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ユウレンはいつも通り、タンクトップの上に革のジャケット、下はダメージジーンズというラフな格好だった。
復興作業を手伝っていたところで急な警報を受け、綺麗な金髪を濡らしている汗を拭うこともなく、避難誘導に行動を切り替えた。
そんな彼の……ピースガイの威光の効果は絶大で、大概の怪獣や怪人はバリケードタウンに近寄ってこない。宇宙人すらもそうだ。
しかし稀にいるのだ。身の程知らずなのか、それとも勝てる算段があるのか……とにかく挑んでくるモノがいる。
(以前、グルバラムと一緒に襲来したチルクスも、きっとピースガイに勝てる見込みがあったのだろう……結果としては、生きる不条理を前にあえなく散ったが)
理由はなんにせよ挑んでくるならば、ピースガイは受けて立つのみ。
「……あれか」
避難誘導を終えたユウレンは、上空100メートルを浮遊していた。
その目で北から迫りくる巨大な鳥を確認する。
「ROGYAAAAAAAAAS!!」
やってきたのは、カラスのように黒い鳥――再生怪鳥ロギバエッサだ。
全長50メートルの巨体で、顔つきは猛禽類……特にワシに似ており、鉤形の嘴が印象的。
無論、普通の鳥類にはない特徴も多々持ち合わせている。
巨大な両翼の付け根には、小さな腕が生えている他、嘴にはノコギリのようなびっしりと歯が生えている。
何より、大きな両翼は鋼鉄のように硬い。羽の一本一本が鉄と同等の硬度を誇り、飛行に支障がないほどに軽いのだ。
そして(多くの怪獣に当てはまることだが)ヒトでも中に入っているかのような直立二足歩行をするときている。見る人が見れば鳥人間だ。
そんな怪鳥が、バリケードタウンへと飛来する。何の目的かは不明だが、住民にとって脅威なのは間違いない。駆除せねばならない存在だ。
「よし」
避難は数秒前に完了したとの報告があった。バリケードタウンの地上には誰も残っていないはず。
だからといってピースガイは、街中で戦うことはしない。現在、街は復興作業中。損害を被ることは避けたい……平時でもそうだが、今は余計にダメだ。士気に関わるからだ。
なので、なるべく街から離れた場所をバトルフィールドとするつもりでいる。
とするならば、やるべきことはひとつ。
――ビュンッ!!
ピースガイは一瞬で音速まで到達し、飛行中のロギバエッサとの距離を詰める。
そして
――ドパァン!!
「ROGYAAAAA!?」
ロギバエッサの眉間を右ストレートで殴り飛ばした。
突然の衝撃に全ての感覚が狂わされたロギバエッサはバランスを崩し、力なく地面へと落ちていく。
ヒュルルルルルルル……ドシャアアアアアン!!
バリケードタウンから5キロ離れた荒れ地に墜落したロギバエッサは、頭をフラつかせながらも即座に立ち上がった。
脳への衝撃はともかく、打撃痕はすでに完治している。再生怪鳥と呼ばれる由縁だ。
実に厄介な相手である。特殊な能力を持たないだけ、ベゴサウルスやサッドンのほうがまだやりやすい。
だが弱音は吐かない。強く意志を保つ。
取り戻したピースガイとしての誇りが、彼にはあるのだ。
――ビュッ!!
もはや瞬間移動レベルの速度でロギバエッサとの距離を詰めたピースガイ。
今度は腹部。怪獣とて臓器が集中する場所だ。
そこに全力の右拳を叩き込む。
――ドゴォ!!
「ROGAAA!?」
強い衝撃が臓器に響き渡ったため、口から大量の胃液を吐くロギバエッサ。
その液に触れないよう、ピースガイは瞬時に離れた。
衝撃によるダメージは与えた……しかし
「ROGYAAAAAAAAAAS……!!」
再生は外傷だけにとどまらない。臓器もすぐに治癒し、元通りになってしまう。
これでは通用しなかったのと同じ……どころか、ロギバエッサを怒らせただけだ。
「なら」
単純な打撃攻撃は効果が薄いと判断したピースガイは、攻撃方法を切り替えることにする。
「ふんッ……!!」
彼は双眸に力を込める。
不思議なことに、眼球から赤い光が発生してくる。まるで夜空に浮かぶ小さな星の輝き。
その正体は破壊エネルギーの光。彼が浴びた太陽光が、体内で変換・生成されているのだ。
空を飛べて、殴る蹴るが強いだけなら、他にもできるヤツはいた。
だがこれを十全にできるヒーローは、地球上ではピースガイただ一人であった。
「ハッ!!」
エネルギーを解放。
――ドルルルルルルルルルルルルルルルル!!
すると真っ赤な破壊光線が、彼の両眼から放たれた。
その赤い光は真っ直ぐに、ロギバエッサの眉間に突き刺さった。
「ROGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」
破壊の炎が、ロギバエッサの眉間を貫き頭蓋骨に到達。
生命の危機を本能で感じ取ったロギバエッサは、光線を避けるために屈んでみせる。
しかしそれでは光線からは逃れられない。
――ドルルルルルルルルル……!!
屈むロギバエッサへの照射を続けるピースガイ。やめる理由などない。なんなら、このまま殺しきるつもりでいた。
再生怪鳥といえど生物の急所である脳か心臓を、一気に壊しきれば死は免れない。
ならばどちらかを破壊するまで、この光線を押し付け続ける。それが現状の最適解だとピースガイは思っていた。
だがそう簡単にコトが運ぶはずもなく、想定外が引き起こされる。
「ROGYABAAAAAAAAAAAAAAAAAAS!!」
ロギバエッサは急に起き上がり、飛び跳ねたかと思うと、そのまま空へと上昇していった。
普通の鳥類とは全く違う、大して羽ばたきもせずに垂直離陸をする……しかもそれで飛行を成立させるという不可解さ。
空を飛ぶ怪獣の大半は、人類が長年かけて編み出した航空力学を馬鹿にしているような生態を持つ。まさに理不尽である。
「くっ!?」
そのまま光線で追撃を試みるも、すぐに有効射程距離外へと逃げられてしまう。多少脚か羽を焦がしたくらいだ。
「逃がすか……!」
ロギバエッサより速く飛べる自信はある。
だから追撃して再び光線を浴びせてやろうと思ったその時。
『こちらオウイチロウ。追撃無用、繰り返すぞユウレン、追撃は無用だ』
そうトランシーバーから聞こえてくる。
妙な命令に戸惑ったピースガイ……ユウレンは腰のトランシーバーを手に取り、口元に当てた。
「こちらユウレン、オウイチロウ、どういうことだ」
『ソイツはもう戦意を喪失したらしい、ホノンがそう言ってる』
「だとしても生かしておいたらまた来るのでは」
『ヤツはもうお前を格上と認識したそうだ。格上と判断した相手のところには、他の怪獣と同じく近寄ってはこないさ』
そんな会話をしているうちに、ロギバエッサは彼方へと飛び去っていった。追いかけようと思えばできるが、ユウレンは思い止まる。
「……わかった、そっちに戻る」
怪獣の専門家であり、異常な勘の良さを誇るホノンが言っているならば、きっと間違いはないと、ユウレンはそう判断したからだ。
「だったらオウイチロウ、皆を地上に戻して大丈夫だ……念のため僕はしばらく監視を続けるけど」
『そうしてくれると安心だ、皆を地上に戻す』
それで会話は終わった。トランシーバーを元の位置に収め、ユウレンはロギバエッサの飛び去った方角を見つめる。
やはり長年の引きこもり生活のせいで、戦闘力が格段に落ちてしまっていると感じた。
全盛期ならばロギバエッサ程度なら数分あれば撃滅できていた。
ベゴサウルスやサッドンのような何の能力もなく、力押しだけの怪獣ならば何とかなる。
だがロギバエッサのように特異な能力があると苦しくなってしまう……その事実をユウレンは素直に受け止める。
バリケードタウンにいる皆を守るために精進せねばならない、鍛え直そうとユウレンは誓った。
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