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「起きろ!!」

「です!!」


「うひゃあ!?」


 ユウレンと話をしたその夜。

 療養のために監視塔一階でスヤスヤと寝ていたところを、反射的に起き上がってしまうほどの大声により起こされるカガヤ。声の主はヨーゴとホノンだった。


「……いきなりどうしたんですか大きな声だして、びっくりしたなぁもう」


「どうしたもこうしたもあるか!!」

「あるか!!」


 2人から明確な怒りの感情をぶつけられ、特に心当たりのないカガヤは困惑する。

 何かやってしまったかと急いで思い返そうとするが、ヨーゴはその隙を与えてはくれない。


「オウイチロウさんに経緯を聞いた!」

「聞いた!!」

「何でユウレンに遺言を伝えないんだ!!」

「ないんだ!!」


「……ちょっと口を閉じろ、ホノン」

「……はーい」


 遺言の件を気にしていなかったカガヤは、ヨーゴらの怒りの気持ちがイマイチわからない。


「師匠の遺言ですか? お言葉ですけど別にお2人に関係ないですよね?」


 自分のことでもないのに、どうしてそんなに怒るのか……不思議に感じた。

 そして、関係ないときっぱり言われたヨーゴの怒気はさらに増す。


「確かに関係はないが、オマエはそんなんでいいのかよ」

「全然いいですよ、師匠も許してくれるはずですし……そもそも期限は決まってません、タイムリミットなんかないんですよ」


 だから別にいつ伝えても問題ない。

 そんなふうにカガヤは考えていた……考えを改めていた。なにも焦ることはない、ユウレンのタイミングを待つだけでいいのだ。


「一刻も早く伝えたいんじゃなかったのか?」

「気が変わったんですよ」


 問いかけにカガヤはアッサリと答える。

 ヨーゴは思い出す、カガヤがこのバリケードタウンに来た頃のことを……遺言を伝えたいという意気込みを感じた。

 それが今はまるでない。


「オマエの目的でもあったはずなのに、どうしてだ」


「ボクもそこんところが、よくわからなくて」

 

 このままでは目的のないボランティアになってしまう。ここに来た意味がなくなる。

 しかしカガヤ自身もこの感情の変化を言語化できない。

 これではもはや誰も知ることはできない。

 行き詰まった2人は沈黙する。

 

「カガヤさん……もしかしてウチらのこと、心配になったりしてます?」


「え?」


 静かな時間を破ったのは、黙らされていたホノンだった。


「ウチらのこと、仲間とか友達だって思ってくれてるんでしょ? だからユウレンさんに、ウチらを守ってほしいなんて言ったんじゃありません?」

 

「友達って……」


「そんな照れないでくださいよ〜、友達が心配で、守りたいだなんて思うのはすごく普通なことですよ〜?」


「友達……友達ですか」


 反芻する。そして噛みしめる。

 カガヤにとって、ボルケーノウィッチは魔術の修行をつけてくれる師匠というだけでなく、母親であり姉でもあった。つまり家族だったのである。

 だから友達ではなかった。

 長年の修行で、カガヤは友達という概念を忘れたのだ。


「そうかも……しれません」


「そうかもしれませんじゃないですよ〜、絶対にそうなんですよカガヤさんってば〜」


 そう言いながらホノンは、にっこり笑顔でカガヤの肩に優しく手を置く。


「ウチらなら大丈夫ですよ、ユウレンさんはオウイチロウさんとの約束があるから、ずっと守ってくれるって話ですし……少し頼り甲斐が減りますがヨーゴさんもいてくれます」


「今オレをディスったか?」


「とにかくですよ!! ウチらが言いたいことはですね!!」


 ヨーゴの睨みを気にせず、ホノンは続ける。


「ゴタゴタ言わずに、さっさと目的を遂げてしまえよ……ですよ!!」


 そのホノンの強い言葉が、2人の意思だとカガヤは理解した。余計な心配をしていたのだとわかった。

 

「別に目的を遂げたからって、一緒にいられなくなる訳でも、友達じゃなくなるって訳でもないですからね〜気楽にいきましょー」


「……わかりました」


 ほんの少し涙が溢れそうになったが、カガヤは堪えた。ここで泣くのは男らしくないと思ったのだ。それに、彼らに泣く姿を見せたくなかった。


「それじゃあ、ユウレンさんのところに行ってきます……」


「そうしろ、焦れったいんだよバカが」

「ユウレンさんなら、プレハブ小屋にオウイチロウさんといるはずなんで……んじゃあ、いってらっしゃーい」


「お手数おかけして、すみませんでした2人とも!」


 軽く謝罪してからベッドから降り、元の服に着替えもせず緑色の貫頭衣のまま、カガヤは監視塔を飛び出ていった。


 そしてすぐにプレハブ小屋に到着。

 興奮しすぎてノックもせずに室内に入った。


「ユウレンさん!」


「うぉ!? カガヤくんか、どうしたんだい?」

「よぉカガヤ、今度からはノックしろよ」


 オウイチロウもユウレンも椅子に腰掛け、テーブルにそれぞれ本を置いて読んでいた。

 まぁそんなことはカガヤにはどうでもいい。


「まぁ空いてる椅子に座れ」


 オウイチロウに指をさされ、カガヤは空いている椅子に腰掛けた。

 そして単刀直入に話を始める


「やっぱり師匠の遺言を聞いていただきます!」

「……ヨーゴとホノンの話で気が変わったのか?」

「そうです」


 ユウレンは読んでいた本を閉じて、「はぁああ〜」と力のないため息をつきながら、目の前の机に突っ伏してしまう。


「だから聞くの心の準備ができてなくて、怖いんだってば……正直あんまり聞きたくないし」


「そこをなんとか……!」


「聞いてやってくれ、ユウレン」


 思わぬところからの助け舟。本を置き、オウイチロウは2人を交互に見ていた。


「カガヤは俺の部下2人を救ってくれた……恩返しをせねばならん」


「オウイチロウさん……」


 少し前にリスクとリターンの話をした人物とは思えない情のある言葉に、カガヤは少し驚いてしまう。


「でも……」


「でもじゃないぞユウレン、そろそろ自分と向き合って成長しろ」


「僕は成長するつもりなんか……」


「じゃあ死ぬか? 成長を拒むヤツを、いつまでも養ってなどいられない」


 ウジウジと下を向くユウレンに、オウイチロウは厳しい言葉をかけた。

 それに対してユウレンは思うところがあるのか、覗き込むようにオウイチロウを見る。


「……僕が本気になれば君達なんか」


 どうとでもできる……そう言うつもりだった。

 しかしオウイチロウが「やってみろ」と挑発染みた言葉で遮った。


「仲間の遺言すら聞けないやつの本気など、たかが知れている、皆殺しでも逃避行でもやってみるがいい……一人で生きていけるって自信があるんならな」


「……わかったよ」


 また下を向く。ユウレンは何事にも自信がないのだ。卑屈になっているといっていい。

 だが今のオウイチロウの脅しのような言葉は、何故か胸に刺さった。自分自身、そろそろ前に進まねばならないと、心の何処かで思っていたからかもしれない。


「聞かせてもらうよ、君の師匠の……ミレアの遺言を」

 



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