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バリケードタウンの遥か上空、成層圏にチルクス遊星人の宇宙船が待機していた。そこから戦況を見ていたのだ。
「バカな……我らのグルバラムが……!?」
「こうもあっさり殺されるなど、上になんと報告すればいいのだ!!」
「性能を充分発揮できなかったとは……!!」
「今は撤退しかあるまい、ジオレクスにはまた挑めばいいだけのこと」
「おい、あれはなんだ……?」
無数にいるチルクス遊星人のうちの一人がふと外を見る。
そこには高速で回転する巨大な甲羅があった。
「なんだあれは」
「地球の亀……という生物にみえるが、空にいるはずはない……」
「じゃあなんだと……
――ビュウン!!
ドガアアアアアアアアアアアアアアアン!!
チルクスの宇宙船は、空飛ぶ甲羅の激突によって粉々に砕け散った。対して甲羅は無傷で飛び去っていく……だがそんなこと、生死の境にいるヨーゴらには知る由もなかった。
ジオレクスが放つ灼熱の嵐は、一向に止まる気配がない。
周辺の雑魚を一掃するまで、止まらないのがこの技だ。
「くぅ……ぐふっ……!!」
カガヤが張ったドーム状の防御結界も限界が近かった……そもそも彼のコンディションは最悪。
ここに来るまででも、かなり体力を消耗している。結界を張れたのも奇跡に等しい状態である。
そんな状態で結界を張り、維持できているのは、彼の根性によるものという他ない。
「うっ……おええええええ!?」
魔力欠乏による嘔吐。だが彼の胃のなかには何も入っていない。吐いたのは無色透明な胃酸だ。吐けば吐くほど重なってくる嘔気で、コンディションはますます悪くなっていく。今にも倒れそうなほどだ。
しかし、それほどの状態でも、カガヤは防御結界を張り続ける。このドーム状のバリアを維持し続けなければ、皆死ぬ。
だから限界は近いが……超えてみせる。
超えねば仲間を守ることができない……失うのはもう嫌なのだ。
師匠の死だけで、大切な人と別れる辛さは充分に理解した。
――これ以上、死に別れするのはゴメンだ!!
「づああああああああああああああああ!!」
迎えた限界。体内に貯蔵していた魔力はスッカラカン。乗り越えるには、生命力を片端から魔力に変えていくしかない。
寿命はそのぶん縮まるが、今のカガヤに迷いはなかった。何よりも今が重要なのだ。
次こそは上手くやってみせると、2人への謝罪の前に意思表明までしたのだ。今やらないでどーするのか。男を見せるとき。
「カ……ガヤ……!」
「2人とも大丈夫!! ボクが助ける!!」
ドーム状の結界が、ガラスのようにひび割れていく。やはり気合だけではどうにもならない。
このままではあと数秒で砕けるだろう。
だが維持するつもりなのがカガヤだ。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
1秒がやたらと引き伸ばされている感覚。
思わず叫んでしまう。叫ばなければ意識がトぶと本能が知らせていた。
カガヤの足掻きとは対照的に、ドーム状バリアのヒビは大きくなっていく。
完全に砕け散るのも時間の問題……。
その時だった。突如として熱波が止んだのは。
「ZIOOOOOOOOOOOOOOOOOOOS!!」
熱波を止めたジオレクスは、空を睨みつけながら、凄まじい雄叫びを上げた。
その轟音はバリケードタウン中にこだまする。 勝利の雄たけび……というには強い敵意が感じられた。まるで空に敵がいるかのような。
「ZIOOOOOO……」
ジオレクスは唸り声を上げながら、東へ向かって早足で歩き出す。
もはや完全な廃墟と化したバリケードタウンの街並みにトドメを刺しながら、ジオレクスは街を出て行った。
「いなくなって……くれた……?」
ジオレクスがいなくなったのを確認したカガヤは防御結界を解いた。
脅威が突然去っていったことは不思議であるが、ひとまず安心していいとカガヤは思った。
「やった……おぇ……げえ……おええええええええええええ!!」
ビチャビチャビチャと胃酸を口からぶち撒けながら、カガヤは膝をついた。もう立てる気すらしないほどに疲れていた。
限界を超えてさらに無理をした代償である。
だが彼にはまだやることがある。もう少しだけ無理をせねばならない。
「治療を……治さないと……」
治癒魔法はある程度は使える。それでヨーゴとホノンを治すつもりなのだ。
しかしカガヤも限界。手足が痙攣し続けて、動くことができない。呼吸するのもやっとな具合だ。とても他人を心配できるような状態ではない。
さてどうしようか……そう考え始めた矢先。
「……君達、よく生きていたね」
見知らぬ痩せぎすの男が、ダルそうな立ち姿でカガヤの目の前に立っていた。
白い肌に、天然パーマな金髪に碧眼という美形の優男だ。タンクトップの上に革のジャケットを着込み、下はダメージジーンズというラフな服装であった。
おおよそこの場には似つかわしくない格好と態度をしているその男は、気だるげな声色でカガヤに話しかける。
「仕方ないから助けるよ、君もヨーゴ君もホノンちゃんも」
「あなたは……誰……なんですか……?」
「ユウレン・シェーンだ……ピースガイと呼ばれてた役立たずのクズさ」
名乗りを聞いて、あぁ念願の人に会えた……そう思うと、カガヤは意識を失って地面に倒れ込む。助かったと安心して気が緩んだのだ。
カガヤが倒れたその頃。
ジオレクスがバリケードタウンから去っていくのを、オウイチロウ達は遠くから眺めていた。
自分たちが住んでいた街が、とうとう怪獣に蹂躙されてしまった悲しみに、皆が包まれている。
バリケードタウンを捨てて、新天地を求めて移動するにも、バリケードタウンに戻り復興しようにも、未来はあまりにも不透明……どうしようもなく暗い雰囲気になってしまう。士気はドン底といったところだ。
「オウイチロウさん……」
サダヒメが不安そうに名を呼ぶ。何か言ってくれるのを求めているのだ。
それはサダヒメだけではない。住民達もそうだった。
なんでもいい。不安を払拭する言葉が欲しかった。トップからそれが聞ければ安心できる。
「皆の衆……」
求められている……そう感じたオウイチロウは呟いた。
こういう時、何か気の利いたセリフを吐いて皆を元気づけるのが、集団のトップだとオウイチロウは思っている。
しかしできない、何も言えない。
彼自身、自分は凡人でトップの器ではないと思い込んでいるからだ。何よりオウイチロウも、皆と同じように希望が見えずにいる。
あまりにもやられすぎた。人命こそが未来であると思ってはいるが、結局は不安で仕方がなく、自分の心を整理するので精一杯なのだ。
結局、沈黙。風の音だけが鳴る。こうも希望に満ちず、虚しいだけの朝日があるとは、オウイチロウは思いもしなかった。
そんな時だった。
バリケードタウンの方向から、複数人の声が聞こえてくる。
「みんなぁぁぁ!!」
「いた!! いたぞぉぉぉ!?」
「やった! 助かったんだ!!」
ヨーゴとホノンが文字通り命懸けで逃がした住民達だった。
「生き残ってくれたのか……!!」
彼らの声を聞いたオウイチロウは……先に逃げ延びた住民達は笑みを浮かべた。
「うおおおおおおおおおおおお!?」
「生きてたのか!!」
「やった!! 相棒が生きてたのか!!」
「俺の娘もだ!! 娘もいる!!」
そして歓喜する。不安を忘れて再会を喜んだ。友人同士。親と子。それぞれ喜びあう。
未来への希望は今のところあまりない。しかし今だけは喜んでもいいだろうと、オウイチロウは心のなかで、いるかもしれない神に呟いた。
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