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「ん……」


 青空の下に設置されたベッドで、日差しによってカガヤが目を覚ますと、隣から話し声が聞こえてきた。彼がそちらに振り向くと


「おっ……よぅカガヤ、遅い目覚めだな」

「カガヤさん!! よかったぁ〜……おはようございまーす」


 緑の貫頭衣姿のヨーゴとホノンが立っていた。

 2人とも絆創膏や包帯まみれで、カガヤはその理由を聞こうと起き上がろうとする。


「あぐっ!?」


 すると彼の全身に鋭い痛みが走った。自動的にまたベッドに横たわってしまう。何事かとカガヤは自分の身体を見ると、2人と同じ色の貫頭衣を着ていた。


「無理するな、オレ達全員が丸一日寝てた重傷患者だ」

「ウチらも今起きたところなんですよ〜」


「……ここどこです?」


「バリケードタウンだ……テントを用意できなくてすまないって、ドクター・シールとオウイチロウさんが謝ってたな」


 呑気に伝えてくる2人に、カガヤは戸惑ってしまう。心の整理が追いついていない。


「えっと……とりあえずジオレクスは?」


「チルクスの怪獣を殺したあと、どっか消えちまったそうだ……肝心のチルクスも姿を見せんし」

「亀のおかげで助かったんですよ〜」

「そればっかりだなオマエ……コイツの言うことは気にしないでいい」


 ホノンの放った言葉は気になるが、それよりも知りたいことがあった。


「あの……ユウレン・シェーンさんはどこにいますか?」


「ん……? ヤツなら外でオウイチロウさんと話してるぞ」


「……行ってきます」


「おぉ、待てよ」


 カガヤが起き上がろうとするのを、ヨーゴは手で優しく止めた。


「そう急がんでも大丈夫だ……ユウレンもオマエに用があるって言ってたしな」


 ホノンが「だから寝てても大丈夫っすよ〜」と付け加えた。

 しかしカガヤは止まれない。「ごめんなさい」とひと言添えて、ヨーゴの手を払い除ける。

 そしてベッドから立つ……が、猛烈な頭痛と吐き気。そして倦怠感が一気に襲ってきた。


「無理すんなって」

「平気です大丈夫です」


 だがどうしてもユウレン・シェーンに……ピースガイに言いたいことがある。

 カガヤはフラつきながらも、ユウレンのいる場所へと向かっていく。


「どう見ても大丈夫じゃないっすよ〜?」

「やっぱオマエ寝てろ、ユウレンならオレが呼んできてやるから」


「自分で……行けます……!」


 フラリ……ドタン!!


 ほんの少しだけ歩いて、力なく前のめりに倒れる。そんなカガヤをみた2人はすぐに駆け寄った。


「だから無理すんなっつってんだろバカが!」

「ウチはシール先生を呼んできますから、ヨーゴさんはカガヤさんをベッドまでお願いします」


 薄れゆく意識のなかで、カガヤが聞き取ったのはここまでだった。抱きかかえられた感触はあったが、振り払うこともできない。

 されるがままに、彼はベッドに戻された。それからの記憶は、彼にはない。

 

 カガヤが意識を取り戻したのは、それから3日後のこと。

 目覚めて最初に見たのは、灰色の天井。何となく見覚えがある……曖昧な意識下でも、監視塔の一階だとわかった。


「生命反応的に、そろそろ目が覚める頃だと思ったよ」


 カガヤの顔を覗き込んだのは、ユウレン・シェーン。それに驚いたカガヤは身体をビクリと震わせる。


「あぁ驚かせてすまない、カガヤ君……僕に会いたかったらしいね? 今ここで話そうか」


「……はい」


 カガヤは起き上がろうとするも、身体が思うように動かない。そんな彼をユウレンは補助し、ベッドの縁に座らせる。


「……すみません、ありがとうございます」


「いいんだ」


 頭を下げて礼をするカガヤに、ユウレンはニコリと笑って返した。


「さて、単刀直入だけどミレア……じゃなくって、ボルケーノウィッチの遺言を伝えに来たんだって?」

 

(ミレアとはボルケーノウィッチの本名。知っている者は限られる)


「オウイチロウさんから聞いたんですか?」


「そうだね、君が寝てる3日の間に色々と事情を聞いたよ」


「3日も寝てたんですね、ボク……」


 自分がいかに重傷だったのか、今更思い知る。

 無理に動こうとしたせいで多くの人に迷惑をかけたうえに、無駄な時間を過ごしたことをカガヤは恥じた。


「ヨーゴ君とホノンちゃんからも、君の話を聞かせてもらった」


「2人からも?」


「どうやら命の恩人らしいね、君は」


「命の恩人だなんてとんでもない……迷惑かけてばっかりでした」


 あまり良い思い出はない。情けない姿ばかり見せてきたと思っていたからだ。

 しかし2人からすればまったく違う。そのことをカガヤは理解できていない。


「どうであれだよ、君は僕の友達を救ってくれた訳だ……そのお礼に、一つくらい君の願いを聞いてやってもいいと思ってる」


 上から目線な言い方をしてしまったな……と、ユウレンは思った。しかしカガヤはそんなことを気にしない。言い方なんてどうでもよかった。

 そんなことよりも、大事なことがある。

 バリケードタウンに来た目的を、果たせる状況が来たのだ。


「では遠慮なく……あの」


「いや、ちょっと待った!」


 手を突き出し、ユウレンは悩ましげな顔でカガヤの台詞を制する。


「すまないけど、心の準備をさせてくれ」


「え?」


「彼女の遺言……正直なところ、あんまり聞きたくないんだ」


 申し訳なさそうな顔をして、ユウレンはそんなことを言う。そんな彼のことを、カガヤは責めたり、問い詰めたりもしない。


 ふふっと笑う。

 彼の気持ちは、何となくわかるからだ。遺言を聞くのには、思ったよりも覚悟がいる。


「大丈夫です、遺言の件じゃないですから」


 それに今のカガヤの願いは異なっている。

 2人との交流を経て、彼の目的はずいぶんと変わってしまった。


「あえ……? えっとそれは一体、どういうことなんだい?」


「言葉通りです、聞いてほしいのは遺言の件じゃないんです」


「君はボルケーノウィッチの……ミレアの遺言を、わざわざ僕に届けに来たんじゃないのか?」


「そうですけど、今は違います」


「遺言の件じゃないっていうなら、じゃあなんだって言うんだい?」


「これからずっと、ヨーゴさんとホノンさん……だけじゃなくって、バリケードタウンの皆さんを守ってあげてください」


 にっこりと笑ってはいるが、その目は真剣そのもの。冗談で言っていないことはユウレンにもすぐにわかった。


「……一応聞かせてもらうが、本気で言っているのかい? 遺言はどうするつもりなんだ?」


「遺言に関しては、ユウレンさんが聞きたいってタイミングで大丈夫です。待ちますから」


 一言一句全てがマジ。本気でそう言っている。

 そんなカガヤに、さすがのユウレンも驚きを隠せない。


「君はミレアの遺言を伝えに来たんだろう? わざわざこのバリケードタウンに来るほど師匠思いな君がどうして……どうしてだい?」


「どうしてでしょうね? 気が変わったから……としか言いようがありません」


 自分自身でもわからない心の動きのため、カガヤはどこか他人事のようであった。


「とにかくボクが言いたかったのは、ヨーゴさん達のことをずっと守ってほしいって……それだけです」


「それで……いいのかい?」


「いいですよ、遺言に関しましては聞きたいなって時でいいですから……だからきっと師匠も許してくれます」


 そう言った後は何も言わず、カガヤは横になってスヤスヤと眠り始めてしまった。

 残されたユウレンは呆然としてしまい、5分後にオウイチロウが呼びに来るまで動けなかった。


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