始まり
閑話休題
地球はいつおかしくなったのか?
人類が核エネルギーを利用できるようになった時期辺りだろうと、後の学者達は語る。
大地を一瞬で均し、海に大穴を空け、空を黒雲で覆える力を手に入れた人類が、地球を狂わせたのだと。
実際のところ、1945年に行われた世界初の核実験……トリニティ実験の影響で太古の生物が目覚めたのだから、学者達の推論は正しいと言える。
トリニティ実験の翌年。アメリカに現れた、15メートル級の肉食恐竜。甚大な被害を受けつつも軍による撃滅を成した。
その時、すでに核実験による影響だと考える者はいた……それでも生物ならば駆除が可能だと人類は認識してしまったため、実験は世界中で続行となった。
それから時が立ち1954年。
日本に、後に人類の怨敵となる大厄災が出現。
その名は大怪獣ジオレクス。
ゴツゴツとした黒曜石のような鱗に覆われた、直立二足歩行の50メートル級獣脚類。背中にはヒイラギの葉っぱに似た、トゲトゲの白い背びれが三列キレイに並んでいる。
白亜紀後期に生息していたティラノサウルスという爬虫類の内部に、人間が入り込んでいるような……生物として絶妙に不自然な体躯が、その神聖なほどに強烈な存在感を際立たせていた。
さらに特徴的なのは、遠くからでも目立つ黒のない真っ白な眼球である。その不気味な眼は、生物というより悪霊のものであった。
そんなジオレクスが持つ戦闘力はまさに人知を超えており、当時の日本の国防軍では全く太刀打ちできなかった。トウキョウは火の海にされ、首都機能はオオサカへと移されることとなった。
だが不運なことに、翌1955年にもジオレクスは出現した。今度は首都機能を移したばかりのオオサカにである。しかもツルギラスという怪獣が同時に出現した。踏んだり蹴ったりとはまさにこの事だろう。
怪獣同士の熾烈な殺し合いの結果、ジオレクスが勝利を納め、オオサカを見るも無残な更地へと変えた。
そんな大事件が起ころうとも、世界は怪獣という生物を軽んじていた。
敗戦直後のズタボロの国ならば、撃滅できなくても仕方がないと、(特に戦勝国は)そう考えたのだ。
当時の人類は、その考えが大きな間違いだと気が付かなかった。
翌1956年にも怪獣が現れた。今度は中国は北京である。
出現したのは浮遊怪獣メザスダー。
宙に浮かぶ半透明なタコという外見。8本の足は伸縮自在で、3キロメートルまで伸ばすことが可能……付いている吸盤からは100万ボルトの電流を流すことができる怪蛸だ
なぜ宙に浮かんでいるのか、原理は現在でも不明である。
メザスダーは天安門に紫禁城、そして万里の長城の一部を破壊。
多くの民間人に死傷者が出てしまうも、最終的には軍隊によるミサイル攻撃で撃滅した。
被害はあったが撃滅できてしまったのだ。
これがキッカケで、世界は調子に乗ってしまった。勘違いが加速したのだ。
どんな怪獣が現れても、充分な軍事力があれば撃滅できる……そう信じるようになった。
もはや受けた被害など目に入らないほど、情勢は高揚していたのだ。
この1956年から、怪獣の出現頻度は増加していった。世界中で同時多発的に出現することも多々あった。
地球規模での問題ではあったが、各国はそれぞれ対処し、手を取り合うことはなかった。
その結果、充分な武力を持てなかった中東や朝鮮地域、インドシナ半島では大勢の人々が怪獣に蹂躙された。
悲しむのは被害にあった少数の民間人のみ。
しかし大国の大多数にとっては対岸の火事。
大きな声で悲劇の実情を叫んでも、当事者以外には新聞やラジオから流れてくる日々の情報でしかない。
やがて怪獣駆除は一種のエンターテイメントと化し、悲劇は熱狂にかき消されていった。
さらに1978年、遠い遠いエムナプトン星からピースガイがやって来たことで熱狂は加速。
ピースガイの来訪に呼応するように、超人ヒーローが次々と姿を現し、怪獣駆除はさらにスムーズに……まさにショーのように変化した。
しかしその世界的熱狂は1984年に終わりを迎えた。
この年こそが人類にとっての厄年だろうと、誰もが口を揃えて言うだろう。
1984年3月3日。
アメリカ首都ワシントン。突如として無数の怪獣達と共に、巨大なゴリラが姿を現した。
怪獣達は何度も駆除したことのある……効果がある武器さえあれば、迅速に駆除できる怪獣ばかりだった。
だが巨大なゴリラだけは、未確認の新種であった……だが似たような怪獣は世界中に出現していた。アメリカは対処できるだろうと楽観視した。
世界最強を自負する精鋭の軍隊に、超人ヒーローのピースガイがいる。楽観的になるのも、当時の人間からすれば無理もない話だろう。
もっと警戒するべきだったと、後世の専門家は語る。
有象無象の怪獣は大方の予想通り、容易く撃滅せしめた。軍とピースガイの連携も冴えていた、絶好調であった……はずだったが、たった1匹の巨大ゴリラが全てを台無しにした。
飛んでいるピースガイを的確に殴り飛ばし気絶させたその瞬間から、蹂躙が始まった。
俊敏な動きで軍の攻撃を避け、当たったとしても分厚い毛皮で致命傷にならない。
わずか半日で首都ワシントンは壊滅し、米軍は半壊状態に追い込まれた。途中で海へと帰っていかなければ、他の場所まで被害を受けていただろう。
巨大ゴリラは大怪猿ギンコと名付けられ、今日まで恐怖の象徴の一つとして、君臨することとなる。(ピースガイの一件は情報統制により世間には知らされなかった)
同年。12月26日。
ソビエト連邦首都モスクワにて巨大な鳥の群れが現れた。
ギャダオンと呼ばれる怪獣には、人類は何度も相対している。殲滅も各地でスムーズに行われた。
凶暴な肉食怪獣ではあるが、外皮が薄く、人間サイズの小型であるため、ライフル銃ほどの装備で射殺できる。
決して油断はできないが、対処を間違えなければ問題ない部類の鳥怪獣。
それがギャダオンという生物への、人類の認識であった。
しかしこのモスクワの日は、大群でやってきた。曇り空を塗りつぶすレベルの群れだった。
総数は約150匹。それが突然来たのだから、軍隊は処理に手間取ってしまった。民間人は次々と生きたまま喰われていき、被害者はかなりの数にのぼった。
悲劇はそれだけに留まらない。
ギャダオンの中でも一際大きい、体長50メートル、翼長120メートルの巨大ギャダオンが、モスクワの聖ワシリイ大聖堂を破壊した後に、その場で巣を作り、100個近くの卵を産み落としたのだ。そしてギャダオンの卵は、なんと24時間で孵化を開始した。
卵を産んだ後、巨大ギャダオンは軍隊を蹂躙。
一個師団を壊滅に追い込んだ。
どうやったのか……ただ付近を高速で飛んで吹き飛ばす。それを繰り返したのだ。
軍は撤退を余儀なくされ、逃げ遅れた市民や傷痍軍人は小さなギャダオンの餌となり、食残しの肉は24時間後……卵から生まれた幼体ギャダオンの餌となった。
これにてモスクワはギャダオンの巣窟と変貌を遂げ、矮小な生物は立ち入るだけで喰われる魔境となった。
甚大な被害を及ぼした巨大ギャダオンは国家崩壊レベルの脅威と世界中に認められ、大怪鳥キング・ギャダオンのコードネームを与えられるに至った。
1984年。
当時最強の軍隊を有するアメリカとソビエト連邦の両国の首都が陥落した。
そのニュースは世界を震撼させ、怪獣の恐ろしさを正しく理解させることとなった。




