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激動の2日目の最後は穏やかなものだった。
普通に焚き火をして交代して眠って、特筆すべき異常もなく静かな夜を過ごせたのである。
そして3日目の朝。
ヨーゴらは軽めの朝食を終えた後(食事中は無言のままで、単なるエネルギー補給となっていた)すぐに旅を再開する。
「な〜んか……臭くありませんか?」
昼頃。そろそろ休憩かとヨーゴが思っていたところで、突然ホノンが2人に言い放った。
「死臭っていうか何というか……腐り始めた肉ぅ〜って感じの」
そう言うホノンだが、ヨーゴとカガヤから同感を得られない。2人は彼女の言う臭いとやらを感知できていないのだ。
「そこら辺で犬とか猫とか人が野垂れ死んでるとかじゃないですか?」
カガヤの言葉に、ホノンは横に首を振った。
「人間とか犬猫の死体ならわかりますよ〜……この臭いはど〜も違うっぽいっす」
続けて「マシュンゴでもなさそうですし」とさらに悩む様子を見せる。
「臭いなんて全部一緒では?」
「ぜーんぜん違いますよ〜、鈍感ですね〜カガヤさ〜ん」
何故か勝ち誇ったような顔をするホノンに、カガヤはムッとした。その様子を見ていたヨーゴはカガヤの心境を察する。
コイツ、なんかムカつくよな……そういう気持ちを抱いたのだとすぐに分かってしまった。
そんな男衆の気持ちを知らないまま、ホノンは鼻をひくつかせてクンクンと臭いを嗅ぎ続ける。
「風に乗って来てますね……やっぱり西から臭ってきます」
2人を追い越し、ホノンは先へと駆け足で進んでいく。ヨーゴとカガヤは突然の彼女の動きに少し驚いたものの、すぐに後を追った。
そして早足で進むこと約30分。
臭いの正体のもとに辿り着く。
「これは……!」
最初に声を漏らしたのは、ホノンだった。
ヨーゴとカガヤは驚きのあまり言葉を失っていた。
臭いの元は、全身をズタズタに切り裂かれ、喉元を噛み千切られ、捕食された怪獣の死骸。
すでに腐敗が始まっており、たくさんのカラスや野犬などの動物がその死肉を貪り喰らっている。
しかし驚いたのはそこではない。怪獣の死骸、この3人は何度も見た覚えがある。
3人が驚いたのは、その捕食された死骸が双頭怪鳥バーパドンだからだ。
双頭怪鳥バーパドン……全長55メートルの直立二足歩行の怪獣である。
虹のようにカラフルな羽毛が全身にびっしり生えており、さらにオウムのような頭部が二つ並んでいるのが特徴の怪鳥だ
見た目こそ妙にカッコ悪いが実力派の怪獣として有名で、撃退成功例はかなり少ない。
軍隊や数多のヒーローが甚大な損害を被り、苦戦を強いられてきた強豪中の強豪である。
そんなバーパドンは雑多な怪獣に不覚を取るような怪獣ではない。
しかし、あろうことか喰われて殺されている……何があったのか、さすがの3人も気になってしまう。
「ヨーゴさん……ちょびっと観察する時間をもらえます?」
いつになく真面目なトーンで頼んでくるホノンに、ヨーゴは無言で頷く。
この不可解さを解き明かせば、今追いかけている謎も連鎖的に解けるのでは……と、彼は予感しているからだ。
だからホノンには内心期待していた。
「……喉元を食い千切られて、腹を抉られ内臓を貪られたって感じですね〜」
ホノンはバーパドンの死骸を、5分ほどかけてグルリと一周した後、そう結論づける。
ヨーゴの期待は外れたが、難しい問題なため責める気にはならない。
「トドメの後、栄養がある部分を優先して食うっていう、狩人の典型的な食い方っすね〜……どちらかというと、コイツがそういう食い方をする立場なんすけど」
バーパドンは多くいる怪獣の中でも、捕食者サイドにいる怪獣である。
他の怪獣との縄張り争いはあれど、狩られて捕食されるなんて……珍しいを通り越して不可解だった。
「何にせよ、バーパドンほどの怪獣を狩れるレベルの怪獣が付近にいるということだな」
「それってもう六大怪のレベルじゃあ……」
カガヤが言い放った六大怪――それは数多にいる怪獣たちのなかでも、別格の戦闘能力を誇る怪獣に、人類が与えた称号である。
大怪亀ゲンブ
大怪猿ギンコ
大怪蛾モルフォ
大怪鳥キング・ギャダオン
大怪鯨エイハブ
そして大怪獣ジオレクス
バーパドンを捕食するレベルといえば、ここいらのどれかだろうとカガヤは思った。
「ん〜確かに、そのレベルの怪獣がここらにいるんなら、ベゴサウルスが自分の縄張り放り出してバリケードタウンに来たのも納得できますね〜」
ホノンは「怖くて逃げてきたのかも」と推測を付け足す。
「なるほど、あり得る話だな……」
「だったら調査中止でバリケードタウンに戻るべきでは? もし本当にこの一件が大怪の影響だったなら、ボクらの手に負えませんよ」
このバーパドンを殺した犯人が、今回の件に関わっていると、3人は予測していた。
そう考えてしまったせいか、怯えた様子のカガヤの進言に、ヨーゴはしばらく考えた後に「それは違う」と言う。
「まだ大怪がいると決まった訳ではない、ただの憶測で調査を打ち切るなどありえん」
厳しく言い放つヨーゴに、カガヤはプレッシャーを感じた。
大怪がいないとしても、それに匹敵するレベルの怪獣がいるのはほぼ間違いない。
そこまで高いレベルの怪獣には、いくら魔術が扱えようと、いくら変身して戦闘力を底上げしようと関係なく……もし遭遇でもすれば生存確率はグッと下がる。
「大怪レベルがいると予想できる……それだけでも充分な調査報告じゃありませんか?」
調査とは、生きて情報を持ち帰ること……情報を精査するのは、無事に帰ってからでいい。
カガヤはそう考える。
それに彼は生きて帰らねばいけない明確な理由がある。死地に飛び込む気はサラサラない。
「そうかもしれんが、バリケードタウンの平穏のためだ、危険は承知で……せめてこれをやった犯人を突き止めねばならん」
そこに明確な脅威があるならば、待つ者のためにギリギリまで粘って詳細を知るべき……知らなければ対策できないから。
ヨーゴはそう考える。
彼には使命がある。街の防衛のため、住民の安全のため。死地に飛び込み、できる限り情報を得なければならない。
「それにだな……あまりこういうことは言いたかないが、調査を打ち切れば、オマエの師匠の遺言の件に響いてくるぞ」
「そもそも無事に生きて帰らないと、評価に響くもクソもありませんよ……もしボクらが死ねば、バリケードタウンの皆さんは、脅威に晒されていると知ることもできません」
カガヤは「無事に帰れるうちに帰るべきです」と強気に付け足した。
「いいや、まだ情報が足らん……脅威があるなら徹底的に調べ尽くすことが、街の安全のためになるだろう」
しかしヨーゴも負けじと言い返す。彼なりに街のことを考えているからだ。
「これ以上調べるのは危険です、帰りましょう」
「まだ脅威の正体を見ていない、調査続行だ」
2人の議論は完全に平行線。互いの主張に妥協できる部分はない。帰るか帰らないかの二択である。
「……ホノンさんはどう思います?」
「意見を聞かせろ」
この議論を決着させるには第三者の意見が必要だと察した2人は、沈黙していたホノンに尋ねる。
「えぇ〜……」
話し合いを聞いていたホノンが黙っていたのは、2人の言い分がどちらも正しいと思ってしまっていたからだ。
正直、今すぐにでも帰りたい……しかし確かに脅威は知っておきたいところ。
迷ってしまい言葉が出ない。こっちが良いと決めることもできない。
それでも数秒ほど考えて、彼女は口を開く。
「……カガヤさんには申し訳ないですけど、もう少しだけ調べてもいいかなとは思います」
そしてホノンはカガヤに「ごめんなさい」と深々と頭を下げた。
「謝ることはないですから、頭を上げてください……ホノンさんもバリケードタウンの住人ですから、脅威の真相を知りたいと思うのは当然でしょう」
ふぅ……とカガヤは諦めたように息を吐く。
「わかりました、もう少し調べてみましょう……ただしヤバい思ったらボクは帰りますからね」
「それで構わん……マジにヤバい時には全員自己判断で退避ということにしよう」
危うく決裂するところだった2人が落としどころを見つけたことで、ホノンはホッと胸をなで下ろす。




