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01

 第三次世界大戦の末、世界が核の炎に包まれて3年。

 世紀末世界……人間の生活水準は原始時代レベルにまで堕ちていた。

 かつて高層ビルが建ち並んでいた土地は、瓦礫の山ばかりの廃墟と化しており、かつての栄華は見る影もない。

 そんな灰色の場所でも、土と砂しかない荒野よりかはマシ。なので大勢の人々が虫のように住み着いている。


「そっち持て……もっと力入れろよ」

「わーってるっつうの」

「オウイチロウさんが明日の昼頃には終わらせろとさ」

「まぁもう三日も作業してたら言われて当然か」


 街は薄いコンクリートの壁に囲われている。出入り口は東西南北に一箇所づつだけ。

 誰が最初に名付けたか定かでないが、いつの間にかバリケードタウンと呼称されていたこの街にて……夕刻。曇り空の下、ボロキレのような服を着た数人の男達が、積み重なった瓦礫の撤去作業をしていた。

 それらに埋もれてしまっていた地下シェルターを、再び使えるようにするためだ。


 この地球には今、無数の怪獣や怪人が我が物顔で跋扈している。人類はすでに地球の支配者ではなく、それどころか絶滅危惧種にまで追いやられているのだ。

 今の人類には、巨大な怪獣や超常の力を持つ怪人と戦う力はない。

 だから旧時代の遺物となった地下シェルターを一生懸命に掘り出しているのである。


「おーい……みんなー」


 灰色の街中から男達を呼ぶのは、ヤマアラシの棘のように逆立った黒髪と、吊り上がった眼が特徴的な強面で……低身長だが服の上からでもわかるほど筋骨隆々な身体をしている青年だ。

 そんなこの青年は、詰襟の黒い学生服を上下共に着崩さず、キッチリと着用。それに黒の革靴という出で立ちであった。


「作業の調子はどうだ?」


「ボチボチだ、ヨーゴ」


 撤去作業を取り仕切っていた男がヨーゴと呼んだ青年は、少し気まずそうに言葉を続ける。


「明日にはそのシェルターの具合を見たいと、オウイチロウさんが言ってるんだが……間に合いそうか?」


「心配ご無用だ、問題なく明日の昼前には終わるよ……オウイチロウさんに伝えといてくれ」


「わかった……じゃあ頑張って続けてくれ」


 ヨーゴの励ましに、男は「なんだよ手伝ってかねぇのかい?」とニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら言う。

 それに「悪いな」と返し、ヨーゴは「これからすぐ監視塔に行かなきゃなんねぇんだ」と続けた。


「スマン、本当はオレも手伝いたいところなんだけどな……」


「冗談だ、街の警備隊隊長サマの手を借りる気はねぇよ……ホラさっさと行け、どーせ無駄話してる暇はないんだろ」


 手でシッシと払いのけるようなジェスチャーをされたヨーゴは微笑みながら、ある要件のために「おう」と言い残してこの場から立ち去る。

 そして向かったのが、街の中心部にある街で一番高い場所……まだ崩れていない七階建て廃墟マンションの屋上だった。

 金網の柵で囲まれた狭い屋上は、街中だけでなく街の外まで(破壊されきった廃墟のために死角となる所はとても多いものの)把握できる場所だ。


 だからこそ、倒壊を免れたこの中層マンションは、バリケードタウンでは物見櫓または監視塔と呼称されている。


 そんな場所に、人ひとり入るのが限界な、犬小屋のようにボロく小さなテントがあった。


「ホノン出てこい! サボるんじゃあない!」


 ヨーゴの罵声に、テントは生き物のようにモゾモゾとうごめく。

 数秒後そのテントから、赤茶けた髪を短く切り揃えた、鼻上のそばかすが特徴の、地味な眼鏡女子がダルそうに這い出てきた。


「……叫んで呼ぶのやめてもらえます〜? 耳が痛くなっちゃうっすよぉ」


「嫌なら仕事をサボるんじゃあない、責任を持て馬鹿が」


「いやいや業務過多なんですよ〜……」


 白いシャツにデニムのオーバーオールに、ネックレスのように首に双眼鏡をぶら下げ、それに黒い長靴という出で立ちの少女は、眠たげな目を擦りながらヨーゴに文句を言う。


「あたしばっ〜か見張り番やってる気がします」


「んなことはない、ちゃんとシフト組んで公平に交代してるわ」


「本当ですか〜?」


「とにかく、今夜も集中して見張れ」とヨーゴは少女……ホノンに釘を差した。


 いつどこから脅威が湧いてでてくるか予測不能なこのご時世。

 街の外にはヒャッハーな暴徒だけでなく、ヒトを喰う異形の怪物もウジャウジャいるわけだ。

 そのような危険は、いち早く察知しなければ街に余計な被害が及んでしまう……ゆえに見張り番の仕事は責任重大で、バリケードタウンの治安維持と防衛に必要不可欠なのだ。


「わかってますよ~」


 やる気なさげにホノンは答える。怠惰が滲み出ている反応によって、ヨーゴはほんのり頭痛を感じる。

 この仕事の重要性を理解しているのかキツく詰め寄りたくなるが……マイペースを崩さないホノンには暖簾に腕押し。

 とりあえず、いつものように責務は全うするだろうと信じておくことにした。

 彼女は時々サボりはするが、この仕事に一番必要な報連相はキチンとこなすのだ。


「一応聞きますけど、明日と明後日は自由なんすよね〜?」


「いつもそうだろう、わざわざ確認するな」


「ここでちゃんと確認しとかないと、呼び出し喰らった時に文句がつけられないじゃないですか〜」


 与えられた仕事はこなすし、ミスはない。

 だからこそこの鬱陶しい性格と、少しのサボり癖が惜しいのである。


「あぁそうかい……オレは街のパトロールにいくから、何かあったら無線で頼むぞ」


 ヨーゴが腰に巻いているベルトに装着したトランシーバーを見せつけると、ホノンはゆっくり頷き了解した。


「んじゃ、交代時間になったらまた来る」


「ん〜? 今夜はヨーゴさんも一緒にオールナイトなんですか?」


「あのな……ちゃんとシフト見ろ、そんでその日のペアになるヤツくらい覚えておけ」


 一人で一晩見張りは集中力が途切れてしまい、重大なコトが起きても、すぐに対処できない恐れがある。だからペアとなり時間を区切って、交代して勤務するのだ。


「気張ってやれよな」


 その言葉と同時に、ホノンは首にぶら下げていた双眼鏡を手に取り、覗き込んで遠くを見始めた。


「誤認と不注意に気を付けて、こ〜うやって危険を見逃さなきゃいいだけでしょう」


「ずいぶん簡単に言うな……」


 誰にでも起こりうるヒューマンエラーを他人事のように語るホノン。それだけ彼女は自分に自信が持てているのである。

 夜間の見張り業務を、ごく普通に緊張しながら務めているヨーゴは、ほんの少し羨ましく思った。


「まぁいい、頼むぞ」


「頼まれました〜」


 双眼鏡で遠くを眺めながら、ホノンは間延びした声で了解する。それにヨーゴは小さくため息をついた。


「さて」


 用件が済んだヨーゴが屋上から階段へ通じる扉を開け、下に降りようとした途端……ホノンが大きな声を上げた。


「ヨーゴさぁん!!」


「いきなりなんだ!?」


「街に近づいてくるヤツ発見しましたぁ! 南から男が一人!」


「わかった!」


 バァンと乱暴に扉を開けて、急ぎ階段を駆け下りていく。

 移動しながら、ヨーゴは腰に装着していたトランシーバーを手に取り無線通信を起動、それに大声を浴びせかける。


「こちらヨーゴ、警備隊各員に告げる! 男が一人南から来ている……武器を持ち南ゲートに集合せよ!」


 たった一人だろうと……いや、何であろうと油断せず、どんな存在なのか判明するまでは絶対に街には入れない。

 それが、警備責任者の義務。

 全てはバリケードタウンの治安維持のため。

 そのためならば、彼は自らの命を投げ出す覚悟をしているのだ。


 もはや落下といっていいほどの速度で階段を駆け下り、一階に着いたヨーゴは、外へと通じる扉をまたも乱暴に開けて飛び出す。

 そして全力疾走の短距離走者にも引けを取らないスピードで街を疾走する。

 

 結果、約100メートルの距離を11秒弱で走破。 誰よりも速く現場である南ゲートに到着した。

 ゲートとは言っても簡易的なもので、出入り口にガス欠のバス(前面に鎖が付いている)を停車させ、門の代わりにしているだけである。


「ヨーゴさーん」


 深緑色の軍服を着た5人の屈強そうな男達が少し遅れて、彼の名前を呼びながら元へとやって来た。無線連絡を聞いて駆けつけてきたのだ。

 全員、警備隊の隊員であり日頃から厳しい訓練に励んでいる精鋭である。


「さすが速いな、協力に感謝する」


「ヨーゴさんの命令ですから!」

「みんな、気合入ってますよ」

「やってやりましょう!」


 この5人は全員、ヨーゴよりも年上……しかし皆、畏まった敬語で話す。なぜならばヨーゴという男が一番強いからだ。そしてそれに不満を持つ者はいない。

 年功ではなく現状の能力の高さで序列が決まる。良くも悪くも、それがこの街なのである。


「ヨシダさんとミツイさんで門を、それ以外は戦闘態勢で待機……オレのいつもの合図で容赦なくいけ」


 静かな「了解」という声と同時にヨーゴを含め6人は動き出す。

 ヨシダとミツイと呼ばれた2人が即座に移動し、門代わりのバスに繋がれた鎖を綱引きの要領で力一杯引く。

 常人ではびくともしないであろうが2人は日々の鍛錬で常人を超えている。タイヤと、引いて動かすための鎖さえちゃんと付いていれば、動かすのは訳ないこと。


 2人を動力源としたバスがゆっくりと動き、バリケードタウンの外……南の景色を広げていく。

 その間にヨーゴ以外の3人は、腰に装備していた警棒を持って構える。

 ヨーゴだけはハンドポケット。この姿勢が、来訪者を出迎えるいつもの構えなのだ。


 バスが動いて7秒経ち……完全に門が開く。


「……どぉも」


 そこにいたのは、藍色の天然パーマな髪が特徴の、中性的な容姿をした美青年だった。


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