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オウイチロウに指示された出立の日。
西門にて。
カガヤとヨーゴはそれぞれ大きな荷物を背負って、ホノンを待っていた。
すでに出発する時刻である。
「大荷物だな、例の収納魔術とやらにしまえばコンパクトじゃないか?」
カガヤが背負っているリュックがパンパンに膨れているのを横目で見たヨーゴは、素直に疑問を投げかける。
彼の魔術については、この3日で情報を共有していた。
もちろん人前で披露するには危険すぎる術もあり、そしてヨーゴらには魔術の知識が皆無ゆえ、全てを伝え切ったという訳ではない。
「収納魔術には武器をしまってるんで、この荷物は日用品です」
「武器だと?」
「ベゴサウルスと戦って実力不足だって痛感したので、小細工の武器をたくさん仕込んであります」
戦闘において、打てる手は多いほうがいいに決まっている。
魔術だけに頼らないのは良い心掛けだと、ヨーゴは感心するが表情に出さない。愛想のない仏頂面のままだ。
「なら身体が重たいんじゃないか? 途中で動けなくなったなら置いていくぞ」
「構いません、覚悟の上です」
この3日間の準備期間で、カガヤとホノンは友人と呼べる間柄となった。実際、気も合うし話が弾むことも多い。
しかしヨーゴとカガヤは互いに心を開ききっていない。戦友というよりビジネスパートナー的な関わり方しかしていなかった。ゆえに会話は最低限である。
「すみませーん……遅れました〜」
2人が喋り終えるのと同時に、背後からホノンの声が聞こえてくる。
カガヤは気まずそうに笑って、ヨーゴは怒りの形相で振り向いた。
「遅刻とは良い度胸だな、えぇホノン」
「いやいや、ここ来る途中でオウイチロウさんに引き止められて、ちょっとお話を聞いてたんですよ〜」
ヨーゴの圧力に屈することなく、ホノンは飄々とした態度をとってみせる。。
「まぁいい……もう出発するぞ」
そう言ってヨーゴは歩き出し、カガヤとホノンも後に続く。
門番の男達に西門のゲートを動かして開けてもらい、バリケードタウンの外へと出て行った。
後ろで門が閉まる音を聞きながら、3人は無言で進む。
目的地までの道のりは明確。ベゴサウルスの足跡がクッキリと残っているからだ。
それらの痕跡を辿っていけば、何か異変が起きたのだろうヤツの縄張りに到着できるというわけである。
怪獣に詳しいホノンの見立てでは、一週間で往復できる距離に縄張りはあるという。
距離も期間も計算済み。ひたすら歩いて、行って戻ってくるだけ。
街中のパトロールや街の外側の見張り番よりキツいミッションではあるが、やることは単純明快で、終わりもハッキリしている。
だから精神的には余裕がある……とはいかない。
バリケードタウンから離れれば離れるほど、ユウレン・シェーン……ピースガイの生物的圧力も届かなくなっていく。
その影響を表すかのように、バリケードタウンから5キロほど離れた場所で、2体の人型の怪物――怪人と一行は出会ってしまった。
「……ホノンさん、皆さんはマシュンゴって呼ぶんでしたっけ、あれ」
「そだよ〜」
背格好は成人した人間そのものだが、マッシュルームに似た白いキノコが、全身におびただしいほど生えている。体格や人相が確認できないほどにビッシリとだ。
真っ白いキノコの化け物といった見た目だが、これでも元々は人間。ファンマッシュと呼ばれるマシュンゴのキノコを食してしまった結果の姿である。
脳は菌に侵食されて自我は完全に消え失せており、人間としては死んでいる状態。戦時中も、マシュンゴ殺しは殺人とされず、一切の罪に問われなかった。
「husrrrrr……」
「husrr……」
頭部……口があるであろう部分から白い粉のような胞子を吹き出しながら、マシュンゴはヨタヨタとおぼつかない足取りで一向へと近づいていく。
マシュンゴは人間に胞子を大量に吸わせて同族を増やそうとする性質を持つ害獣。
ピースガイの威光が効いているバリケードタウンに入ってくることはまずない。
だが万が一ということもあり、発見したら即駆除が鉄則とされている。
「2人とも、僕にお任せを……頭部を焼却すればいいんですよね」
「よろしく〜」
「やれるのか?」
意地の悪い笑みを浮かべながら、ヨーゴは問いかける。
それに対してカガヤは笑い返し、「やれますよ」と即座に答えてみせた。
「『我が求めは陽光の槍撃』『眼前の敵を撃ち抜け』『炎天槍』!」
カガヤが突き出した両手の先に、魔力によって投影される魔法陣。そこから放たれたのは槍を模した二対の火炎。
「husrrr……!?」
「husra……!?」
燃え盛る二本槍が2匹のマシュンゴの頭部を刺し貫き、吹き出している胞子もろとも炎上させる。
マシュンゴの身体は火に弱い……あっという間に全身に炎が伝播して火達磨と化した2匹は、うめき声のような音を立てながら倒れ伏した。
「やるじゃないか」
焼け朽ちていくマシュンゴを見ながら、薄ら笑いを浮かべてヨーゴがカガヤを称賛する。
「ベゴサウルス相手に敗走したのと同一人物とは思えんよ」
「……あんまりイジメないでくださいよ」
「ふふふっ……悪かったよ、つい弄りたくなってな」
意地の悪い言葉に、ふてくされたような態度をとるカガヤ。そんな彼にヨーゴは適当に謝罪した。
「実際、割とマジで助かるよ……余計に武器を使うこともなく、無駄に体力を消耗しないで雑魚を切り抜けられたんだからな」
「そうやって嫌味ナシに言ってくれたらいいんです」
カガヤは静かにため息をつく。
やはりヨーゴとは気が合わないかも……と思ったからだ。
「そーいやマシュンゴの死体、一応埋葬しときます?」
ホノンの質問にヨーゴは「放っておけ」と答える。
マシュンゴは元人間。相応の扱いをせねばならないという意見を持つ人も、戦時中には多くいた。
だが今はそうではない。完全に化け物として扱うのが普通だ。
「これが火葬でいい……行こう」
それに今は、悠長に墓穴を掘っている暇は、彼らにはないのである。この場所はもうピースガイの庇護下になく、魑魅魍魎跋扈する魔境なのだ。
一刻も早く目的を達成しなければ、命が危うい。
「燃やしっぱなしで放って置くのも、ちょっぴり罪悪感ありますね……」
歩きながら振り向いて、燃え朽ちていくマシュンゴを見てしまうホノンに「余計なことを考えるな」と彼女の先を歩くヨーゴは言った。
「オレ達は生き延びて目的を達成することだけ考えてればいいんだ」
「それじゃあ、まるでマシーンですね」
ふとカガヤが口を開いた。思ったことが言葉として出てしまったのだ。
「マシーンで結構、この任務に私情は不要だ」
そうキッパリと言い切るヨーゴ。
さらに続けて
「オレ達3人の命は、もうオレ達だけのモノじゃないんだからな……下手に死ぬ訳にはいかん」
責任を感じているからこそのヨーゴの言葉、カガヤもホノンも何か言い返すことはできなかった。全くもってそのとおりとは思わないが、反論するほどの主張だとは思えなかったのだ。
その後は3人とも黙ったまま、夜まで特に何事もなく歩き……暗くなってきた頃に野営地を定め、テントを張って、見張り番を交代制で務めながら休息をとった。




