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結局、ジオレクスと勝負をすることすら人類には叶わなかった。どんな兵器を使っても埋まらない差があった訳だ。
そんなジオレクスと同等の戦闘力を持つであろう怪獣の、幼体と思しき存在がこのバリケードタウンに現れた……。
これを凶の兆しと受け取ったオウイチロウを含む5人は、不安に苛まれる。
これからなにをすべきかを……話すべきなのはわかっているが、コトが大きすぎてなかなか言葉が出てこない。
なにせ人間世界を滅ぼしたジオレクスのレベルの話だ。
人類が最後まで良案を導けなかったというのに、たかだか5人で考えを振り絞って策を練ったところで、得られる結果は最悪を抜け出せないだろう。
「……今度こそ、街を放棄しますか?」
ひどく重たい空気のなか、ヨーゴが恐る恐る口を開く。
「最終手段だな……考えておくべきだが行く当てもないし、また住民達を絶望させたくない」
オウイチロウは間髪を入れず返答する。
続いてシールが横から喋り始める。
「その結論は急ぎすぎだぜ、ヨーゴよぉ…まだジャノマナコってのが来るとは限らねぇ訳だしな」
重苦しい空気を和らげるために、シールはあえて楽観的なことを言う。
「……そうですよ、偶然落っこちてきたって線もありますよね」
カガヤも楽観視に乗る。暗い感情を払拭したいと思ったからだ。
だが「そうじゃない可能性も考えておくべきだ」とヨーゴが口を挟む。
発見例は一度きり。ゆえに実際、ジャノメ及びジャノマナコの生態は謎に満ちている。今は解明できない。
カガヤの言うとおり、たまたま宇宙から降ってきただけというのも充分にあり得る……そもそも宇宙怪獣だというのも当時のオウイチロウの推測に過ぎない。
不確定要素があまりにも多かった。
だから可能性を考えて行動しようにも、選択肢を絞りきれない。口にした当人であるヨーゴも良案を出すまでには至らない。
「今は何もわからず、手の施しようがない」
そう言いながらオウイチロウはテーブルの上にある金色の蛇……ジャノメを凝視する。
「警備体制を強化し、周辺の警戒を強める……それ以外に、今の俺達にできることはないと思う」
オウイチロウの発言に他4人は黙って頷いた。 反論などあるはずもない。
「警備は2人から3人に増員する……そしてジャノメとジャノマナコの事案については、しばらくの間は他言無用で頼む」
「どうしてですか? こんな怪しい事案は、住民の皆さんも知っておくべきじゃありません?」
「ようやく復興してきたところに、不安と混乱を招くようなことはしたくないんだ」
ホノンが投げかけた疑問に、オウイチロウはノータイムで答えた。
住民達に嘘をつくのは心苦しいのだが、バリケードタウンの治安を守るためには仕方がないのだと、彼は自分の心に言い聞かせる。
「とにかくこれはここだけの話に留めておいて、ここにいる者だけで調査を進めていくとしよう……じゃあ解散」
オウイチロウがそう打ち切る。
話せることはもう話し終えたのだから、いつまでも集まり続ける理由がない……そういう意図が込められていた。
オウイチロウの意図を汲み取った4人は、それぞれ出口から、元の持ち場に戻っていく。それにはオウイチロウも含まれる。
「カガヤさん、先に戻っといてください……ドクターと話があるので」
ホノンとシールを除いて、このトタン小屋には誰もいない。2人だけだ。
「……話ってのぁなんだ? ホノンよぉ」
「もちろんこの怪獣……ジャノメについてですよ」
シールの背後にある死骸を指差し、さらに続ける。
「もっと細かくバラしてみて、何かないか調べてみませんか?」
まだ腹を捌いただけ。
解剖というには作業量が少なすぎるし、何か分かった気になるのも早すぎる。
「ふふふ、実ぁオイラもそう思ってたとこだ」
頭に浮かんでいた意見が合致したことが面白く、シールはニヤリと笑う。
ナマモノのようにも無機物のようにも見える奇妙な死骸。シールとホノンは好奇心がくすぐられていた。恐怖心がないわけではないが、今は知りたいという欲望が勝っている。
「んじゃあ、さっそくやりましょ〜」
「だな」
貪欲は必ず身を食う……ということわざがあるが、知りたいという欲は身を食うどころか救ってくれる。知見を得ることは、怪獣が蔓延るこの世で生き延びるのに必要不可欠なことだ。
「……はやく戻ってきてくんないかな」
ホノンがシールとジャノメの解剖に夢中になっている頃、カガヤは一人で北門の警備をしていた。
順番ではホノンが当番のはずだが、なかなか戻ってこないために、カガヤが継続して務めているのである。本当なら寝袋で仮眠をとっているはずであった。
しかしトラブル発生により仮眠は中止。相方も不在ときている。彼のストレスは貯まっていくばかりだ。
「……ったく」
ホノンのように図太く居眠りできたらよかったのだが、今のカガヤにはできない。毛ほども眠たくないのだ。
怪獣が降ってきたという最大級のトラブルに見舞われたせいである。不安が彼の眠気を吹き飛ばしてしまった。きっと仮眠をとっても眠れず、気も休まらないだろう。
また何か起きたらどうしよう……という不安が、彼の心を包んでいた。
「……戻ってきてくんないかなぁ」
小さく呟く。
不安を紛らわせる方法の一つとして、他の誰かと話をするというのがある。なるべく他愛のない無駄話がいい。最悪、愚痴でもいい。
誰かと話さえすれば、なんでもいいのだ。
不安なんてその程度で誤魔化せる……のだが、今のカガヤにはその程度すら叶えられない。
もう星を眺める気力すらなく、ただ目を開けて息をしていた。身体の動きはそのくらいだが、脳は不安により活発に動いている。
ゆえにソワソワしていた。
そんな彼の後ろから
「カガヤ」
「いひゃあ!?」
ヨーゴが来た。
「すまん、驚かせるつもりはなかった」
「いや……大丈夫です、はい」
気は張っていたが予想外だったため、派手に驚いてしまったのだ。カガヤは少し恥ずかしく思ってしまう。
「……用件はなんでしょう」
「急用ができたホノンの代打だ、オマエは眠れ」
「えっ……?」
「オレが起きてるから、遠慮するな」
そうヨーゴは言って、カガヤの手をとって無理やり立たせる。そして彼が座っていたパイプ椅子にドカッと座った。
「……いいんですか?」
「構わん」
「それじゃあえっと、お言葉に甘えさせていただきます……」
席を取られてしまったカガヤは、恐る恐る寝袋へと向かっていく。
「……眠らせていただきます」
「あぁ、おやすみ」
本当に良いのかと思いつつ寝袋に入り、目を閉じるも全く眠気がやってこない。
不安によるものもあるが、淡々としたヨーゴの態度が彼には怖かったのだ。
「あのー……」
「どうした」
「寝付けないんで、ボクも一緒に起きてていいですかね……?」
「ダメだ」
即答で断るヨーゴは、「目を閉じてろ」と続けた。
「それだけでも疲労は取れる……眠るのが一番だが、しないよりマシだ。だから目を閉じていろ」
ヨーゴにとって……バリケードタウンにおいてカガヤは欠かせない戦力の一つ。戦いの時に寝不足の状態で挑ませるわけにはいかない。集中力の低下を招いてしまうからだ。
そう思ったヨーゴは命令口調で、カガヤの目を閉じさせたのだ。
結局、カガヤは勤務終了まで一睡もできなかった。
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