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一頭身幽霊の巨大化は約50メートルで止まった。平均的な怪獣のサイズである。
3人との距離は約500メートル。
危険を避けようとする本能のままに身体を動かしたおかげか、3人の想像以上に素早く遠くに逃げられた。
「UUUUUUUUUURAAAAAAAAAAM!!」
吠える幽霊怪獣は巨大化している最中もずっと3人を見ていた。今も吠えながら凝視している。
殺しのターゲットだと言わんばかりの視線に、3人はさらに距離をとるべく走る。
「ウチらこのまま逃げ切れますかね!?」
「どう思う、カガヤ」
「幽霊とは戦ったことないんでわかりません!」
サッドンの時に使った身を隠す魔術があるが、今はリスクが大きすぎて使えない。術の発動前に追いつかれてしまうからだ。
それにあの術は生物からの認識を遮断する結界。幽霊に通じる保証はないのだ。
つまりスルーは困難。
「UUUUUUUUUURAAAAAAAAAAAAAAAM!!」
巨大一頭身怨霊は遅いながらも追いかけてくる。スタミナの概念があるのかも不明な相手だ。
このまま走って逃げ切れる保証はない。
やむを得ない、抜き差しならない状況。
どうするかなど考えるまでもなく選択肢は一つだけだ。
「……戦うしかあるまいて」
「そうですね……!」
「ひぇ~……」
いくら怯えようと、そうするしか生き残るすべはないことを、よく分かっているから反論はしない。
ヨーゴとカガヤは同時に振り向く。ホノンもそれに続いた。
「適当に武器を出します」
カガヤがかがんで地面に手をつく。すると地面に幾何学模様の記された魔法陣が展開された。
「好きに持っていって使ってください」
そう言うと、拳銃が4丁に対戦車ライフル。RPG-7ロケットランチャーが1個に、それらの弾薬が詰まった箱が複数……他に弓矢やスリングショットまで様々なモノが、魔法陣からプカプカと浮かんできた。
「とりあえず一発ロケランで撃ってみよう」
そう言うと、ヨーゴは首にかけている鉄の数珠の、後ろにある連結部を解き、外して上へと高く放り投げる。
そして
「鬼装天骸!!」
猛々しい叫びと同時に、空中を舞っていた数珠ネックレスが花火のようにカラフルに光って弾け、粒子化したソレがヨーゴに降りかかった。
そしてヨーゴの身体は一瞬にして、赤い鬼の鎧武者へと変貌を遂げる。
頭部には赤い兜。顔には赤鬼を模した面頬。
赤い甲冑を身体に纏い、肌は一切見えない。腰には大小の刀を備え、まさに絵巻物語の鎧武者といった姿となった。
この鬼の鎧武者姿に変化するまでの時間はわずか1ミリ秒。
ヨーゴがこのような姿になれた理由――もう一度、鬼装のプロセスを解説する。
ヨーゴの放った「鬼装天骸」」という言葉は鬼装開始のコマンドワード。
高らかに叫んだことで数珠ネックレスを構成するアダヴィニウム複合ナノメタルが起動し、瞬時に粒子化し振り注いだのである。
それらのナノメタルは瞬時に鎧武者甲冑スーツとして増殖・投射・整形され、鬼装を完了させたのだ。
その姿の名こそが天骸霊装『鬼牙』。
魔術と科学を組み合わせて作られた対怪獣用戦闘スーツなのだ。
変身後、ヨーゴは先の言葉に「攻撃が通じるのか試してみねば」と付け足しながら、足元にあるRPG-7ロケットランチャーを拾い、肩に担いだ。
「離れろ」
ヨーゴの言葉を聞いた2人は即座に従い、彼から少し距離をとる。万が一のためだ。
「よし、発射」
カチッ――ドシュウウウウウン!!!
引き金を引いた瞬間、爆音と共にロケット推進式の弾頭が高速で飛んでいく。
そして5秒と経たないうちに
――ドガァアアアアン!!!!
弾頭は目標へと着弾。大爆発が起こった。
「UUURAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」
一頭身幽霊が悲鳴らしき声を上げる。
そして少しだが血飛沫も見えた。
「効果アリ……血が出るなら殺せるな」
「実体はあるみたいっすね〜……それでもあの巨体は脅威ですが」
この世のものではない完全な霊体であったなら詰みであった。
だが現実に、そこに存在している……まだまだあの一頭身幽霊の謎は多いが、この情報の価値はとても大きい。駆除できるという希望が持てる。
「あとはコイツでいく」
ヨーゴは担いでいたRPGを地面に降ろし、脇に差している大小の刀に手をかけた。
銃火器よりも刀を使うほうが、この姿でならば強く働けるのだ。
怪獣にたった二振りの刀で挑むなど正気の沙汰ではないが、狂気の戦いを何度も見たからか彼の感覚は麻痺していた。
もはや彼にとって怪獣は刀で倒すものなのだ。
「攻撃が通じるなら最初っから全力でいくぞ」
鎧武者姿のヨーゴの脚が大地を抉り、猛烈なスタートダッシュを決めて走り出す。
「ボクらの意見は聞かないんですねあの人!?」
「でもまぁ〜戦闘を長引かせる理由もないですし、とりまヨーゴさんに協力しましょっか」
短期決戦は望むところ。
攻撃が通用するとわかったなら速攻で撃破するのが、対怪獣戦の鉄則だ。
「ボクらの援護頼みます」
「心得ました」
一気に駆け出すカガヤを見送り、ホノンはヨーゴの使ったRPGを持ち上げ、弾薬箱から次の弾をカチャリとセットする。
そして担ぎ、引き金に指を置いた。
「慎重に〜……」
ヨーゴのように素早く狙って撃つなんて技量は彼女にはなかった。前を走る2人に当てないよう慎重に狙いを定めて、撃つべきタイミングを見計らう。
そうしていると前方のカガヤが魔術を発動した。
「ひゃっ……!?」
驚くホノン。
カガヤが斜め上に突き出した手のひらの先に、薄紫に光る幾何学模様の魔法陣が展開――したかと思った瞬間に、その魔法陣から真っ赤な火炎の長槍が勢いよく射出されたからだ。
まるで古代兵器のバリスタを思い起こさせた。
チュドンッ!!
瞬く間に、炎の槍が一頭身幽霊の顔面に直撃する。
「UUUUUUURAAAAAAAA!?」
悲鳴が響き渡る。3人にとっては聞き心地がいい。攻撃が通じるという安心を得られる。
殺せるかもという希望を持てる。
「最初っから本気なんすねカガヤさんも……ならば」
狙いを定める。目標は一頭身幽霊の顔面。
追い打ちをかけるのだ。
よーく集中して狙って……カチッ――ドシュウウウウウン!!!
それから数秒も経たず――ドガァアアアアン!!!!
「UUUUUUURAAAAAMAAAAAA!?」
「イエスッ! イエスッ!」
思わず微笑んでガッツポーズをとるホノン。手応えというものを確かに感じた。
そしてすぐに一頭身幽霊の様子を見る。どれくらいの効果があったか確認するためだ。
「あれ……!?」
悲鳴の割にダメージは少ないようで、まだ二本足でしっかりと立っていた。硝煙と出血は確認できるが、それだけだ。
「マジかぁ~」
彼女はちょっぴり浮かれていた。もしかしたら今の攻撃が決め手になったのではないかと期待してしまっていたのだ。
所詮は通常兵器。車や戦車は壊せても怪獣は破壊できない。ダメージを与えるのがやっと……それでも充分だが、戦果への欲は抑えられないものがある。
「次の弾……!」
残弾は3発。だからといって節約しようだなんて考えない。何なら使い切る気でいる。
せっかくの武器。使わずに死ぬほうが最悪だと、彼女は心底理解しているからこそ、装填作業はスムーズで迅速であった。
装填してすぐに狙いを定める。
しかし
「ヨーゴさんとカガヤさんの邪魔になるかな~……やめとこ」
射線上に2人がいた。
カガヤは一頭身幽霊から、いざという時に逃げられる、少し離れた場所で魔術を発動しようとしている。
ヨーゴは目と鼻の先、長刀を八相に構えて目標へと走り迫っていた。
未だ正体不明の幽霊らしきモノだが出血するならば、斬ることはダメージになりうる。
ヨーゴは思う。
ならばすることはひとつだ……と。




