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03

 瓦礫の街はザワついていた。

 街の外から来る人間を住民達が珍しがっているのである。この街は稀に移住希望者が来る程度で、人の出入りは少なめだからだ。ゆえに見知らぬ人間が来るとソワソワしだすのだ。


 オウイチロウとヨーゴを先頭に、カガヤが続いて歩く……カガヤの周りは警備隊の5人が囲んでいた。有事の際に素早く対応するためである。

 先程の魔術を見たヨーゴの提案だ。


「……オウイチロウさん」


「なんだ?」


 街の様子をボンヤリ見ながら歩くカガヤに聞こえないよう、ヨーゴはひそひそと声をかける。


「どうしてヤツを事務所にまで連れていくのですか? やはり危険では?」


 銃や爆弾ならば対処のしようがある。そういう訓練を積んできた。

 しかし魔術は別。知識のある人間がバリケードタウンにおらず、いざという時の対処の仕方がわからないからだ。

 もしここでカガヤがオウイチロウへの殺害を実行すれば、警備隊は防ぎきれないだろう。


「統治者であるアナタが死ぬことは、あってはならないことです」


「さっきも言ったろう……殺す気があるならとっくに殺ってるはずだ。今だってチャンスなのに殺しに来ないんだから、ひとまず大丈夫だろ」


「ヤツを信用するというのですか?」


「今後の話の内容と、ヤツの態度によるな」


 ニヤリと微笑むオウイチロウの心境が、ヨーゴにはわからない。ボスとして尊敬し信頼しているが理解者にはなれずにいる。


「良い街ですね、オウイチロウさん……でしたっけ?」


「あぁ、見るモンがない殺風景さがマイナスポイントだが、住んでる連中はみんな気のいいヤツなんだ」


 カガヤの言葉にオウジロウは快く応じる。

 オウジロウも、警戒していないという訳ではない。

 ここで機嫌を損ねられて、無差別テロのような行動をされてはたまらない。街の統治者として責任を持ち、なるべく不快にさせないよう努めている。

 円滑かつ友好的なコミュニケーション。それが今できる最大の防衛行動だ。


「そこだ、そこが俺の事務所だ」 


 街の様子についての他愛ない話をしながら歩くこと5分弱。

 街の中心部である監視塔のすぐそこ……小さくてボロいプレハブ小屋を指差し、オウジロウは笑いながらカガヤに言った。


「なんというか……事務所ってイメージと違いますね」


「俺はこういうボロっちいのが落ち着くんだ」


 オウジロウは扉を開けて、カガヤを招き入れる。その後にヨーゴも続く。警備隊5人は外で待機し、オウイチロウかヨーゴの命令を待つことになった。


「これが……事務所ですか」


「俺の住居も兼ねてるんだ」

 

 室内は会議用の折りたたみ式テーブルが1台、それに錆びたパイプ椅子が向かい合って置いてあるだけ。部屋の端っこには寝袋が折りたたまれていた。


「まぁ座れ」


「では失礼して」


 カガヤは出入り口側の椅子に腰掛ける。オウイチロウは壁側……隣にはヨーゴが黙って姿勢よく立つ。警護のため、素早く動けるようスタンバイしているのだ。

 これが客人を迎える際の、オウイチロウとヨーゴのいつものフォーメーションである。


「ここまで大変だったろう、面倒なヤツがウヨウヨしてるからなぁ」


「身を隠す魔術があるので、それでやり過ごしてきました」


「そうかい……んで、この街にいるユウレン・シェーンに、ボルケーノ・ウィッチの遺言を伝えたいって話だったな?」


「そうですね」


 話を切り出したのはオウイチロウ。ここまで来るまでの他愛ない話の中で、最低限の情報は得ていた。


「結論から言わしてもらうが……お断りだ」


「……何故です?」


 怪訝そうな面持ちで、カガヤは問う。


「ユウレン・シェーン……いや、ピースガイは今、メンタルが不安定なんだ」


「あのピースガイがですか……?」


 ピースガイ。

 それは地球育ちの異星人の、スーパーヒーローとしての名前。その名は凶悪な怪獣や怪人に怯える人々の希望であり、地球人類の守護神である。


「スーパーヒーローだろうとソイツに心がある以上は、マシーンみてぇに完全完璧じゃねぇんだ」


「……何を仰っしゃりたいのでしょうか?」


「アイツ、精神的にまいってるようでな」


 ピースガイは人類の希望。どんなに凶暴な怪獣でも、どんなに卑劣な怪人でも、必ず退治する完全無欠のスーパーヒーローだと信じられていた。

 しかし現実はそんなことはなく……ある日、とある怪獣にピースガイは大敗を喫した。

 結成されたヒーローチーム総出のリベンジマッチも盛大に負け、何度挑戦しても負け続けた。

 それにより人類は庇護されている立場ということを忘れたのか、ピースガイや他のスーパーヒーローを激しくバッシングし始めたのだ。

 それらに耐えられなくなったピースガイは突如として隠居し、今に至るのである。


「今の不安定な状態で、仲間だったヤツからの遺言なんて聞かせたら、どうなるかわからん……もし街から出ていかれたら、この街は怪獣らに攻め込まれて滅ぶだろう」


「滅ぶ?」


「このバリケードタウンは、ユウレンが無自覚に放っている生物的強者の覇気で守られてんだよ」


「……なるほど」


 街の外には人間よりはるかに強く強大な怪獣や怪人がウヨウヨいる。

 それらにバリケードタウンが襲撃されないのは、ひとえにピースガイ……ユウレン・シェーンのおかげである。

 怪獣や怪人はこの街を、ピースガイの縄張りだと認識しているのだ。

 だから怪獣はあまり来ない。来るのはあまり脅威でないバカな怪獣だけだ。


「……事情は理解しましたが、ボクにも引けない理由があります」


 ここまで事情を聴いたうえで、なおも自分の意見を通そうとする……もうあとに引けない理由があるのだとオウイチロウは予想した。


「どうしてもって言うんなら、遺言の内容を聞かせろ……俺が精査してやる」


「悪いんですけど、魔術的制約によってこの遺言は他人に明かせない……というかボクも遺言の内容は知らないんです」


「知らないだと?」


 黙っていたヨーゴが思わず口を開く。


「知らないで遺言を伝えるだと? どうやってだ?」


 問うたヨーゴだけでなくオウイチロウも思った、もっともな疑問。

 対するカガヤは自分の喉を指差した。


「遺言を録音した魔術がボクの喉に封じられていて、この封を解除すると術がビデオテープみたいに再生される仕組みなんです」


 魔術に関しては、ヨーゴもオウイチロウもド素人。画面の向こうのファンタジーでしかなかった技術。まともな意見をすることができない。


「その話がマジなら……そうだな、俺も遺言の場に同席したいところだな」


 誰も知らない……内容も定かでないチームメイトの遺言を、精神の安定を欠いている街の守護者に伝える。

 あまりにもリスクが大きいと判断した、オウイチロウの妥協案。


「……すみませんが」


 それをカガヤは申し訳なさそうに断って話を続ける。


「ユウレン・シェーンとボクの二人きりの状態で、この封を解除する……そういう誓約を師匠と交わしました」


 カガヤの声色が少し震える。誓約を交わした時のことをちょっぴり思い出したのだ。


「この誓約は単なる口約束とは違う、魔術による誓約です……もし破ったり反故にしたら、ボクは魔術的な罰を喰らう」


「罰とはなんだ?」


「……喰らうまでわかりません」


 ヨーゴの問いに、カガヤは少し顔を背けて答えてしまう。

 嘘偽りない真実を述べているのだが、カガヤは交渉を成功させる自信を失いつつあった。

 ずいぶんと都合の良い依頼をしていると、話をしている間に自覚したのだ。


「誰かに知られると罰が下る内容の遺言か……今のアイツに聞かせるのが余計に怖くなるな」


「そこをなんとか、お願いします」


 全て事情を説明し切ったカガヤには、もう頼むことしかできない。

 ただのその事情が、オウイチロウとヨーゴに嘘だと思われていないかが、彼の懸念点であった。


 それに対してオウイチロウは


「悪いが、断る」


 とだけ言って、立ち上がる。


「ちょ……ちょっと待ってください、考え直していただけませんか?」


 プレハブ小屋を出ていこうとするオウイチロウに、カガヤは思わず椅子から立ち上がって頼み込む。


「俺達の立場になって考えてみろ、リスクばかりでリターンが一つもない……その頼みを聞く理由が皆無だ」


「それは……」


「頼むばかりじゃなく、リスクに見合うリターンを提示してみせろ……そうしたら考えてやる」


 何も言い返せないカガヤにオウイチロウはキッパリと言い放った。街の統治者として、たとえ武力で勝る相手であろうとも、譲れないモノは譲れない。舐められたら終わりなのだ。


「ヨーゴ、ソイツの面倒みてやれ」


 そう言い残して、オウイチロウはプレハブ小屋から出て行った。


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― 新着の感想 ―
せめて、『紙の文章』として遺言を遺せてたら良かったのに……………(-_-;)
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