34
「起きろ!!」
「です!!」
「うひゃあ!?」
ユウレンと話をしたその夜。
療養のために監視塔一階でスヤスヤと寝ていたところを、反射的に起き上がってしまうほどの大声により起こされるカガヤ。声の主はヨーゴとホノンだった。
「……いきなりどうしたんですか大きな声だして、びっくりしたなぁもう」
「どうしたもこうしたもあるか!!」
「あるか!!」
2人から明確な怒りの感情をぶつけられ、特に心当たりのないカガヤは困惑する。
何かやってしまったかと急いで思い返そうとするが、ヨーゴはその隙を与えてはくれない。
「オウイチロウさんに経緯を聞いた!」
「聞いた!!」
「何でユウレンに遺言を伝えないんだ!!」
「ないんだ!!」
「……ちょっと口を閉じろ、ホノン」
「……はーい」
遺言の件を気にしていなかったカガヤは、ヨーゴらの怒りの気持ちがイマイチわからない。
「師匠の遺言ですか? お言葉ですけど別にお2人に関係ないですよね?」
自分のことでもないのに、どうしてそんなに怒るのか……不思議に感じた。
そして、関係ないときっぱり言われたヨーゴの怒気はさらに増す。
「確かに関係はないが、オマエはそんなんでいいのかよ」
「全然いいですよ、師匠も許してくれるはずですし……そもそも期限は決まってません、タイムリミットなんかないんですよ」
だから別にいつ伝えても問題ない。
そんなふうにカガヤは考えていた……考えを改めていた。なにも焦ることはない、ユウレンのタイミングを待つだけでいいのだ。
「一刻も早く伝えたいんじゃなかったのか?」
「気が変わったんですよ」
問いかけにカガヤはアッサリと答える。
ヨーゴは思い出す、カガヤがこのバリケードタウンに来た頃のことを……遺言を伝えたいという意気込みを感じた。
それが今はまるでない。
「オマエの目的でもあったはずなのに、どうしてだ」
「ボクもそこんところが、よくわからなくて」
このままでは目的のないボランティアになってしまう。ここに来た意味がなくなる。
しかしカガヤ自身もこの感情の変化を言語化できない。
これではもはや誰も知ることはできない。
行き詰まった2人は沈黙する。
「カガヤさん……もしかしてウチらのこと、心配になったりしてます?」
「え?」
静かな時間を破ったのは、黙らされていたホノンだった。
「ウチらのこと、仲間とか友達だって思ってくれてるんでしょ? だからユウレンさんに、ウチらを守ってほしいなんて言ったんじゃありません?」
「友達って……」
「そんな照れないでくださいよ〜、友達が心配で、守りたいだなんて思うのはすごく普通なことですよ〜?」
「友達……友達ですか」
反芻する。そして噛みしめる。
カガヤにとって、ボルケーノウィッチは魔術の修行をつけてくれる師匠というだけでなく、母親であり姉でもあった。つまり家族だったのである。
だから友達ではなかった。
長年の修行で、カガヤは友達という概念を忘れたのだ。
「そうかも……しれません」
「そうかもしれませんじゃないですよ〜、絶対にそうなんですよカガヤさんってば〜」
そう言いながらホノンは、にっこり笑顔でカガヤの肩に優しく手を置く。
「ウチらなら大丈夫ですよ、ユウレンさんはオウイチロウさんとの約束があるから、ずっと守ってくれるって話ですし……少し頼り甲斐が減りますがヨーゴさんもいてくれます」
「今オレをディスったか?」
「とにかくですよ!! ウチらが言いたいことはですね!!」
ヨーゴの睨みを気にせず、ホノンは続ける。
「ゴタゴタ言わずに、さっさと目的を遂げてしまえよ……ですよ!!」
そのホノンの強い言葉が、2人の意思だとカガヤは理解した。余計な心配をしていたのだとわかった。
「別に目的を遂げたからって、一緒にいられなくなる訳でも、友達じゃなくなるって訳でもないですからね〜気楽にいきましょー」
「……わかりました」
ほんの少し涙が溢れそうになったが、カガヤは堪えた。ここで泣くのは男らしくないと思ったのだ。それに、彼らに泣く姿を見せたくなかった。
「それじゃあ、ユウレンさんのところに行ってきます……」
「そうしろ、焦れったいんだよバカが」
「ユウレンさんなら、プレハブ小屋にオウイチロウさんといるはずなんで……んじゃあ、いってらっしゃーい」
「お手数おかけして、すみませんでした2人とも!」
軽く謝罪してからベッドから降り、元の服に着替えもせず緑色の貫頭衣のまま、カガヤは監視塔を飛び出ていった。
そしてすぐにプレハブ小屋に到着。
興奮しすぎてノックもせずに室内に入った。
「ユウレンさん!」
「うぉ!? カガヤくんか、どうしたんだい?」
「よぉカガヤ、今度からはノックしろよ」
オウイチロウもユウレンも椅子に腰掛け、テーブルにそれぞれ本を置いて読んでいた。
まぁそんなことはカガヤにはどうでもいい。
「まぁ空いてる椅子に座れ」
オウイチロウに指をさされ、カガヤは空いている椅子に腰掛けた。
そして単刀直入に話を始める
「やっぱり師匠の遺言を聞いていただきます!」
「……ヨーゴとホノンの話で気が変わったのか?」
「そうです」
ユウレンは読んでいた本を閉じて、「はぁああ〜」と力のないため息をつきながら、目の前の机に突っ伏してしまう。
「だから聞くの心の準備ができてなくて、怖いんだってば……正直あんまり聞きたくないし」
「そこをなんとか……!」
「聞いてやってくれ、ユウレン」
思わぬところからの助け舟。本を置き、オウイチロウは2人を交互に見ていた。
「カガヤは俺の部下2人を救ってくれた……恩返しをせねばならん」
「オウイチロウさん……」
少し前にリスクとリターンの話をした人物とは思えない情のある言葉に、カガヤは少し驚いてしまう。
「でも……」
「でもじゃないぞユウレン、そろそろ自分と向き合って成長しろ」
「僕は成長するつもりなんか……」
「じゃあ死ぬか? 成長を拒むヤツを、いつまでも養ってなどいられない」
ウジウジと下を向くユウレンに、オウイチロウは厳しい言葉をかけた。
それに対してユウレンは思うところがあるのか、覗き込むようにオウイチロウを見る。
「……僕が本気になれば君達なんか」
どうとでもできる……そう言うつもりだった。
しかしオウイチロウが「やってみろ」と挑発染みた言葉で遮った。
「仲間の遺言すら聞けないやつの本気など、たかが知れている、皆殺しでも逃避行でもやってみるがいい……一人で生きていけるって自信があるんならな」
「……わかったよ」
また下を向く。ユウレンは何事にも自信がないのだ。卑屈になっているといっていい。
だが今のオウイチロウの脅しのような言葉は、何故か胸に刺さった。自分自身、そろそろ前に進まねばならないと、心の何処かで思っていたからかもしれない。
「聞かせてもらうよ、君の師匠の……ミレアの遺言を」




