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4人はシールの小屋へと入る。
トタン小屋の中は風通しが非常に良く、外にいるのと大して違いはなかった。
内装もパイプ椅子が2個に、ステンレス製の長い作業台が1台。壁には様々な種類の包丁が飾られている。映画に出てくる殺人鬼の住処のような家であった。
「カガヤ、ここに頼むわ」
「はい」
魔力で宙に浮かせていた蛇の死骸を、カガヤは言われた通りに作業台へとゆっくり置く。
別けられた頭部と胴体からは、赤色の血液らしきモノはすでに止まっていた。
「よぉし、ぶった切っていくかぁ……手ぇ貸せ、ホノン」
「合点承知でーす」
壁に飾ってあった出刃包丁を手に取り、シールとホノンは蛇の前に並び立つ。
「んじゃあ腹ぁ捌いて内臓を調べるか」
「賛成でーす、パパっと正体を暴きましょ」
言うが早いか、シールは作業を開始した。
シールが蛇の腹に刃を入れ、鮮やかな手付きで切り開いていく。
包丁で切っているというのに、手術用メスを使っているような繊細さがあった。
「……なんだコイツ」
「……やばぁ」
切り開いている途中で、シールは手を止める。 傍らで観察していたホノンも、固まってしまった。
「どうしたんだ2人共?」
「何かありましたか?」
ヨーゴとカガヤには、2人が何にそこまで驚いているのかわからない。だから聴いたのだが、ホノンもシールも困惑しているようで、会話が続かない。
「どうしたんだと聞いているんだ、何か言えシール」
「いやさぁ……赤い血ぃ流してたようだから、普通に内臓があるんだろうなぁとオイラぁ思ってたんだがよぉ」
「臓器が一個もないんですよ……心臓も肺も胃も、筋肉すらありません、」
「えぇ……そんな訳がないでしょう」
ホノンの答えに、カガヤは困ったような表情を浮かべる。
「だって血が流れてたじゃないですか、心臓とか筋肉がないとおかしいでしょ」
「ウチもそう思います……でもないんです」
ホノンが切った部分を見せる。
中は空洞だった。あるはずの血もない。ホノンの言う通り、肉もない。
「嘘でしょ……!?」
「いやいやいや……待て、オレが斬った時は血が流れてたし、肉の断面も見たぞ」
「……じゃあ、ほら」
シールがヨーゴとカガヤに、頭と胴体の断面を見せる。
――トイレットペーパーの芯のように空洞で、肉も臓器も何もなかった。
「見てみろ……溢れてるハズの血も、いつの間にか消えてる」
捌いている時には流れていた。ここにいる全員が赤い液体を見ていた。
だがもうない。最初からなかったかのように、完全に消えてしまっている。ただの水でも、ここまで速く乾いたりしないはずなのに。
「……オレは確かに、肉を斬ったぞ」
「ボクも、運んでいる最中に血がポタポタ落ちるのを見てました」
この目で見た。当事者である。
あまりの出来事にヨーゴもカガヤも、言いようのない不安にかられていた。
「オイラも腹を捌いた時にゃあ肉切ってる感覚があった……だけど今、目の前にあんのはチャチな蛇の玩具だ」
「作り込みの甘い安物って感じですね」
まさしく言い得て妙。ここまでくると金色の体色も、雑に塗られた金メッキのような不自然さを感じてくる。
「オレ達が見てたのは……何だったんだ?」
ヨーゴがそう呟く。口にはしないが他の3人も同じことを思っていた。
4人はもう、この金色の蛇を生物として見られなかった。蛇の形をしたただの物体……それ以上でもそれ以下でもない。
狐に化かされた気分を味わっていた。
そんな時、コンコンとトタンの扉を叩く音がした。
「……みんな、いるな」
入ってきたのは、やけに神妙な顔をしているオウイチロウ。
彼は全員の顔を見た後、作業台の蛇をジッと見つめる。
そして
「そいつの名は、怪蛇ジャノメだ」
と……オウイチロウは言う。
「……聞いたことがありませんよ、ジャノメなんて、そんな怪獣」
「公にされないまま、記録から抹消されているからな……ユウレンも知らんくらいだ」
ホノンの言葉に、オウイチロウはすぐに応じる。
「コレのこと……知っているんですね」
ヨーゴがそう言うと、オウイチロウは申し訳なさそうに黙って頷いた。
「……ちょっと、昔話をさせてもらう」
オウイチロウは立てかけてあったパイプ椅子を手に取り、ドサッと座る。
そしてゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「俺が特生隊第三大隊の一兵卒だった頃の話だ」
特殊生物対応部隊――通称、特生隊。
国防軍が有する対怪獣戦闘部隊のことである。
オウイチロウは言葉通り、その第三大隊に所属していた。怪獣との戦闘では歩兵として戦い、運良く生き抜いたのだ。
「ジオレクスが本州縦断中に、トヤマ県のクロベ渓谷に侵攻したんだ……大して人もいないところだったのに、だ」
かつてのジオレクスは、人が集まっている都市部を中心に破壊活動を繰り広げていたというのは……ここにいる全員がよく知っている過去の真実だ。トヤマ県も甚大な被害を受けたのも知っている。
しかしクロベ渓谷にジオレクスが向かったというのは、ここにいる4人は知らなかった。
「俺の部隊の任務はジオレクスの後を追い続けることだった……その途中で奇妙なモノを発見した」
オウイチロウは机の上にある死骸を指差す。
「それがこの蛇だ」
かつてのことを思い出しながら、彼は話を続けていく。
「1匹だけじゃない、パッと数え切れないほどいた。それらをジオレクスは、どうしてか踏み潰そうとした……奴にとっては路傍の石にへばりつく虫けらみたいなモンだろうにな」
ジオレクス含め怪獣というのは足元の生き物を気にしないことが多い。人間が蟻を踏みつけて歩くように、無意識なのだろう。
しかしオウイチロウの話すジオレクスは違ったらしい。
「そんで、ジオレクスが踏み潰そうとした瞬間だった……無数にいた蛇達が踏み潰しを避けて、互いにくっつきあい、あっという間に1匹になった」
怪獣同士の融合・合体は珍しい事象である。
観測例こそあるが両手で数えられるほどだ。
「1匹にまとまると、みるみるうちに巨大化し、ジオレクスと同じくらいのデカさになった……こんな怪獣は地球にいない、だから宇宙怪獣だと俺達は思った」
オウイチロウを除く4人は、目の前にある蛇の死骸を見ながら想像し始める。
「姿も変わった、まるで中国の伝承にある龍みたいな姿になった……雲を掴んで空を飛んだりはしなかったがな」
もしかしたらできたのかもしれない。オウイチロウは今もそう思っている。
「自分と同等のデカさになったソイツに、ジオレクスは吠え、その蛇にお馴染みの熱光線をいきなり発射した……だがソイツに大したダメージは入らなかった、それどころかお返しにと言わんばかりに巻き付き、ジオレクスの全身を締め上げ始めたんだ」
ジオレクスの熱光線は、文字通り必殺。全人類にそのイメージは染み付いている。
ちょっと前に襲来したグルバラムの耐久力に関心したレベルの4人には、その光景が想像できなかった。
「ジオレクスの苦しそうな声なんて初めて聞いたよ……無敵のジオレクスは何とか蛇を振り払い、戦いを続行した、その戦いは何と一日中続いたんだ」
「あのジオレクスと一日中戦い続けたんですか!?」
驚くカガヤに、オウイチロウは「そうだ」と言って頷く。
「俺の部隊に従軍していた専門家がこの小さいのをジャノメと、巨大化して変化したのをジャノマナコと名付けたんだが、なんせジオレクスを苦しめるようなヤツだ。俺含めて見た者には口外してはならないと誓わされた……誓いを破れば処刑するとまで言われたな」
「そんな強豪がいるなんて知ったら、当時の世間サマが知ったら士気がガタ落ちしたろうなぁ」
シールの言葉に、オウイチロウは頷きながら答える。
「だから存在を抹消されて、いなかったことにされたんだ」
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