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 ヨーゴは思う。

 自分が対怪獣の戦力となるためにはどうしたらいいのか? 

 彼はいつも考えていた。歩いているときも食事をしているときも……眠りに落ちる寸前まで、毎日ずっと考えていた。

 

 バリケードタウンで街の治安維持をしてきたが、自ら怪獣の相手はしてこなかった……何故か?

 理由は至ってシンプル。

 怪獣を倒せるだけの戦闘力がないからだ。


 幼少期に人体拡充手術を受け、天骸(テンガイ)霊装(レイソウ)鬼牙(オニキバ)』を獲得したといえど、総合的な戦闘力は超人や怪獣には遠く及ばない。

 超人の力を模倣して作り上げた偽物だから……という訳では断じてない。

 『鬼牙』は人類が超人や怪獣を倒すため、人類が編み出した科学と魔術を組み合わせて作成された装具。世紀の大傑作である。

 そんな大層な代物を得ていながら、ヨーゴは目立った戦果を、自慢できるような功績を残せていない。

 何度かジンハと怪獣の戦いに介入したが、足手まといにすらなれなかった。いてもいなくても同じだった。


 自分は充分すぎるほどに満ち足りているはずなのに、どうしてジンハのように強くなれないのか?

 資格はあるはずなのに、超人の領域に立てていない……それを考えれば考えるほど、ヨーゴは自分を不甲斐ないと憎んでいった。


 被検体45号だった自分に、ヨーゴという名前をくれたオウイチロウのためにも。馴染みのない自分を受け入れてくれた仲間達のためにも……強くなって守らねばと彼は思っている。

 

 しかしうまくいかない。

 いくら努力を重ねても、超人たちの戦闘力には届かず、怪獣に敗北してしまう。


 ジンハのように空を蹴って跳び、不可視の斬撃を発する事もできない。

 ピースガイ……ユウレン・シェーンのように自在に空を飛び、目からビームも放てない。

 努力だけでは届かない壁にぶち当たっている状態。八方塞がりでもある。


 ならば諦めるか。全て放り出して生きるか。


 ――それはできない。それだけは決してできないのが彼の性分。


 どうにか食い下がる手段を模索し続けた結果、彼は一つの結論に辿り着く。

 個の戦闘力が足りないのならば、数で補えば良い……と。


 しかし数にもある程度の質は必要。烏合の衆では意味がない。バリケードタウンにいた頃はその点で悩んでいた。


 だが今はどうだ?

 そう。高名な魔術師の弟子のカガヤがいる。立派な戦力となる男がいる。

 協力すれば、超人達に匹敵する戦闘力を発揮できるはず。

 ヨーゴはそう考えた。


「カガヤ! 隙を作るからデカいのかませ!」


 八相に構え、走りながら大声で簡潔に伝える。

 作戦というにはあまりに大雑把。だが短期決戦を望むならば最適に近い判断だろう。


「いくぞ!」


 目標との距離は約10メートル。怪獣相手にはもはや至近距離。

 その地点でヨーゴは地面を思い切り蹴り、刀を構えたまま斜め上方向へと勢いよく跳んだ。


 本当は眼球を狙いたいところだが、そこまでは到達できない。だが膝までなら余裕で跳べる。

 だから今は動きを封じることを狙いとし、ヨーゴは刀を振るう。


 ヒュン――ズバンッ!!


 音速に届きうる速度で刀を右袈裟に振るい、一頭身幽霊の右膝を斬り裂いた。


「UUUURAAAAAAMAAAAAA!?」


 大口を開けて絶叫する怪物。

 斬った部分から吹き出てくる血で視界が潰れぬよう、ヨーゴは腕で顔を覆い隠すようにガードする。


 ジンハならば両断できたであろう……こんな状況でも、そんな考えが脳裏に過る。

 しかし今は嫉妬や劣等感に苛まれている時間はない。

 一頭身幽霊は膝を地面につき、苦しみに呻いているのだ。


「やれカガヤ!」


 落下しながら叫ぶ。目標の動きは止まっている。攻撃を叩き込む絶好のチャンスだ。


「『輝けぬ星に命ずる』『ヒトに満たぬ幾億の薪』『怨嗟の残り火にてその身を焦がせ』!」


 ヨーゴに言われた通り、カガヤは最大の魔術を使うため呪文を素早く詠唱する。

 大体の術は無詠唱で魔力の消耗を抑えながら放てるが、詠唱を破棄すると威力・効果が大幅に落ちる。

 最大をぶつける以上、詠唱は欠かせない。


「『屍鬼鏖殺大炎葬』!」


 そうカガヤが叫ぶと、一頭身幽霊の足元に巨大な魔法陣が出現。


 ――ヴォオオオオオオオオ!!!


 次の瞬間には魔法陣から、渦を巻く青い火炎の柱が天に登っていた。


「UUURUUUUAAAAAAMAAAAAAAAAAAAA!?」


 当然、一頭身幽霊はその渦の中に巻き込まれた。そんじょそこらの火炎では遠く及ばない壮大な火力。

 中にいる目標は青い炎でまったく見えない。絶叫だけが響いてきていた。


 近くにいるヨーゴも凄まじい熱で軽い火傷を負ってしまう。それでも目の前の怪物を殺せるならば気にならない。

 

「よっし……――うっ!?」


 カガヤは体内の急激な魔力大量消費の影響で、強烈な嘔気に見舞われた。

 今放ったのは、師匠であるボルケーノ・ウィッチから教わった、数ある魔術のなかでも最大級の火力を誇る術。

 その対価として体内にある魔力の消費は凄まじく、しばらく動けなくなってしまう。


「……おええええええ!?」


 吐き気をこらえきれず膝から崩れ落ち、胃の中のモノをビシャビシャと吐き出してしまう。

 ゲロを吐いたその瞬間に、一頭身幽霊を包んでいた青い炎の渦は消え失せてしまった。

 まだまだカガヤは修行不足で未熟ゆえに、術の発動時間が短いのだ。

 それでも火力は申し分ない。師匠であるボルケーノ・ウィッチにも、その点だけは認められていた。

 だが今起きている事象は非情である。


「URAAAAAAM……!」


 過去にどれだけ褒められようとも、今この瞬間に成果を出せなければ意味はない。


 一頭身幽霊は黒焦げになりながらも、そこにいた。長い髪は全て燃え落ち、皮膚は炭化している、出血も酷いものだ……それでもまだ倒れないのが怪獣である。


「おえっ……ウソだろ……!?」


 フラつく脚で何とか立ち上がりながら、カガヤは一頭身幽霊の様子をみて驚愕する。

 そして絶望する。今できる全力が通用しないことに。

 これで二度目……彼は涙を浮かべる。

 自信を打ち砕かれる苦痛は、何度味わっても慣れることはない。

 完全に自尊心を喪失したカガヤには、もはや戦意と呼べる心はなかった。自分が戦っても何の役にも立たない、意味がないと思い込んでしまっているのだ。


「くそ……くそ……っ!」

 

 今までの努力は全て無駄。才能のない自分は師匠のような立派なヒーローにはなれない。

 そう思い込み、カガヤは下を向いてしまう。戦闘は続いているが、もはや自分のことで目一杯。 周囲を気にする精神的余裕はなかった。


「URAAAAAAM……!」


 火炎から生き延びた一頭身幽霊はカガヤへと迫る。自分を燃やした相手への報復をするつもりなのだ。

 しかしその歩みはゆっくりだった。ダメージが大きすぎるのと、右膝を負傷しているためにフラつきもしていた。

 逃げようと思えば逃げられる。

 しかしカガヤは立ち止まって、うつむいて泣いている。

 

「カガヤ! 何やってる逃げろ!」


 そんな状態で、ヨーゴの怒鳴り声が耳に入った。

 カガヤはうつむくのをやめ、前を向く。

 正面には焼け焦げた一頭身幽霊。ジリジリと迫ってきている。


「……うぁ」


 黒く焦げた一頭身幽霊の大きな顔面が、彼には前よりもずっと恐ろしく見えた。

 蛇に睨まれた蛙のように、プルプルと身を震わせる。


「URAAAAAAAAAAAAAM!」


「うわああああああああ!?」


 一頭身幽霊の怨嗟の叫びに、カガヤはみっともなく悲鳴を上げた。

 自尊心の喪失により、抑え込んでいた恐怖心が表面化したのだ。


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