼ぶのが妥当であろう。
ヨーゴがトランシーバーでユウレンに連絡を取ると、わずか3分で空から降りてきた。
「ジェニファー、リーレイ……」
着地するユウレンは、苦い顔をしていた。
ヨーゴとしては、久しぶりの再会なのだから喜ぶものだと思っていた。しかし流れるのは気まずい空気。リーレイとジェニファーからは静かな怒気が滲み出ていた。
10秒ほど沈黙が続き、ようやくユウレンが口を開いた。
「あの時、逃げ出して……すまなかった」
頭を下げて謝罪する。
ユウレンのその行為に、リーレイとジェニファーは怪訝な表情を浮かべる。
「……ユウレン殿、今更謝るのはやめてくれ」
「もう遅いもん」
許したような口調ではない。2人には怒りを抑えているような雰囲気があった。
「そうか……ずっと謝りたかったんだが、わかったよ……」
ユウレンは悲しそうな表情を見せるが、ヨーゴは何も声をかけられない。彼らの間に何があったのか知らないため、かけるべき言葉がわからないからだ。
「まぁいいさ……それで、そこの、えーっと名前は……」
悩むリーレイに、すぐ「ヨーゴだ」と答える。
「ヨーゴ殿、これで身分証明は完了したと思うんだが、バリケードタウンに入っていいかな」
「もちろんだ……と、その前に来訪目的を教えてくれ」
バリケードタウンに来る者には必ずする質問。
目的をパッと答えられない人間は信用できない。
「そこのユウレンに頼みたいことがあって来た、詳しい話は中でさせてくれ」
「割と急用だからさ、ちゃっちゃと入れて頂戴よ」
「わかった……みんな、ゲートを開いてくれ!!」
ヨーゴが大声で叫ぶと、門代わりの大型バスが動き始め、バリケードタウンへ入る道が開通した。
「入ってくれていい……街のリーダーのところへ案内する」
「感謝する」
「ありがと」
礼を述べつつ、リーレイとジェニファーはヨーゴの後ろにつき、バリケードタウンへと入っていく。
「ユウレン、オマエも……」
「ごめん、ヨーゴ……ちょっと一人にしてくれないか?」
そう言われたヨーゴは頷いて、来訪者2人を連れてオウイチロウのいる場所へと歩いていく。
「情けないな、僕は……」
誘いを断り、その場に残ったユウレンはその場に崩れ落ちるように座り込んだ。後悔の念が、足の力を消したのだ。
トウキョウ決戦のあの日。
ピースガイやボルケーノウィッチ。そしてレディメタルにリューオウ。さらにはフォーミュランナーにテクノストームらが一堂に会するヒーローチーム……コスモス・オーダーが集結し、国防軍及び特生隊と協力してジオレクスと戦ったのだ。
まさに人類の総力戦という時に、コスモス・オーダーは主要戦力として大きな期待を寄せられていた。
しかし結果は惨敗に終わった。手も足も出ず、ジオレクスに蹂躙された。
それだけならば、まだ……地獄であることに違いはないが、まだよかったかもしれない。
ピースガイは、ユウレン・シェーンは逃げ出したのだ。戦闘中に責務を放棄したのだ。
瓦解した国防軍と特生隊の陣形を立て直そうと、時間を稼ぐことを放棄して、空の彼方に飛び去ったのだ……遅かれ早かれ壊滅していただろうが、戦力の寿命を縮めたのは間違いない。
この戦いで国防軍と特生隊は消え失せ、コスモス・オーダーからはボルケーノウィッチとフォーミュランナーが殉職した。
以前から受けてきた強烈なバッシングによる精神の疲弊と、共に戦った仲間達を見殺しにしたという後悔の念。
それらがユウレンを狂わせ、引きこもらせたのだ。謝りに行きもせず。
「どうしたら、いいんだ……」
リーレイとジェニファーが怒っているのは承知していて、絶対に許してくれないというのもわかっていた。
それでも許してほしいという気持ちがあった。
罪を吐き出させてほしいという浅ましい気持ちが、ずっとユウレンの心にあった。
しかし覆水盆に返らず。
許されざる罪を犯したというのに、何もしてこなかったという罪を重ねた……ユウレンにはもはや、元チームメイトと話す勇気がなくなっていた。
ブクマや☆での評価・応援などよろしくお願いします。感想や酷評や罵倒などもお待ちしております。




