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 金色のヘビ、ジャノメが降ってきて7日が経過した朝のこと。割と肌寒い日だった。


「あれがピースガイの……ユウレンがいるという街か」

「そう、バリケードタウンって言うんですって」


 大荷物を背負った赤い老粗布カンフースーツにカンフーシューズまでもを着用した、筋肉質な坊主頭の小男が、目を細めて遠くにあるバリケードタウンを見つめる。


「ヒャッハー系チンピラの群れを叩きのめした甲斐があった、迷わず来れた」


「それはそうだけど、ピースガイが復活したって噂は本当なのかしらね……?」


 肌寒い陽気だというのにどうしてか、豹柄の小さなビキニにキワキワのTバックという露出度の高い格好をしている、小麦色でブロンドヘアのナイスバディな女性が、怪訝な顔をしてバリケードタウンを見る。


「まぁ行ってみよう、ジェニファー殿」

「いい加減、みんなみたいにジェンって呼んでくれていいのよ? リーレイ」

「そのうち呼ぶ」


 堅苦しい思いをしつつ、2人はバリケードタウンへと歩みを進めた。

 

「……お客さん、そこで止まってくれ」


 2人がやって来たのは北門。そこではヨーゴが見張り番をしていた。

 カンフーな雰囲気の小男に、ビキニ姿というブロンド美女。

 前者はまだ普通の範疇に入れてもいい。

 しかしビキニのブロンド美女は明らかに異様である。肌寒いというのに何も羽織っていない奇妙さが、ヨーゴの警戒心を強めた。

 そんな彼は後ろポケットに突っ込んでおいたトランシーバーを手に取り、事務所へと連絡する。


「不審者2名が北門に、応援を頼む」


「ねぇちょっと、不審者呼ばわりは酷くなーい?」


「待て、そこでストップだ」


 馴れ馴れしい態度でヨーゴへと近寄るジェニファーを、手を前に突き出して制止させる。


「それ以上は近寄らないでもらおうか」


「警戒されてるのね、寂しいわ」

「仕方がないだろう」


 ため息を吐きながら、リーレイがジェニファーを邪魔そうに押しのけた。

 話をするのに余計だと判断したのだ。


「小生の名はワン・リーレイ……こっちの、目のやり場に困る痴女はジェニファー・アリントンだ」


「……今、痴女って言った? リーレイ?」


「ワン・リーレイにジェニファー・アリントン……!?」


 自己紹介を聞いたヨーゴは驚いてしまう。よく知っている有名人とまったく同じ名前だからだ。


「……本物なのか?」


「おお、憶えていてくれているのか……ピースガイと比べたら人気が低かったから、小生は忘れられているものかと」


「……あたしは人気だったもん」


 誰もが知っている有名人。ピースガイ及びボルケーノウィッチと組んでいたヒーローチーム。

 そのメンバーと同じ名前。


「オレは本物なのかと聞いているんだ」


「本物よ、証拠を見せてあげるわ」


 ジェニファーという女がそう言うと、彼女の身体に奇妙な異変が起きる。


「ほら」


 一瞬で全身の肌が銀色の鋼のような物質に変化した。


「どう? あたしこそがレディメタルその人よ」


 彼女のそのメタリックな姿に、ヨーゴは子供の頃の羨望を思い出す。

 鋼鉄の身体に変化する魅惑の女性。彼女の活躍は世界の男達を熱狂させた。


「ということは、そっちも……」


「かつてはリューオウと呼ばれていた者だ……彼女のように変身はできんが、信じてくれるか?」


「……信じよう」


「やった」


 そう言った瞬間、ジェニファーの身体が元の肌色に戻った。

 ピースガイと並び立った英雄。レディメタルを引き連れているならば、本物であろうとヨーゴは確信する。


「だが待ってくれ、オレ一人の判断では入れられない……ユウレンを呼ぶ」


 念のための確認ならば、同僚であったピースガイを呼ぶのが妥当であろう。

 ヨーゴがトランシーバーでユウレンに連絡を取ると、わずか3分で空から降りてきた。


「ジェニファー、リーレイ……」


 着地するユウレンは、苦い顔をしていた。

 ヨーゴとしては、久しぶりの再会なのだから喜ぶものだと思っていた。しかし流れるのは気まずい空気。リーレイとジェニファーからは静かな怒気が滲み出ていた。

 10秒ほど沈黙が続き、ようやくユウレンが口を開いた。


「あの時、逃げ出して……すまなかった」


 頭を下げて謝罪する。

 ユウレンのその行為に、リーレイとジェニファーは怪訝な表情を浮かべる。


「……ユウレン殿、今更謝るのはやめてくれ」

「もう遅いもん」


 許したような口調ではない。2人には怒りを抑えているような雰囲気があった。


「そうか……ずっと謝りたかったんだが、わかったよ……」


 ユウレンは悲しそうな表情を見せるが、ヨーゴは何も声をかけられない。彼らの間に何があったのか知らないため、かけるべき言葉がわからないからだ。

 

「まぁいいさ……それで、そこの、えーっと名前は……」


 悩むリーレイに、すぐ「ヨーゴだ」と答える。


「ヨーゴ殿、これで身分証明は完了したと思うんだが、バリケードタウンに入っていいかな」


「もちろんだ……と、その前に来訪目的を教えてくれ」


 バリケードタウンに来る者には必ずする質問。

 目的をパッと答えられない人間は信用できない。


「そこのユウレンに頼みたいことがあって来た、詳しい話は中でさせてくれ」

「割と急用だからさ、ちゃっちゃと入れて頂戴よ」


「わかった……みんな、ゲートを開いてくれ!!」


 ヨーゴが大声で叫ぶと、門代わりの大型バスが動き始め、バリケードタウンへ入る道が開通した。


「入ってくれていい……街のリーダーのところへ案内する」


「感謝する」

「ありがと」


 礼を述べつつ、リーレイとジェニファーはヨーゴの後ろにつき、バリケードタウンへと入っていく。


「ユウレン、オマエも……」

「ごめん、ヨーゴ……ちょっと一人にしてくれないか?」


 そう言われたヨーゴは頷いて、来訪者2人を連れてオウイチロウのいる場所へと歩いていく。


「情けないな、僕は……」


 誘いを断り、その場に残ったユウレンはその場に崩れ落ちるように座り込んだ。後悔の念が、足の力を消したのだ。

 トウキョウ決戦のあの日。

 ピースガイやボルケーノウィッチ。そしてレディメタルにリューオウ。さらにはフォーミュランナーにテクノストームらが一堂に会するヒーローチーム……コスモス・オーダーが集結し、国防軍及び特生隊と協力してジオレクスと戦ったのだ。

 まさに人類の総力戦という時に、コスモス・オーダーは主要戦力として大きな期待を寄せられていた。


 しかし結果は惨敗に終わった。手も足も出ず、ジオレクスに蹂躙された。

 それだけならば、まだ……地獄であることに違いはないが、まだよかったかもしれない。


 ピースガイは、ユウレン・シェーンは逃げ出したのだ。戦闘中に責務を放棄したのだ。

 瓦解した国防軍と特生隊の陣形を立て直そうと、時間を稼ぐことを放棄して、空の彼方に飛び去ったのだ……遅かれ早かれ壊滅していただろうが、戦力の寿命を縮めたのは間違いない。


 この戦いで国防軍と特生隊は消え失せ、コスモス・オーダーからはボルケーノウィッチとフォーミュランナーが殉職した。


 以前から受けてきた強烈なバッシングによる精神の疲弊と、共に戦った仲間達を見殺しにしたという後悔の念。

 それらがユウレンを狂わせ、引きこもらせたのだ。謝りに行きもせず。


「どうしたら、いいんだ……」


 リーレイとジェニファーが怒っているのは承知していて、絶対に許してくれないというのもわかっていた。


 それでも許してほしいという気持ちがあった。

 罪を吐き出させてほしいという浅ましい気持ちが、ずっとユウレンの心にあった。


 しかし覆水盆に返らず。

 許されざる罪を犯したというのに、何もしてこなかったという罪を重ねた……ユウレンにはもはや、元チームメイトと話す勇気がなくなっていた。


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