茶会開催
フェリシアは、元婚約者(とついでに男爵令嬢)の逮捕への協力者全員に感謝の意を伝えるお礼として、茶会を開こうと画策する。それはフェリシア自身とメフィストの名を借りて開く茶会だ。
メフィストも周囲に迷惑をかけたこと(※男爵令嬢のこと)を気にしているようだったので、今回は遠慮なく彼の名を借りることにしたのだった。
だが、侯爵である二人が主催の茶会となると、格が高くなってしまい参加者達は気後れしてしまうのではと思われた。そのため、誰でも参加できるとあらかじめ明記しておき、もしものために貴族用、平民用、どちらでも良い席を用意しておく。
「……これで大丈夫かしら?」
首を傾げるフェリシアに
「情報、必要ですか。茶会に必要なものを、揃えられる自信があります」
とメフィストが囁く。きっと彼なら、とても役立つ情報を持ってきてくれるだろうとフェリシアには確信があった。そのため、遠慮なく彼から情報を買うことにする。それに、彼も主催の一人に入っているのだから、料金は加減してくれるだろうと目論見もあった。
「ぜひとも。あなたの知っている情報を頂戴。言い値で買うわ。でも、払えるものにしてね」
「交渉成立ですね」
フェリシアとメフィストは笑い合う。
「では、この情報を渡しておきます。お好きに使って宜しいですよ」
そうして、彼は一冊の冊子をフェリシアに渡した。
彼からもらった情報は『この魔導書店周辺の貴族達、庶民達の好き嫌い』『魔導書店利用者の好き嫌い』などだった。そのすべてが、貰った冊子の中に入っていた。やはり、すさまじい情報収集能力だ。
「あとは平民の場合、治療していない可能性もありますので聞いておくべき免疫異常の項目なども用意しておきましたよ」
「ありがとう。さすが情報屋ね」
感謝を述べ「何か欲しいものがあったら、できうるものならあげるわ」と言うと、
「あなたと会った時に、追い返さないで欲しい。それだけで十分です」
とメフィストは返答した。見返すと、彼は真剣な表情をしている。
「それだけでいいの?」
「あなた、忙しい時だと私を蔑ろにするでしょう。それを、やめていただきたい」
フェリシアが訊き返せば、メフィストは少し悲しそうな表情をした。それを見、それが彼の本心らしいと、彼女は察する。来た時に、すぐに追い返さないで欲しいことが、彼の望みだと。
「でも。あなたと一緒だと、あっという間に時間が過ぎてしまうのだもの……」
やや言い訳じみたことをフェリシアは零した。彼との手紙を楽しみにしていたように、彼との会話はフェリシアにとって楽しいものだ。だから、気を抜くと周りの利用客を蔑ろにしてしまう可能性がある。それは、店を運営しているフェリシアにとっては死活問題に直結するのだ。
「そんな理由で、私を追い返していたのですか」
「私にとっては大事な話よ。お仕事中なんだから」
呆れるメフィストになんだかいたたまれなくなり、フェリシアは視線と顔を少し逸らす。よく考えてみれば、すぐにメフィストを追い返さずとも、程よいタイミングで話を切り上げれば済む話だからだ。
「そうですか。理由が聞けただけでも、よかったとしましょう」
どうにか、メフィストは赦してくれたようだ。次からは気を付けよう、とフェリシアは決心する。
×
茶会当日となった。
今回の茶会は茶菓子や花を愛でるようなもので、買った商品の金額に応じてくじ引きも引けるようにした。くじ引きの商品は文房具や、フェリシアの手作りの品などだ。一等は、専用の席を用意するというもの。
「専用の席を用意するなんて、豪華ですね」
「だって、友人達を呼んで盛り上げて欲しいじゃない。宣伝にもなるし、私達にも損はないわ」
驚くマリーに、フェリシアは理由を説明する。飲食店の方は、思いのほか広いのだ。だから、専用の席を用意するなど何も手間でない。
×
「やった、刺繍紐が当たりました!」
ウィリアムは目的の品を引けたらしい。
「……また、茶葉の詰め合わせが当たりました」
「菓子の詰め合わせですね」
どうやら、ジョンとメフィストはくじ引きを引いたらしい。だが、彼らは目的の品は当たらなかったようだ。
「もう一度、引きましょうかね」
「次こそは当てます」
「お金に任せて何度も引くのは推奨されないわ」
そう、フェリシアはメフィストとジョンに注意をする。
「……本当に当たりくじが入っているのですか?」
「そうね、確かに入れたわよ。運命の神が振り返ってくれなかっただけかもしれないわね」
メフィストが問い返すが、フェリシアは肩を竦めただけだ。侯爵だというのに、当たりくじを引けないとは。
「むしろ、茶葉の詰め合わせと菓子の詰め合わせが当たりなのではないかしら?」
くすくすとフェリシアが笑うと、メフィストとジョンも笑った。
「では、あと一度だけ」
「あきらめが悪いわね……何が欲しいの?」
ジョンはあきらめた様だが、メフィストはもう一度引くつもりらしい。それに呆れをにじませ、フェリシアはため息交じりに問うた。
「あなたが手作りした小物ですね」
「それくらい、作ってあげますわよ」
売り上げに貢献してくれるのは助かるが、くじ引きの商品がむやみに減るのは好ましくない。なのでそう提案すると、「分かりました。では、作ってもらう小物について考えておきます」と、メフィストは引き下がってくれた。
「……ともかく。元婚約者との問題が解決して、よかったですね」
あらめて、メフィストがフェリシアに声をかける。
「そうね。これで多分、問題は解決したはずだけれど……」
フェリシアはやや歯切れ悪く答えた。
「何か、まだ心配事が?」
「それはたくさんあるわ。これからの経営をどうしようかしら、とか。未来のことは、誰にも分からないのだもの」
「確かに。……では、占術師である私が占って差し上げましょうか?」
「それは良い考えね。一番良い占いでお願い」
「かしこまりました」
そうしてメフィストはフェリシアの手を取る。
「……大丈夫ですよ。大きな悪いことは起こりません。私が保証してあげます」
「そう? それならよかったわ。占ってくれてありがとう」
気休めかもしれないが、メフィストに背中を押してもらってフェリシアはなんだか安心したのだった。
そうして、茶会は問題なく終わったのだ。




