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魔導書店を受け継ぐことになりました。-不倫した婚約者を婚約破棄したら、10年来のペンフレンドに距離を詰められました-  作者: 月乃宮 夜見


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過去店主

「着きましたよ。こちらです」


 メフィストはフェリシアを振り返る。

 着いた場所は、以前の魔導書店を思わせる古い雰囲気の屋敷だった。


「……綺麗なところですわね」


植物は適度に手が入っているようで整えられており、建物も植物に侵食され過ぎていない。


「中に入って良いそうなので、入りましょうか。ヨハンさんは、庭にいらっしゃるようです」


ちら、と連絡端末を確認した後、メフィストはそう教えてくれた。


 庭は綺麗に手入れされ、古い城のようだった。


「ようこそ、おいでくださいました」


庭の奥にいたのは、記憶の中と寸分違わない姿のヨハンだった。

 途端に、なんだかフェリシアはとても懐かしい気持ちになる。


「お二人で来てくださるとは、よかったよかった。では、こちらに」


付いてくるよう言われ、従うと屋敷に到着した。


「ここが、私の住処です。生きた人間の来客は、久しぶりですな」


かんらかんらと、ヨハンは笑う。(どこが笑うところだったのか、フェリシアにはよく分からなかった。)


 フェリシアとメフィストの二人は、そのまま屋敷の中に案内される。屋敷の中も、やはり古い雰囲気の建物だ。目に付く所全てに、何かしら魔術が刻まれているし魔導書らしき本が置かれていた。以前の魔導書店らしさが、そこかしこで見受けられる。


「私の趣味です。これでも、私が若い頃は『センスが良い』と言われておりましたぞ」


ヨハンはまた笑う。


「ええ。実に古臭くて、懐古趣味の方にとっては大変良いご趣味ですね」


そうメフィストがとんでもないことを返した。フェリシアは慌てるも、「古いものは良いものですぞ」とヨハンは全く気にした様子が無い。


 最終的に応接間に通され、フェリシアとメフィストは席を勧められる。来客用のソファに、二人は腰かけた。

 茶菓子も出され、それもやはりどことなく古い(いわゆる祖父母の家で出される様な)菓子だ。「茶も昔の流行りですね」とメフィストは笑っていた。


「何か聞きたいことがあって来たのでしょう。遠慮なく聞きなされ」


 向かいに座り、ヨハンが促す。


「魔導書店にあった、不老不死の魔導書……あれは、何ですか?」


フェリシアは、真っ直ぐにヨハンを見つめた。


「ほう、とうとう見つけましたか」


ヨハンは嬉しそうだ。


「あれは、私の前の魔導書店の管理人が悪ふざけで作り、私が封印した本です」


「悪ふざけで作られた本、ですか」


ヨハンの言葉に、メフィストが苦笑する。何か、メフィストは知っていそうだ。


「ええ、あまりにも(タチ)が悪い。悪意を持つ者を引き寄せてしまう、悪い本です」


そう、ヨハンは答えた。


「悪意を持つ者?」


「いわば、悪人の釣り餌ですな」


フェリシアが首を傾げると、ヨハンは補足した。不老不死を求める者は悪人であると断定する。どうやら、不老不死を求める者は総じて性質が悪いらしい。


「……話せるのは、これくらいですな」


ヨハンはそう告げた。少なくとも、フェリシアが見つけたあの本が本当に不老不死に関連する魔導書だと確定したのだ。それだけでも十分だろう。


「ええ、十分ですわ。ありがとうございます」


お礼を告げ、フェリシアとメフィストはヨハンと別れた。


×


「どうでした?」


 帰りの馬車の中で、メフィストはフェリシアに問うた。


「意外でしたわ。あの本が本当に不老不死の魔導書だったなんて。でも、まだ分からないことがあるわ」


「分からないことですか?」


フェリシアは、口元に手を充てる。


「悪ふざけにしても、なぜ不老不死の魔導書を作ったのか……」


「それは簡単ですよ。『当主の命を延ばすため』です」


「『当主の命』?」


 やはり、メフィストはあの魔導書について色々と知っている様子だった。なぜ住青に教えてくれないのだろう、とフェリシアは内心で不満を持つ。だが、疑問が聞けるなら聞ける残したことはない。


「ヨハンさんの前の管理人は、当主に仕えていました。その当主を延命したくて、作り出したそうです」


「……なぜ、あなたが知っているの?」


思わず、メフィストに問うた。


「その作成者が当主の伴侶であり、私の祖父だからです」


「あなたの……祖父?」


衝撃的な話だ。彼から普通の話を普通に聞いた記憶があまりないな、読屋や余分なことが過る。


「ええ。実に、愚かしいですよね」


彼はどこか自嘲じみた、愁いを帯びた表情をした。


「ともかく。これであなたの謎は解けましたか?」


「……そうね。また細かい話は今度聞かせてもらえるかしら?」


「はい、もちろん」


 恐らく、『なぜ当主の命を伸ばそうとしたのか』このあたりの話になると長くなるだろう。それよりも、フェリシアにはメフィストに訊きたいことがあった。


「あなたの祖父が『当主の伴侶』と言うことは。メフィスト、あなたは当主の血筋なの?」


「ええ、そうですよ。言いましたでしょう? ()()()()()()()だと」


にこ、と彼は微笑んだ。


「……それは」


確かに彼が言った言葉だ。良くよく思い出してみれば、『フロンス』と言う分家は侯爵から大公爵の身分にしかつかないのである。そして、その分家となる身分は、()()()()()()()()()。つまり、彼の本家は侯爵を超えた身分なのだ。

 呪猫(フェレス)で侯爵より上の身分など、フェレス大公爵しかない。


「ふふ、うっかりしていますね」


口元に手を遣り、メフィストは微笑んだ。


「だって、急なことでしたもの」


むっとして、フェリシアは言い訳を口にする。だが、考える時間はいくらでもあったのだ。これはどう考えてもフェリシアの落ち度だった。


「言ったでしょう? 身分で態度を変える方は苦手だと」


「そうね」


 態度を改めた方が良いかしら、なんて思考しているとメフィストがそう声をかける。その声色は、そこか真剣みを帯びていた。


「あなたとは親しい間柄で居たいのです。身分の差なんて、血筋以外に在りません。私もあなたも、侯爵なのですから」


「私、家督は譲られませんわ。だから、家を出て行ったら何の身分も持たない……」


「それでも、私とあなたは対等です」


「……メフィスト」


「まだ時間はあります。あの元婚約者をどうするか、作戦でも立てますか?」


 メフィストが話題を変えた。これ以上は話し合うつもりは無いようだ。


「そうね。でも、マリーやニコラス達にも協力してもらわないと」


フェリシアもそれに乗ることにする。

 メフィストと一緒に作戦を練れば、元婚約者を確実に懲らしめられそうだと感じられたからだ。

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