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ジオレクス。
世界を荒廃させた怪獣の名前。
不死身とも噂される怪獣の皇帝が、このバリケードタウンに向かってきている。
その報告を聞いた瞬間から、サダヒメは今日が死ぬ日だと悟った……と、同時に恐怖した。
何かの間違いじゃないかと、彼女は観測をした男のところに急ぎで向かったが、その男はすでにナイフで首を切って自殺していた。
とても安らかな死に顔をしていたため、サダヒメもジオレクスに殺される前に死んでしまおうか迷ったが、死ぬ前に仲間達に伝えなければという使命感が彼女の自殺を食い止めた。
そして、今に至る。
「ジオレクス相手では、シェルターも役に立たんだろう……ヤツは獲物を見つけるのが上手いからな」
「……どうしますか?」
サダヒメの震えきった声での質問に、オウイチロウは口元に手を当てて黙ってしまう。
いくら考えようと、どうすることもできない。
バリケードタウンは今日で壊滅する。
命運は尽きたも同然。
何となくそう思っているが、オウイチロウはまだ足掻きたかった。
人さえ生き延びれば、街は復活できるかもしれない。
人命は未来そのもの……何としてでも守らねばならない。
「とりあえず、バリケードタウンは放棄するしかあるまい……今すぐ住民全員を北門に集合させろ、街を捨てての大移動を決行する」
そこらの怪獣に襲われるというリスクは付きまとうが、ジオレクスが来る場所に留まるよりかはずっといい。オウイチロウはそう考えたのだ。
「ピースガイとジンハはどうするんですか?」
「奴らは殺しても死なない……連れてもいけんし、心苦しいが放って置く」
ヨーゴの問いに、オウイチロウがそう言い放った瞬間。
――OOOOOOOOOOOOOOOOS!!!!
地球人ならば一度は聞いたことのある、破壊的終末をもたらす鳴動。絶対に忘れることのできない災禍と悲劇の象徴。
大怪獣ジオレクスの鳴き声が、街全体に響き渡った。
「ウソ……想定よりもずっと速い!?」
――AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAM!!
サダヒメが驚いたのとほぼ同時に、グルバラムの鳴き声も聞こえてきた。
いる場所は西と東で正反対。聞こえてくる音量からして、両者ともバリケードタウンからそう遠くはない場所にいるのがわかる。
つまり、住民達全員がバリケードタウンを脱出する時間はないということ。
その事実を悟ったオウイチロウは悲痛な表情を浮かべながら空を仰いだ。
「クソ……まいったな」
街のトップゆえに他の面々に注目されながらも、つい弱音が出てしまう。
しかし思考は止めない。完全に諦めるつもりは彼にはない。
「……こうなったら、無理やり街から脱出するしかないな」
かなり無理のあるプランだが、4人から反対意見はでなかった。オウイチロウよりも、良い案が思い浮かばないからだ。
街のシェルターに隠れていても、ジオレクスに探し当てられ殺される。
街のなかで逃げ回っても、怪獣同士のぶつかり合いに巻き込まれて死んでしまう。よしんば生き延びてもジオレクスに殺される。
街から逃げても、そこらにたむろしている怪獣に殺される……かもしれない。
そう。かもしれない、だ。必ず死ぬという訳じゃない。生き残る可能性はある。
か細い希望だが賭けるしかない。
「サダヒメ、北門に至急集合と放送しに行ってくれるか? 終わったら北門に来い」
「……わかりました」
生存を半分諦めたような表情でサダヒメは了承し、機器がある場所へと向かった。
何も頼まれなかったら、きっと絶望でへたり込んでいただろう。オウイチロウは彼女に命令を与えて身体を動かさせることで、絶望の思考回路を薄めたのだ。
「ホノンは街に逃げ遅れがいないかチェックしてくれ……言うまでもないことだがお前も、逃げ遅れないよう気をつけろ」
頼まれた事柄に、ホノンは露骨に嫌そうな顔をする。
「すげぇ嫌っすけど、誰かがやらなきゃですもんね……了解です」
そう言ってため息をつきつつ、彼女は動き出した。まずは老人や、身体が不自由な者のところに行く。逃げ遅れそうな者をまず最初に動かしておくのだ。
ホノンも結局、街を愛しているのだ。
「ヨーゴは逃げる住民達の援護をしろ、いざとなったらすぐ鬼装しろ……くれぐれも無茶はせず、限界と思ったら俺達と合流しろ」
「了解」
するとヨーゴは、ずっと背負っていたカガヤを、地面にゆっくりと下ろして座らせる。
そしてヨーゴはホノンと同じく、老人や身体が不自由な者のところへと急ぎ走る。
彼はオウイチロウに、全幅の信頼を置いている。指示に従うことに迷いはない。
「カガヤ、お前は俺と北門にいくぞ」
「うっぷ……わかりました」
オウイチロウは座っているカガヤに手を差し伸べ、カガヤはその手を補助にして立ち上がる。
まだ気分は悪いがさっきよりは大分マシになったらしく、吐き気はあれど顔色は人間らしい色に戻りつつあった。さすがに本調子には程遠いが。
カガヤは自分の足で歩こうとするも、どうにもふらついてしまう。
「無理するな」
そんな様子を見ていられず、オウイチロウは彼に肩を貸した。
「……すいません」
「礼を言うのはこっちだ」
歩き出しながら、オウイチロウは薄く笑って話し出す。
「お前がヨーゴとホノンを連れてきてくれなかったら、住民の避難はさらに遅れただろうからな」
「やれることをやっただけです……」
さらにカガヤは「まだ足りていない」と両の拳を握りしめながら呟いた。
あの程度ではまだ、役に立った実感を得られていない。自分の行いにちっとも納得できない、きっとまだやれることがあるはずだ……と、心を力ませながら次を考えているのだ。
「よくわからんが、無茶はするなよ」
当然だがここ数日の出来事を、オウイチロウは全く知らない。3人に何があったのか知る由もない。
だから下手なことを言う訳にはいかないし、適当に励ますのも違う。
「お前にはお前の、絶対に生きなきゃいけない理由があるんだからな」
だからオウイチロウは、カガヤが目先のやるべきことに心血を注ぎ過ぎないように、忠告するだけに留めた。
「……そうでした」
オウイチロウの言葉を受けて、カガヤの心の力みがほぐれる。
ヨーゴとホノンにかけた迷惑は払拭しなければならない……そうしないと納得できない。心にしこりを残してしまうことになるからだ。
だがそれと同じくらいに重要な用事がある。
一番初めの目的。バリケードタウンに来た理由。それを思い出した。
師匠であるボルケーノウィッチの遺言をピースガイであるユウレン・シェーンに届けること。
これが原点なのだ。
初志貫徹。そうできないまま迷惑料を支払っても、真の納得はできないだろう。
「……ところでだがカガヤ、お前はいつ本調子に戻るんだ?」
便利な魔法を扱うカガヤだからこそ、やってもらいたいことが山ほどある。オウイチロウ的にも、さっさと回復してもらわねば困るのだ。
「そうですね……1時間ほどゆっくり寝かせてくれれば自分で歩けるくらいにはなれると思いますが……そんな待ってもらえないですよね……」
「悪いが無理をしてもらうことになるな」
魔術を扱えるとはいえ、カガヤは人間。鬼装を扱うヨーゴのように、特別な訓練を受けている訳ではない。
体力は常人と同レベル。その限界も然り。
「無理するため……転移術を使ったんです……やれるだけやります」
常人と全く違うのは、その精神。
いくら折れても挫けても、必ずすぐに立ち直る。それでも次こそは……と、起き上がり粘り続ける面倒臭さは、師匠であるボルケーノウィッチからのお墨付きなのだ。
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