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 パッと見る限り100匹はいそうな数。

 そんな化けキノコ人間の群れが、荒れる波のように押し寄せてくる。

 理由は明快、見つけた人間を同類にするためだ。

 今の場合のターゲットはヨーゴら3人。


 単体ならさほど恐ろしくはない。

 口から吐き出してくる胞子を吸わないように立ち回れば、ただの人間でも刃物を手に取れば難なく倒せるレベルである。

 しかし大きな群れとなれば話は変わってくる。

 大戦時は大量の胞子を吸わないようにする特殊装備をした軍隊が出動していた。


 当然だがマシュンゴが多いほど、吐き出される胞子の総量は増える。

 それが駆除をしにくくしていたのだ。


「カガヤ、魔術で一気に殲滅イケるか?」


「広範囲攻撃はできますが、あれほどの数なんで、取りこぼさない保証はできませんね……それに攻撃後はボク、反動で動けなくなります」


「なら取りこぼしはオレが狩ろう……とりあえず先制でぶっ放してやれ」


「承知しました」


 物騒な会話をする男二人を、ホノンは彼らが背負っていたリュックを預かりながら、ビビって見ていた。

 戦闘においては役立たずだが、彼女はそれを申し訳なく思ったことはない。それほど彼らが強いからだ。戦闘職は彼らだけで充分だと彼女は考えているのだ。

 そんな怠惰にも似た期待感を胸に、荷物持ちをしながら状況を見守る。


「『我が求めは燃え盛る飛礫』」


 カガヤは詠唱と共に両腕を真上に上げ、赤い魔法陣を発生させる。前に使っていた魔術のソレより、ホノンには少しだけ大きく見えた。


「『紅き流星を数多に描き散らせ』『爆炎噴火(バクエンフンカ)』!」


 叫びと同時に、大きめの魔法陣から爆炎が真上に噴射される。

 小規模だが、まさしく火山の噴火であった。


 ――ヒュルルルル……


 天高く舞い上がった赤熱化した岩石群が、重力に従って落ちてくる。それらは全てマシュンゴの群れに向かっていた。


 ドガァン! ドガァン! ドガァン! ドガァン!


「husrrr……!?」

「husra……!?」

「husrahus……!」


 魔術による指向性を施した赤い流星は、次々とマシュンゴを押し潰し、燃やしていく。


「husu……」

「huppppp!?」


 燃えて暴れるマシュンゴが近くにいた無事なマシュンゴに助けを求めるように接近することで、どんどん延焼していく。植物と生物の中間生命体ゆえに火に極端に弱いのだ。


 焦げ朽ちていくマシュンゴ達……しかし微かだが生き延びた個体がいる。うぞうぞと動き、死をもたらす火から逃げようとしているのだ。


「すいませんヨーゴさん……残りをお願いします」


「よくやった、任せろ」


 ゼェゼェと肩で息をして、その場に力なく座り込んでしまうカガヤを、ホノンは慌てて寄り添い、ヨーゴは短く称賛する。


 硬く握りしめた両の拳同士をガンガンと叩きつけ、彼は気合を入れた。

 残った敵を余さず駆逐する役目は、このヨーゴが受け持っている。

 カガヤは魔力の使用過多により、その場にへたり込んでしまう。魔力とは生命力を変換して作り出すエネルギー……使い過ぎれば命にかかわってくる。

 つまるところ、ヨーゴは彼の魔術抜きで戦わねばならないということ。

 しかしヨーゴの表情は余裕そのもの。不安もなければ、焦りや緊張というような雰囲気は一切ない。


「ふぅー……ん」


 胞子を吸わないようにするため、思い切り息を吸い、吐くことなく止める。

 そしてそのまま生き残ったマシュンゴ達へと突撃。


 ボゴォ!


 一匹のマシュンゴの頭部に正拳を叩きつける。


 「hs……!?」


 ――パァン!!


 特徴的なマッシュルームの頭は突如として爆発四散。マシュンゴは何が起きたか把握しないまま死を迎えた。

 その異常な様子を当然のことと思っているかのように、一瞥もすることなくヨーゴは次の標的のマシュンゴの元へと駆け寄る。


 狙いはまたもマシュンゴの頭部。

 今度は拳を横薙ぎに振り抜く。


 ボグシャァ!


 拳はマシュンゴの頭の側面を陥没させ、即死へと至らしめる。

 

 止まることを忘れたかのようなヨーゴはまた同じように次の標的へと近寄り、今度は飛び蹴りを浴びせた。今度の狙いは首だ。


 ズバッ!


 鋭く放たれた足刀はターゲットとなったマシュンゴの首を一撃で切断。空手を極めきった末にある超人技を、彼は豆腐を包丁で切るように簡単にやってみせた。


 そしてまた次へ……次へ……と、マシュンゴを多彩な技で一撃で殺していく。


 疲労で座り込んでいたカガヤと、それに付き添っていたホノンは、ヨーゴが戦う姿を見て偶然にも同じようなことを連想した。


 まるで怪人のようだ……と。

 それだけ力強く、それだけ身のこなしが素早く軽やかだった。

 的確に急所だけを射抜いていく攻撃で、次々とマシュンゴを駆除していく。


 時間にして1分。


「……ぷはぁ」


 息を止めたまま撃破した数は14匹。

 特殊な装備をした軍隊が相手取るような群れを、装備もなしに撃滅してみせた。

 そして胞子は1ミリグラムも吸わなかった。


「駆除完了だ……調子はどうだ、カガヤ」


「仕事が早いですね、さすがにまだ調子戻りませんよ」


 先ほどよりかは息苦しくはなくなったが、立ち上がろうにも身体が重たい。ホノンの介助があっても歩行するのがギリギリといった具合。

 そんな万全とは程遠いコンディションであったカガヤは「もうちょい休憩させてください」と懇願する。

 

「わかった……ただしそんな長くはせんぞ」


 一刻も早く完遂せねばならない任務ゆえ、実のところ休憩などせずヨーゴは先を急ぎたかった。

 しかしカガヤという戦力は、置いていくにはあまりに惜しい。

 だからこの休憩は必要だと、ヨーゴは心のなかで自分に言い聞かせた。


「ホノン、オマエは気を緩めず周囲の警戒をしてろ」


「休憩は平等にあるべきでは?」


「黙れ、やれ」


「……は〜い」


 カガヤの隣に座っていたホノンに命じると、ヨーゴも立ったまま目を閉じて、張り詰めさせていた気を少しだけ緩める。

 仕方がなくとったこの休憩時間……便乗せねば勿体ないと彼は思ったのだ。


「……ん〜?」


 カガヤを支えて座りながらも耳を澄ませていたホノンは、遠くから響いてくる異音に気が付く。


「ヨーゴさん……西からブゥゥンって、何匹かの虫の羽音みたいなのが聞こえてきました」


 その報告にヨーゴは即時に目を開ける。もう彼の休憩時間は終わった。


「次から次へと、がんがん来るな……ホノン、何が来るか分かるか?」


「羽音的にイナゴックっぽいかなと……やっぱ西に何かあるんですね」


「考えても仕方がないことを言うな……とにかく今はかかってくる奴らだけに集中しろ」

 

 そんな会話をしているうちに、西の空からイナゴックの群れが飛んできつつあった。

 しかし数は5匹。群れというには小規模。

 目を細めて観察していたホノンはその理由を見抜いた。


「どいつもこいつもあちこち噛み傷だらけで、共食いしてたっぽいっすね〜……現在進行系で飢餓状態が続いてると見ました」


「ということは狂暴化しているな?」


「そりゃそうでしょう、このマシュンゴの死体の臭いに釣られて来たと思われますね〜」


「死んでも厄介だなこのキノコ怪人は」


 ヨーゴは足元に転がっていたマシュンゴの死体を軽く蹴飛ばす。

 元人間だが人の心を失えば怪物と同じ。そう考えている彼はマシュンゴを足蹴にすることに罪悪感はなかった。


「しかし妙ですね……」


 ホノンは一人ポツリと呟く。

 イナゴックは常に何かを齧って食べている怪獣で、飢餓状態になるなど滅多にないはず……もしかすると、食べることより優先することがあったのかと推測する。

 しかし今はそういうことを考えている場合じゃないと判断し、カガヤの介抱に集中し直した。


「すみませんヨーゴさん……加勢できそうにないですボク」


「問題ない、休んでいろ」


 ホノンの手を借りて力なく座っているカガヤを気遣いながら、ヨーゴは拳を固めて首をコキッと鳴らす。本気になるときの彼の、無意識のクセだ。


「GOOOOC……GOOOOC……」


 数秒後、ヨーゴの前方7メートルに、空からイナゴック5匹が着陸する。


 イナゴックという怪虫はマシュンゴとは比較にならない戦闘能力を持っている。素手の人間など容易く噛み千切られて御臨終だ。


 だがヨーゴにはいざという時の秘策がある。

 常日頃から彼が首にかけている数珠ネックレスはただのアクセサリーではないのだ。


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