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カガヤが遺言を伝えてから約半年。
ユウレン・シェーンは、ヒーローのピースガイとして復活。バリケードタウンは復興しつつある。
怪獣を寄せ付けないピースガイの圧倒的な存在感に加えて、周辺に潜んでいた怪獣の殲滅まで行われたからだ。
ジオレクスとグルバラムによって消えない傷はつけられたものの、乗り越えられるだけの団結力が住民達にはあったのだ。
「ヨーゴさん、今日もボクは西側の作業ですよね?」
「あぁそうだ、頑張ってこい」
時刻は早朝。
立ちながら手に持つ作業予定表を見ていたヨーゴに確認を取り、カガヤは指定された場所に向かう。
あれからカガヤはこのバリケードタウンに定住し、復興作業に勤しみながら住民達と交流を深めていた。彼が元々いた場所は遠く、戻ったとしても誰も何もないため、帰る理由がなかった。
そしてカガヤは住民達に深く感謝している。余所者である自分のことを、まるで家族のように扱ってくれているからだ。
人の温かい心に触れると、過去の嫌な記憶が和らいでいく。彼にとって住民達との交流は一種のセラピーであった。
カガヤが向かった先は西門の手前。グルバラムの襲来による被害は大きく、未だに完全な復興はできていない。
瓦礫や土砂の撤去に建物の修復……作業は山ほどある。
「ようカガヤ、来たか」
「おはようさん、カガヤ!」
「おはようございます、ヨシダさんにミツイさん……今日の作業は何をすれば?」
西門の近くで、軍服を着て障害物の撤去をしているのは警備隊所属の2人。どちらも屈強な身体を活かして、瓦礫や土砂を一輪車にたっぷりと乗せて運んでいた。
ガタガタの道で車輪が暴れるも、2人は平然と作業を続ける。まだ真似できないなとカガヤは思いつつ、今日の作業内容を問う。
「今日も瓦礫と土砂の片付けだな、しばらくこればっかりになると思ってくれ」
「疲れたら適宜休憩を挟んでくれていい、いつも通り無理せず地道にいこう」
「了解です、んじゃ手袋取ってきます」
カガヤは近くに設営されていた集会用のパイプテントに向かう。そこに工具やスコップに一輪車など、作業に必要なモノが揃っているのだ。
「あっ、サダヒメさん」
「あぁカガヤさん、どうも」
テントではサダヒメが工具などの片付けや、物品の補充などの整頓作業をしていた。いつも通り黒髪を後ろでお団子に纏めて、ライダースーツを着ていた。
作業するのに似合っていない珍妙な格好だが、彼女は頑なにこれが動きやすいと言うのだ。
「お疲れ様です、いつもありがとうございます」
工事作業には何かとモノがいる。それを準備するのも一苦労だろう……そう思ったカガヤは軽くお辞儀をしながら礼を言う。
対するサダヒメは「いえいえ」と照れくさそうに返した。
「私にできることをしているまでですから、必要なものがあったら遠慮なく言ってくださいね」
「助かります、そうさせてもらいます」
そう言って、カガヤは物干しスタンドに掛けられた軍手を一セット持って、その場をあとにした。そして軍手を両手に装着しながら、ヨシダとミツイの元へと戻る。
その背中を見て、サダヒメはこの街によく馴染んできてくれたと思う。
少し前に、カガヤの話をサダヒメは聞いたのだ。
彼のことを知った時、サダヒメは泣きそうになった。師匠であり家族でもあったボルケーノウィッチが亡くなった後、カガヤは彼の地にて一人で生き延びてきた。飢えと渇きに苦しみ、時には虫さえ食べて生きてきたらしい。
例の遺言を伝えるという意思がなければ生きるのを諦めていたという……そんな極限状態にいた彼が今を生き生きとしているのを見ると、ホッと安心するのだ。
「……本当に、よかった」
サダヒメは一人呟く。
彼女とカガヤ……そしてヨーゴとホノンは同年代。それゆえ4人の結束力は強い。他の住民達も、彼らのことを仲良し4人組と認識しているほどだ。だからこそ心配もする。
「サダヒメさ〜ん」
カガヤを見送ってからしばらく整頓作業をしていると、背後からホノンの間延びした声が聞こえてくる。
「どうかしましたか? ホノンさん」
近寄ってくるホノンに問いかける。しかしその問いかけに、彼女は不服そうな顔をした。
「もー、さん付けはやめてくださいよ〜」
「そっちだって、私のことさん付けじゃないですか」
「ウチは誰にでもそうなっちゃうんですよ〜」
「なら私も誰にだって敬語で話してます、同類ですね仲間です」
「……ちぇ~」
ホノンは拗ねる仕草をするも、全てが演技だとわかっているサダヒメは、わざわざペースに付き合わない。
「それで、ご要件は何でしょう?」
ホノンとの会話はパパッと主題に入らないとグダグダになって長引く。それを何度も体感して知っているサダヒメは無駄話になりそうな雰囲気を打ち切った。
「あぁ〜オウイチロウさんが呼んでましたよ〜、貯水タンクの修繕道具が欲しいとかなんとか」
「とりあえず道具一式を持っていけばいいんですね、承知しました」
「暇なんでウチも手伝いますよ~」
今のバリケードタウンの状況で暇だなんてことなどありえないはずなのだが、悪びれもせず言ってのけるホノンに、サダヒメは少し呆れてしまう。
きっと彼女は自分の仕事をササッと終えてフラフラしていたのだ。そこをオウイチロウが捕まえて仕事を与えたのだろうとサダヒメは予測する。
「ではこの工具箱を持っていただけますか?」
「イエッサ〜」
ホノンは両手で大きな工具箱を抱え、サダヒメは溶接機を持って歩き出す。
どちらもかなり重いが、彼女らは鍛え方が戦前の綺麗な女性達とは違う。男と遜色ないほどに肉体は頑丈で、運動機能も男と大差ない。
息を切らすこともなく休憩もなしに、数十分ほどでオウイチロウのいる東門へとたどり着いた。
「オウイチロウさん」
東門の手前で、あくせく働く者達に指示を飛ばしながら、オウイチロウは立っていた。
「サダヒメにホノンか、持ってきてくれてありがとう、そこら辺に置いておいてくれるか?」
指示を受けた2人はオウイチロウの近くに道具を置く。テーブルなどはないため地面に直置きした。
そしてサダヒメは周囲を何気なく眺める。
ジオレクスが歩いたことによる被害は、戦場となった区域よりは大きくないものの、決して小さくはない。以前の景観とは悪く様変わりしてしまっている
街中に点在しているシェルターは修復を終えたものの、完全な復興までは時間を要する……街の景色を見てサダヒメはそう実感した。
その時だった。
大昔の空襲警報のように、恐怖を感じさせる甲高い警報が街中に響き渡った。
「みんな作業中止!! 全員シェルターに避難しろ! いつもの訓練通りにやれば大丈夫だ!」
警報が鳴った瞬間にオウイチロウは厳しい顔に変わり、その場にいた全員に命令する。
「焦ることなく落ち着いて行動しろ!」
逃げていく住民達を見ながら数えていく。逃げ遅れがいないよう注意しているのだ。
「オウイチロウさん、私達も逃げましょう」
「ヤバいっすよ!」
「……よし、わかった」
ちょうど数え終わったオウイチロウはサダヒメとホノンと共に、近くのシェルターへと走り出した。
走りながら、オウイチロウは腰に付けていたトランシーバーを手に取り、話しかける。
「ユウレン! ユウレン応答しろ!」
『こちらユウレン、どうぞ』
「警報は聞こえているな? 討伐を頼む」
『わかってる、避難誘導を終えたらすぐ向かう』
「急げよ」
『もちろん』
そのやり取りを最後に、オウイチロウはトランシーバーを腰に戻した。
もう伝えるべきことはなく、信じるだけになったからだ。
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