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チルクス遊星人がグルバラムと呼ぶ怪獣の情報をもっと探らねばならない……それに加えて、この旅の主目的も解明せねばならない。
ビビり散らかしているカガヤは無視して、ホノンはチルクス遊星人と話を続ける。
「チルクス遊星人さん……話が変わるかもしれないんですが、最近この辺りで怪獣が不自然に死んでたり移動したりしてませんでしたか?」
「グルバラムの強化戦闘実験をしたからな、何匹か取り逃がしたが……ヤツらの血肉は良い強化になった」
西から不自然に怪獣が来る理由は、今のチルクス遊星人の発言でほぼ解明された。
それだけでこの会話をした甲斐がある。
「んじゃあこれからどうするおつもりで?」
「決まっている、ジオレクスがいるらしい東へとグルバラムと共に進軍す――ドゴォ!!
「ハッハァ!!!」
言い切る前に全速力で走ってきたヨーゴが、見事な両足飛び蹴りをチルクスにお見舞いした。
カガヤは驚き、ホノンは絶句した。
「あ?」
助走を十分に付けての渾身の飛び蹴りだったが、チルクス遊星人は微動だにしない。文字通り一歩も動かなかった。
「どういうトリックだ?」
着地したヨーゴは訝しんだ。
「また貴様か……もういい黙れ、私も調子に乗って喋りすぎたな」
ため息をついて、呆れたような態度をとりつつ、チルクス遊星人は真上に右腕を挙げた。
「貴様らに付き合うのはやめだ……実験も充分にやったことだし、我々は東へ向かう」
そう宣言すると、100メートル上空に巨大な円盤が何もないところから突然出現した。
出入り口がまったく見当たらないし、どうやって浮いているかもわからない。光沢のない不思議な銀一色で、それはまさしくUFOといった見た目であった。
「そういえば途中に貴様ら地球人の小さな街があったな……途中で立ち寄らせてもらうが、構わないよな?」
「……何の用があるんです?」
「なに、大したことはない……地球人を何十匹か、グルバラムの餌にするだけだ。どうにも強化し過ぎて燃費が悪いんだ」
「そんなの許すわけ……!?」
「貴様らの意見は求めない」
ホノンの拒否を最後まで聞くことなく、チルクス遊星人は浮いて……円盤に吸い込まれていく。
地球人である3人にはどのような原理だか一切がわからない。攻撃しても問題ないのかすらもわからないため、迂闊なことはできなかった。
「最後に一つ言っておいてやる……私達がいる限りグルバラムは死なない」
それだけ言って、チルクス遊星人は銀色の円盤に溶け込むように消えた。
今の奇妙な現象を、円盤に乗り込んだと解釈した3人は、これから攻撃が来るのではと警戒した。上空からの攻撃では対処のしようもない……が、逃げるくらいはできるはず。だから警戒するのだ。
ただその警戒は、幸運にも無駄に終わった。
円盤は高度を徐々に上げて、地上200メートルで急停止……したかと思えば、突如として東へと高速でスライドするように移動していった。
ロケットランチャーで攻撃する暇もなかった。
「VARAAAAAAMU……」
怪獣……グルバラムはチルクス遊星人のUFOに追従して、早足で歩いて後を追っていく。
UFOもグルバラムも、3人が全力で走っても、絶対に追いつけない移動速度だ……追いつけたとしても、たぶん食い止められないだろうが。
そしてあの速度なら、明朝には街に着いてしまうだろう。
つまりバリケードタウンの住民が、犠牲となることが確定したようなもの。
「クソッ……!!」
ホノンは頭を抱えてしゃがみ込む。
相手の目的からして、交渉の余地は少しもなかった……つまりどうしようもなかったのだが、なんとかできたんじゃあないかという後悔をしてしまう。
「ホノンさん……」
そんなホノンを見たカガヤは、何か言葉をかけようとするが、何と言ったら良いのかわからず、結局黙ってしまった。
「まだだ」
何を言うべきか迷っているカガヤを差し置いて、ヨーゴが口を開く。
「ホノン、この旅に出る前にオウイチロウさんと話していたんだよな? だから遅刻したと言ったよな?」
他人のミスをしばらくネタにするヨーゴのねちっこさ。ホノンはよく犠牲となっている。
「あの人のことだ、こういう時のためのプランを用意しているはずだ……ホノン、それを伝えられたんじゃないのか?」
人間は絶望していると、ソレに頭が支配され、大事なことを忘れてしまう。彼の性悪さに感謝する日が来るとは思わなかった。
「カガヤさん、モールス通信機を出してください……街に知らせます」
「……何を」
「いいから出してください」
「……わかりました」
ホノンの静かな迫力に気圧されるカガヤ。
指示通り、魔法陣を出現させてその中からモールス通信機を引っ張り出す。
「どうぞ……」
「ありがとうございます、助かります」
受け取ってからのホノンの手つきは素早かった。すぐさま設定し、盤を何度か叩いた。
1分ほどでOKと返信されると、ホノンはホッと安堵する。
「これで大丈夫です」
「……何が大丈夫なんですか?」
「オウイチロウさんに言われたんです、街に何かが起こりそうな時は『TD』って打てと」
「……TD?」
その意味がわからないカガヤは、オウムのようにただ復唱した。
「TOWN DANGERの略らしいです……住民の緊急避難をさせるサインですって」
「……なるほど」
何もしないよりはマシ……その程度しかできない自分たちに、ホノンは強烈な悔しさを覚えた。
「……ウチらにできることは、たぶんこれが精一杯です」
彼女の絞り出すような声を聞くヨーゴも、悔しさから静かに拳を握りしめた。
彼らの街、バリケードタウン。世界が荒廃してからずっと過ごしてきた憩いの場。
一緒に住む仲間達と協力して日々を生き抜いたことは忘れようがない。辛く苦しい時は多々あったが、仲間達がいたから乗り越えられた。
仲間は戦友。
街は故郷。
どちらも失いたくない……そんな気持ちに、2人は飲み込まれていた。
ただ1人を除いて。
「……転移術を使います」
唯一の部外者、奇妙なことにカガヤだけが望みを捨てていない。
「転移術……?」
「なんだソレは、テレポートでもできるって言うのか?」
「刻印を付けた場所限定のテレポートです……万が一を思って、ボクが寝てたビルに刻印しておきました」
まだ戦える。街を救えるかもしれない。
その希望を提示されたことで、ヨーゴとホノンの身体は熱くなる。
「……本当なんだろうな、今の話」
「疑うんなら、今すぐやってみせます……2人とも、ボクの肩に触れていてください」
ここ数日、役に立たなかったという自覚がカガヤの心に刻まれている。
今こそ、何度も迷惑かけた負い目を、払拭する絶好の機会と彼は捉えた。
「そうだ……今更ですけど言わせてください」
様々な手印を連続して結びながら、カガヤは言う。
「迷惑かけて、すいませんでした」
心からの謝罪。
ヨーゴに怒られてからしばらく考えて……つい先刻、言っていなかったと気付いた。
その場で謝罪できなかったこと、偉大なヒーローの弟子として情けないことこの上ない……カガヤは自分を戒め、反省する。
「……よく言った、わかってくれたんだな」
「ウチは気にしてませんよ」
ヨーゴとホノンの言葉は優しかった。
それがカガヤを奮い立たせる。
2人の戦友のため、とにかく役に立つ。ヒーローの弟子として、名誉挽回する。よくやったと皆から褒められたい……今の彼の思いの根幹はそんなものだ。
低俗な思いであろうが、それが多くの人の命を救うのならば、否定する者はいないだろう。
「『求めるは空』『気まぐれな波に身を任せ』『青きモノへと生まれ変わろう』……」
手印と呪文。その両方が合わさることで、この魔術は発動する。
「いきます……『蒼天回天』!!」
カガヤが叫んだその瞬間――3人の姿は忽然として消えてしまった。
最初からそこにいなかったかのように、陰も形もなく消えた。
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