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閑話休題 そのに

 一握りの研究者が世界初の怪獣だと主張する肉食恐竜……後年にリドモスと名付けられた巨大生物が現れるずっと前の1890年のこと。場所はアメリカ沿岸部。


 多くの船乗りが捕鯨船に乗って海に繰り出し、鯨油を採っていた時期のことだ。

 とある海の怪物の噂が世に流れていた。

 その怪物は、体表が白くて傷だらけのマッコウクジラ。珍しいといえば珍しい個体。

 だがクジラであることに変わりはない。

 銛を突き刺し、体力を奪えばいずれ死ぬ……そういう当たり前に支配された考えで航海する捕鯨船を、その白いクジラは容赦なく沈没させていった。

 どうして、その白いクジラの仕業であるとわかったか……それは徹底性からだ。

 そのクジラは決まって船を転覆させ、そのうえで真っ二つに叩き割る。そして波に翻弄される船員を噛み殺し、死体の一部を海に浮かべるのだ。


 その凶暴な白いクジラは人々からエイハブと呼ばれ、船乗り達は彼の襲撃を恐れた。襲撃にあった漁船が多すぎたからだ。

 思えばあのエイハブが、世界で一番最初の怪獣だったのかもしれない……そういう者も多かった。


 そしてこのエイハブという白いクジラは、後に最新の研究により、正真正銘の怪獣であると世界に判断された。

 どうしてそのような判断が下されたのか?

 それは三つの要因からだ。

 一つはクジラというにはあまりにも長命であること。二つは異常なまでに高度な知能。そして三つめが海中での戦闘力の高さである。

 特に戦闘力は並の怪獣や戦艦では歯が立たないほど。一個艦隊すら全滅させるレベルだ。


 実は半世紀ほど前から、太平洋は彼の支配下だったのである。今まで人類が利用できていたのは、彼の……大怪鯨エイハブの気まぐれに過ぎなかったのだ。



 時は流れて1985年。人類にとっての厄年を過ぎて、前年以上はないだろうと信じていたかった人類は、またも悪夢を見ることとなった。

 前年にアメリカとソ連は怪獣により首都を失ったため、それぞれニューヨークとサンクトペテルブルクに首都機能を移した。

 しかしそこでも悲劇が起きた。


 ニューヨークには怪植物ラフレフラン。サンクトペテルブルクには汚泥獣ヘドロアがそれぞれ出現したのである(怪獣は何故か人口の多い地域に集中して出現する)。



 ヘドロアはジオレクスにより瞬殺されるも、飛び散った死骸が放つ有害物質によりサンクトペテルブルクは汚染された。

 ラフレフランは人類の手によって撃滅に成功したが、代償としてニューヨークでは大規模な火災が発生。結果として壊滅状態となった。

 かつての二大強国は見る影もなく、もはや再興は不可能な惨状に追い込まれた。

 そこで台頭してきた中国やヨーロッパ諸国も、翌年1986年には大量発生した数々の怪獣によって多大な被害を受けることとなる。

 特に被害が大きかったのは中国とインド。


 インドでは後に大怪の名を冠することとなる怪蛾モルフォと、宇宙甲虫デスレギアンと命名された巨大カブトムシの大群が数週間に渡って激突。各地を転々としたその激戦の余波で、国中が壊滅状態に陥った。


 中国には邪念魔人タタリ鬼、そして妖狐怪獣イガタウメが襲来。国家の最高指導者の命令により、核兵器による撃滅作戦を試みたものの、両怪獣には通用することなく、国中を蹂躙された。

 特にイガタウメには人間以上の知性が見受けられ、核の炎に包まれた北京で生き延びていた住民達を拉致し、超能力によって洗脳。世界各国にて自爆テロを決行させたとされる。


 1990年まで来ると、もはや国としての機能が維持されている国家のほうが少数派になっていた。

 大量の難民は野良の怪獣に虐殺されるだけでなく、人間同士でも物資の奪い合いで、殺人が日常の一部になる事態となり、地球の人口は半分にまで減少してしまった。


 そんな世界でも日本は難民による被害も最小限に抑え込み、怪獣被害にも迅速に対処できる国防軍……特殊生物対応部隊。通称、特生隊を有していた。

 中でも対ジオレクスを想定した兵器群の威力は抜群で、押し寄せる怪獣たちを蹴散らしていた。

 怪獣による侵略を、何とか水際で食い止めていたのだ。


 しかし2000年。1月。

 ジオレクスがオキナワに襲来。特生隊が有する兵器群をこともなげに蹴散らし、オキナワを焦土へと変えた。

 その半年後に四国を滅ぼした。

 隅から隅まで徹底的に、人間がいる場所をジオレクスは燃やし尽くしていた。

 意図があることは明白。

 しかしその意図が全く掴めない。何の意味が、何の得があってそんなことをしているのか……人類には見当もつかなかった。

 人類の根絶が目的ではないか……そう唱える者は数多くいた。しかしそれらの意見は士気に関わるとして、政府によって弾圧された。


 2001年。とうとうジオレクスはトウキョウへと到達する。復興を成し遂げたために、少し前にオオサカから首都機能が返還されたばかりの、人々が多く住むトウキョウにである。


 このトウキョウこそが人類最後の砦。ここを落とされれば次はない。全人類がそう思っていた。

 そしてトウキョウ決戦と銘打たれた作戦で、ジオレクスを迎え撃つ。

 


 しかし、大敗した。

 国防軍と特生隊が保有する全戦力を持って撃退を試みるも、無駄に終わった。

 総力を持ってしても大したダメージを与えられず、対ジオレクス特化兵器も無駄に終わったのである。


 灰色の空のもと、大勢の人々が死んだ。

 民間人も軍人も、分け隔てなく死んだ。

 戦う者はいた。親や子供、妻や夫の仇を討たんと、ろくな武器も持たず無謀な突撃をする民間人たち。止められる者はいなかった。止められる者は死んだからだ。

 死が次の死を呼ぶ負の連鎖である。それぞれの人生は捨てられた。


 そんな時だった。

 キンキンとした大きな鳴き声が、暗雲立ちこめる空に響いた。

 雲を切り開き、二匹の大怪蛾モルフォが出現。

 トウキョウを舞台に、ジオレクスとの戦いが始まった。その戦いは本州だけにとどまらず、北海道まで広がった。

 結果として日本全土が焦土と化したが、ジオレクスはモルフォとの戦いで、海へと消えていった。モルフォもどこかへ飛び去っていった。

 人類は最後に初めて、ジオレクスが撤退するのを目にしたのだ。

 だが希望の光に照らされることはなかった。

 その後、全世界の統治機構は完全に失われ、乱心した者達により世界中に核が落とされた。

 焼き尽くされた街をさらに焼き、汚染までしたのだ。地獄は作れるものなのだ。

 住める土地は減っていき、残された人々が安全な場所に村のようなものを設営し始めたのが、ここ最近のことである。


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― 新着の感想 ―
なるほど………『鯨』は『白鯨』モチーフなんですね。 納得です。
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