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 地球人類には想像もつかないほどに広い宇宙には、多くの生命が存在する。

 ユウレンの故郷であるエムナプトン星や、チルクス遊星など……知的生命体がいる星もあれば、怪獣に支配された星も存在する。

 どんな生物がいても不思議ではない。それがこの宇宙だ。無限の可能性が存在する。


 金色に光り輝く蛇だって、いてもなんらおかしくない。常識に囚われたら、死はすぐ近くに寄ってくるのだ。


「JARAAAAAAAAAAAAS!!」


 バリアに阻まれることも承知なのか、それとも状況を理解できるだけの知能がないのか……金色の蛇はカガヤへ噛みつこうと突撃する。


「うわっ!?」


 安全なバリア内だとはいえ、目前まで自らを殺そうとする生物が来ればビビりもする。

 だが防御性能に支障はない。この程度の攻撃ならば、何百回とされても問題ないだろうとカガヤは思った。


「このままヨーゴさん達を待ちますか? それとも……」


 突撃一辺倒な金色蛇の攻撃模様を見て、一人で討伐できる気がしていたカガヤは一旦落ち着き、冷静に観察を続けていたホノンに指示を仰いだ。


「万が一があります、余計なことをせず待ちましょう」


「……わかりました」


 調子に乗れば痛い目を見る。カガヤは体験してよく知っているからこれ以上、戦えます的なアピールはしない。

 時間稼ぎを目的とするなら現状維持で問題なし。バリアの耐久力にだけ気をつけていればいい。気楽とまではいかないが、巨大怪獣との戦闘に比べれば楽なもの……だからといって油断はしない。

 念のため、カガヤはバリアに追加で魔力を流し込み、耐久力の落ちた部分を修復する。万全の状態を保って、応援を待つのだ。


 そして待つこと1分ちょっと。


「すまん、遅れた」


 走って来たのはヨーゴだった。すでに鬼装は完了しており、態勢は整っていた。

 

「ソイツを叩き斬ればいいのか?」


 腰に差している長刀を抜きながら、ホノンに問いかける。怪獣は即時駆除という考えが身体と脳に染み付いているのだ。


「そうですけど、なるべく損壊させないように殺してください……ちゃんと調べたいので」


「わかった……おっと」


 金色蛇の狙いが変わった。バリアに阻まれ地面に落ちた蛇は、ニョロニョロ這いずりながらヨーゴのもとへと近寄っていく。


 そして間合いに入った途端、ヨーゴに噛みつこうと金色蛇は跳んだ。

 

「ふんっ」


 しかし噛みつくことは叶わない。抜刀によって加速した一振りに、頭を胴から斬り離されたからだ。


「これでいいか? ホノン」


 ボトリと地面に落ちた金色蛇の頭と胴体を軽く指差し、見ていたホノンに問う。


「ひとまずは問題ないかと……だけど未知な生物なんで油断禁物です、カガヤさんは念のためそのままでいてください」


「ボクはどうします? 防御魔術はそのままのほうがいいですかね?」


「解いて大丈夫だと思います、ヤバい時はヨーゴさんに守ってもらいましょ」


「わかりました」


 ふぅ……と息を吐いて魔術を解く。プレッシャーから解放され、心が幾分か落ち着いた。


「とりあえずドクターシールも呼んで、その蛇を調べないとですね〜」


 危険な状況が去り、気を張るのをやめたため、ホノンはいつもの調子に戻る。そしてポイ捨てしていたトランシーバーを手に取り、連絡をする。


「……もう終わっている感じかな?」


 ホノンがトランシーバーに向けて喋っている時、空からユウレンが降りてきた。


「終わったところだ、これからこの蛇について調べる予定だ」


 イマイチ状況を把握しきれていないユウレンに、ヨーゴは簡潔に説明した。


「……なら僕の出番はなさそうだ、またいつでも呼んでくれ」


 ユウレンは金色の蛇を一瞥して、空へと飛び立った。

 彼の後ろ姿をカガヤとヨーゴが黙って見送っていると、ホノンが口を開いた。トランシーバーの通信が終わったのだ。


「ドクターシールとオウイチロウさんを呼びましたんで、ちょっと待ってましょうか」


「……だったらユウレンに2人を連れてきてもらえばよかったな」


 ヨーゴは鬼装を解きながら、静かに言った。


「あぁ〜……確かに〜!!」


 無駄な時間を過ごす羽目になった3人は、金色の蛇の死骸を見続けた。頭と胴体の断面からは赤い液体がチロチロと流れている。

 それ以外の変化が、あるかどうかの観察だ……と、ヨーゴとカガヤは自分に言い聞かせていた。本気で観察し、考察していたのはホノンだけであった。


「ユウレンがあの死骸をチラ見して、何もしないってんならマジで死んでるんだろうな」


「ホノンさんはどう思います?」


「まぁ今のところ大丈夫じゃないですかね……死んでるかは知りませんけど、動く気配もないですし」


 警戒は続けるが、ホノンが言うなら大丈夫だと2人は仮定する。彼女の憶測ではあるが、専門家の意見に反論できるほどの知識・知見を、2人は持ち合わせていない。

 

「おーい!! ホノンにカガヤ!! それにヨーゴ!!」


 10分後、オウイチロウの声が聞こえてくる。


「お疲れ様で〜す、夜分遅くにすみませんね〜」


「別に構わん、街のためだからな……なぁシール?」


「おっふぇ……おぇ……ぜぇ、ぜぇ……」


 オウイチロウの後ろで、白衣にカーゴパンツという出で立ちの、ボサボサな白髪の初老男性が苦しそうに肩で息をしていた。


「……大丈夫ですか?」


 心配そうにカガヤが声をかけると、初老男性はか細い声で「平気だ……」と答えた。


「オウイチロウの旦那、足速くて……運動不足のオイラにゃあ辛いんだよなぁ」


 初老男性……ドクターシールはそう言って何度か深呼吸をする。


「ちゃんと仕事できるか? シール」


 オウイチロウが不安そうに確認すると、シールは軽く親指を立てサムズアップのハンドサインをする。


「大丈夫だぜ旦那、んで例の生き物ってのぁどこだい?」


「あれでーす」


 ホノンが指差した金色の蛇の死骸へ、シールは歩いていく。彼が歩くたび、カパッカパッと履いているサンダルの音が聞こえてくる。後ろをついていくオウイチロウとヨーゴは、この気の抜けた音が苦手であった


「ヨーゴさんが頭をぶった斬ってから、そーですね……10分ちょっと経過してますかねー」


 頭部を斬られた蛇を見ながらホノンが報告すると、オウイチロウは顔を青くし、シールは顎に手を当て考え始める。


「オウイチロウさん、どうしました〜?


「いや……なんでもない」


「そうですか……んじゃドクターはどう思います? 死んでると思いますか〜?」


「まぁ死んでんじゃねぇかな……と言いてぇとこだけど、ちゃんと解剖してみねぇとわかんねぇ」 

 シールもホノンと同様に、死んでいると断言はしない。見た目だけで判断するのは危険だからだ。特に怪獣相手ならば。


「おいカガヤぁ……これ手に触れずに運べるか?」


「わかりました、やります」


 万が一のために少し離れた場所で待機していたカガヤは、シールの要請に応じる。


「オイラの住処まで頼むわ」


「その前にこの場所の監視を誰かに変わってもらいましょ、空席はマズいんで」


 そう言ってホノンはトランシーバーに話しかける。

 片っ端からやってくれそうな人に頼み込んでいき、3分ほどで代わりが見つかった。

 これで心置きなくこの場所を離れることができる。


「それじゃあ運びます」


 魔力を放出し、切断された頭部も含め、蛇の死骸を包み込む。そしてソレを魔力操作でフワリと宙に浮かせた。あとは、子供が持つ風船のように運ぶことができる。


「すまないが、一旦俺は事務所に戻らせてもらう」


 一行が歩きだす前に、オウイチロウは離脱を宣言した。


「ちょっと気になることがあってな……あとで報告してくれ」


 そう言ってオウイチロウは別の方向へと歩いていく。止める者はいなかった。街を統括する彼の多忙さを知っているから……そのような用事があるのだろうと4人は思った。


「忙しいなぁ旦那は」

「仕方がないだろう……さっさといくぞ」


 オウイチロウを除く4人は、シールの家へと歩いていく。

 着いたのは、ちょっと大きめのトタン小屋。玄関前の立て看板には診療所となぐり書きされている。

 ほぼ全面が錆びついており見た目は悪いが、これでもバリケードタウンの住民からはちゃんと診療所と認められていた。


「よし、中に入れてくれ」


 玄関の戸を開けたシールの言う通り、カガヤは金色の蛇を中へと運び込む。


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